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誓いの拳

No.4 明かされた秘宝

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「この時計は今どこにあるんですか?」
テリーは小声で質問した。

「ここに置いておくには物騒だからな。親戚に神社の神主がいて、そこで預かってもらっている。お父さんが帰ってきたら一緒に取りに行くといい」
東堂は小声で答えた。

「ボクが持っている写真では、この箱は映ってませんでした、少しポーズも違うような‥‥」

「おそらく、北村さんが撮ってくれた写真を持っているんじゃないか?この日は確か勝道館との合同稽古だったはずだ」

「北村さんは時計マニアらしいからな。稽古の写真を沢山撮ってくれたが、時計の写真も沢山あったな!はっはっは!」
東堂は豪快に笑った。

「この時計の事を知ってる人は、誰がいますか?」
テリーは口に手を当てながら質問した。

「カヨは知っているぞ。あとは‥‥北村さん経由で、勝道館関係者はほとんど知っているかもしれないな‥‥ある日、知らない人が『時計を譲って欲しい』と道場に来た事もある」

「あまりにも時計の行方を聞いて来る者が絶えなかったので『無くしてしまった、道場のどこかにあるはずだ‥‥』と話している。カヨには殺されかけたよ!はっっは‥‥」
東堂は乾いた笑い声を上げた。

「何でそんなを流したんですか?」
テリーも苦笑いをした。

「みんなに時計の存在を忘れて欲しかった。勝道館は黒須病院と繋がりが強いし、黒須病院はお金持ちとのパイプがある。万が一、泥棒に入られでもしたら竜司に顔向けできんからな」
東堂は道着の袖を軽くはたいた。

「どうしてママさんにも内緒にしたんですか?」

「もし厄介事が起きたとしても、カヨを巻き込む訳にはいかないからだ。あの時計は人を魅了する力がある‥‥北村さんも魅了された一人のようだ」
東堂は再び声のトーンを落とした。

「話して頂きありがとうございます。でもママさんには伝えておいた方いいと思います。今から報告に行きませんか?」
テリーはゆっくりと立ち上がった。

「いいだろう、あれは理恵の物だ。それにしても‥‥あの時計を受け取った時、すぐに隠すべきだったな」
東堂は逆立った髪を手で整えると、立ち上がった。

「物の価値って人それぞれですよね‥‥。東堂館の『宝』と言えば何ですか?」
テリーは薄笑いを浮かべながら東堂に質問した。

「ん?そりゃあ、お前たち門下生だろ」

「‥‥ぶふっ!東堂さんらしいや!ははは!」
テリーは東堂の即答に思わず吹き出した。

時計の在りかをカヨに報告すべく、テリーと東堂は道場を後にした。道場の施錠はOBの門下生が引き受けてくれた。

「帰ったぞー」
「お邪魔しまーす」

「‥‥」

「カヨー!いないのかー?」
東堂は洗面所で手を洗いながらカヨを呼んだ。

「ママさんがいないなんて珍しいですね」
テリーはリビングの照明を付けた。

「実はそうでもないんだ。病院へ見舞いに行ったり、道場繋がりの友人と会っている時があるんでな、すまん‥‥」
東堂はリビングの床にあぐらをかいた。

「いえいえ、いきなり来たボクが悪いので‥‥そうだ、ボクに晩御飯作らせてください。自炊は慣れてますから!」

「ほぉー、それはありがたい!恥ずかしながら、うちで料理をするのはカヨだけだからな」

「腹筋して待っていて下さい!」
テリーは手を洗い、支度に入った。

東堂は親指を立てると、床に沈んでいった。

「えー‥っと、しゃぶしゃぶ、いや‥豚しゃぶパスタと、味噌汁、もやしキュウリナムルでいけるか」
テリーは冷蔵庫を開けると、メニューを考えた。
「‥ん?なんだこれ?」
野菜室から新聞紙に包まれた食材を取り出した。

「え!?なんで、ここに‥‥?」
包まれていたのは食材ではなかった。

「東ど‥っ」
テリーは東堂に伝えたい気持ちを押し殺し、夕食を作った。

‥‥
‥‥‥

次の日、テリーは授業を終えると暗知の事務所へ向かった。暗知に呼ばれていたのだ。
「お疲れ様でーす」

「お疲れ様。『宝』について、わかったかい?」
暗知はコーヒーを入れようと席を立った。

「ほぼ‥‥わかりました」
テリーがボソッ呟くと、暗知は小さく拍手をした。

「では、まず私から。二重尾行の件、任務を果たしたよ。これさ‥‥」

テリーは暗知から写真を渡された。
「ママさん‥‥」

東堂カヨが変装している写真だった。
黒須病院内、付近を張り込んでいる様子が写っていた。

「受けてしまった依頼だ、北村さんには報告しておいたよ」

テリーは暗知の話を落ち着いて聞いていた。

「理恵ちゃんの方はどうだい?」
暗知は丸テーブルの椅子にゆっくり腰を下ろした。

「はい。『宝』が何なのかはお伝えできませんが‥‥大変高価なものです。ママさんは何かしらの方法で手中に収めた」
テリーは暗知と対面するように丸テーブルの椅子に座った。

「黒須病院は多額の医療費を取るようです。ママさんは北村さんに『宝』を譲る事で、タケシの病を治すのと、あわよくば道場売却も白紙に戻そうと考えているんだと思います。これがボクの推理です」

「それはオールOKな話じゃないか!」
暗知は両手を上げた。

「はい!‥‥そうなると良いです!」
テリーは目一杯の笑顔で答えた。

「‥‥何か隠しているね」
暗知は眼鏡の位置を手で直した。

「‥‥いえ、別に‥‥ではこれから稽古があるので」テリーはバックを手に掛けた。

「確かめたいことは無いかい?」
暗知はGPSバッヂをテリーに見せた。
「北村さんへ調査結果を報告した時、カヨさんと会って話すと言っていたよ。明後日、親善試合の日にね」

「このバッヂをカヨさんに身につけさせる事が出来れば‥‥当日、二人の様子を観察できるよ」

「‥‥わかりました、お願いします。ただ、バッヂの見た目を少し可愛く出来ますか?」
テリーはサンプルの画像を携帯電話で検索し、暗知に見せた。

「よし、ブローチ型に改造してみよう」 
暗知は工具ケースを取りに席を立った。

次の日の夜、練習後にテリーは東堂の家を訪れ、向日葵を模したブローチをカヨへプレゼントした。
「明日の試合の時に付けていくわー!」
と喜んでくれた。
テリーは「襟に付けると可愛いです」とカヨにアドバイスすると帰宅した。

‥‥
‥‥‥

次の日、東堂館最後の試合の日が来た。道場内には多くの関係者、地域の住民が訪れていた。

「これより東堂館、勝道館による親善試合を始める」

「開会の儀として、勝道館:館長 勝道氏よりお言葉を頂戴したい」
東堂が勝道館陣営に一礼した。

東堂館陣営に座るテリーに向かって、道場入り口の暗知が両腕でOKマークを作り合図した。

(動いたか‥‥)
「ちょっと‥‥すみません‥‥」
テリーは立ち上がると、そそくさと暗知のもとへ向かった。

「開会式が始まってすぐ動きがあった。こっちだ」
暗知はテリーと早歩きでパソコン上で動く、赤い点を追った。

「‥‥ストップ‥‥はい、これ」
暗知はワイヤレスイヤホンをテリーに渡し、自分の分も片耳につけるとパソコン操作を始めた。
ママさんが襟に付けている『向日葵ブローチ』はマイク・GPS機能を備えているようだ。

赤い点は道場の隣にある、離れの小屋を示していた。
道場の閉館決定前から、すでに取り壊しが決まっており、中には瓦礫もチラホラ見える。
テリーと暗知はゆっくり小屋に近づくと、窓ガラス越しに様子を伺う事にした。

「カヨさん、私に聞きたいことがあるんじゃないでしょうか、ここ最近、私を見張っていましたね?」
北村はニッコリ笑った。テリーも一度見た事がある、あの表情だ。

「‥‥すみません。黒須病院の噂が気になって‥‥先生は、よくご遺族のお宅を訪問されているのですね」

「‥‥はい。それを確かめる為ですか?」

「えぇ、後をつけたりして、ごめんなさい」

「仕事の一環ですので‥‥それより一つお願いがあります、東堂さんにはまだ話していないのですが」

「また時計の事ですか?」

「はい。ここ数週間血眼になって私も探しましたが、やはり見当たりませんね‥‥本当に道場内にあるのでしょうか?」

「私も主人から『道場で無くした』と聞いております」

「しかし‥‥来月から道場の取り壊しが始まってしまいます。重機に触れでもしたら、いくらあの時計でもただじゃ済まないでしょうー‥‥」

「何が言いたいのですか?」
カヨは目を伏せた。

「本日の試合終了後、我ら勝道館で道場を捜索させていただけませんでしょうか?多少の荒っぽさには目をつぶって頂きたいです。見つけましたら必ずご報告いたしますので!」
北村の目は笑っていなかった。

「‥‥‥‥それなら不要です。ここにあります」
カヨは一呼吸置くと、ショルダーバッグから『重厚な造りの箱』を取り出した。

「お、おおー!!一体どこで見つけたのですか!?」
北村は目をひん剥いて絶叫した。

するとカヨは箱から時計を取り出すと、何の迷いも無く時計を地面に叩きつけた。

か弱く、虚しい金属音が小屋の中に響いた。
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