鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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序章

Prolog

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真っ暗な空間が広がっている。
伸ばしたはずの白くて美しいと言われた手も見えないほどの漆黒。
一切の色、音、匂いすらない空間に彼女はいた。

幸せに暮らしていた。
記憶の中にいる彼女は美しく微笑み、彼女が信頼する仲間と共に暮らしていた。
しかし、その幸せな暮らしは突然壊された。
何が起こったのか理解するのが瞬き一回分遅れた。

穴に落ちたのだ。仲間と共に。
いや、吸い込まれたと言って良いだろう。
穴の中は様々な力が蠢く異空間で、彼女は仲間の身体が歪み消されていくのを目撃することになった。
自分の身体とて血肉を引き裂かれる痛みに苛まれている。しかし、愛しい仲間、眷属達を失うわけにはいかなかった。
忌々しい穴に落とされた時に自分よりも先に崩壊していく仲間達の魂を自身の中に閉じ込めた。
肉体が滅びても仲間の魂は自分の核の中に。閉じ込めることが出来なかった幾つかの魂は、細い、細い糸で辛うじてはぐれることなく、激流からある澱みへとたどり着いた。光の存在となった彼女は、澱みの中で仲間の気配を探った。繋いだはずの糸が切れて数人の仲間が澱みの奥底へと消えてしまった。
大穴のさらに奥にある穴に入れば死ぬかもしれないが仲間がいるのなら寂しくはない。
日の当たらぬこの空間は彼女の心を落ち着かせた。
(何が起こった?)
改めて冷静な思考で現状を把握していく彼女は、自分の中に意識を集中させる。
(みんな無事?)
問いかけに答えはない。
彼女はもう一段階深い場所へと問いかける。
(みんな無事?)
仄暗い明かりが彼女の意識の奥底で灯る。
(何人かは弾かれたか……。)
何人かの仲間が消えた穴に入ろう。
たとえ死んでしまったとしても彼らとはまた会える。
そして、もし生き残れたなら、彼女を初めとした魂に肉体を与えなければ本当に幽玄の世界でしか生きられなくなるだろう。
早くこの空間から出なければ。
奥底の穴へと沈んだ彼女は落下が収まると自分が先ほどの澱みとはまた違う空間にいることを悟った。
(ここは、意識の海の奥底だ。)
彼女と言う光の物体は、深い深い深海から空を目指し移動する。水面を感じた彼女はあるはずのない腕を伸ばした。
彼女の魂は人型をとり、闇の中を上へ上へと上っていく。
重い暗闇の卵の殻を破るように伸ばした手が硬い水面に届き彼女は目いっぱいの力をぶつけた。
ひび割れた水面から光が差し込むのを感じた。
彼女を取り巻いていた漆黒の闇が淡いものへとかわっていく。
(旦那様………)

そして、彼女は目を覚ました。


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