魔女っ子、死にたまふことなかれ

山神まつり

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第四話 同調

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『貴様等がもだえ苦しんでいる姿を見ることが、俺のエナジーとなるのだ』
「……本当にいた」
エンドロールのテロップに、確かに【久我志苑】の名前が記載されていた。
フランチェスカを魔界にさらった張本人の息子で、魔族の王子であるアベルとして彼は確かに登場していた。ただ、まだ六歳くらいの少年に言わせるセリフではないと思う。
「フランチェスカはすぐにニーナさんって分かったけど、アベルは分からなかったなぁ……男の子って、大きくなると誰だか分からなくなるし」
流花は擦り切れるくらいに見返したDVDを何度も繰り返した。当時はまだビデオテープの時代で、もちろん録画をして見直すということは出来なかった。
日曜の朝という時間帯だったので、流花は時間に遅れないよう目覚まし時計をセットしてスタンバイしていた。
何度も見返さなくても、フランチェスカの優美な姿は、すぐに流花の心に刻み込まれた。だから、彼女のセリフだって一言一句間違えずに諳んじることが出来る。
魔法少女★デストロイヤー・マジカルのDVDBOXは、穂乃果さんが誕生日にプレゼントしてくれた。それから心に残った記録と、示し合わせるように休日に予定がない時はこうして観ていることが多い。
「……じゃあ、ニーナさんは子役時代からあの志苑という人と知り合いってことなのか」
だけど、戦闘の際に見せた二人に漂う空気感は、知己というものとは遥かに異なるものだった。志苑はニーナさんを戦闘におけるただの道具のような扱いだったし、ニーナさんはそんな酷い扱いをされながらも、悔しそうに彼を見やることしかしていなかった。
まるで、久我志苑とは違う人物として視線を向けていたような―――
「おはよぉ流花、あーまたそれ観てるの?本当に飽きないよねぇ」
昼過ぎにやっと起きてきた穂乃果さんは、まだ寝たりないのか大きなあくびをしながら言った。
「穂乃果さんおはよう。とは言っても、もうお昼過ぎてるよ。ブランチってことで今からフレンチトースト作るけど、食べる?」
「え、食べたい食べたい!流花の作るのって本当に美味しいんだもんーそこらのカフェに匹敵するほど」
「そんな褒めたって何も出ないよ。あ、でもフレンチトーストとクロックムッシュも作ろうか。ペシャメルソースを一から作るのは大変だから、ポタージュスープの素で代用すればすぐに出来るし」
「きゃー流花、愛してるー!」
穂乃果さんは後ろからがばっと抱き着いて、頬ずりしてきた。
普段、仕事に行く時はばっちり決める穂乃果さんがこんな風に甘えてくるのを流花は嫌じゃなかった。

週の初め、いつもの日常が始まってもくるみだけは変わらずちょっかいを掛けてきた。最近は、そんなくるみの行動に追従することを子供っぽいと思ったのか、いつもの取り巻きの女子たちはそんなくるみを遠巻きにし始めたような気がする。
くるみが話しかけると受け答えはするが、すぐに会話を切り上げて離れた場所に移動するようになった。それを気づかないはずもなく、くるみは歯噛みしていたが、それはむしろ流花の所為だといわんばかりに強く睨みつけるのだった。
(いい加減、無駄なことだって気づけばいいのに)
自然と大きなため息が零れてくるが、穂乃果さんの作ってくれた弁当を害するような行動がなくなってくれたのは心底有難かった。
お昼ご飯が終わると、教室にいると息が詰まるため、よく図書室か校舎から体育館に繋がるピロティ―などで日向ぼっこをすることが多かった。今日は思いのほか日差しがたっぷりで気持ちよさそうだったのでピロティ―に向かった。ピロティ―に繋がるドアに近づくと、そこには上級生の集団が固まって楽しそうに話をしていた。先日までは、誰も来ていなかったのに。特等席を取られたようで釈然としなかったが、流花は踵を返して図書館に行こうとした。
視線を上げると、そこに女の子が戸惑った表情で立ちすくんでいた。何かを話しかけたいのか、口を開いたり閉じたりを繰り返している。流花は首をかしげながら、記憶を辿ってみたが女の子に見覚えがなかった。
そもそもピロティ―に行きたいだけで、流花自身に用事があるのか分からない。流花はそのまま無言で女の子の横を通り抜けようとした。
「あ、あの、二年生の樋浦先輩ですか?」
先輩、ということはどうやら一年生のようだ。流花は足を止めると、後ろを振り返った。
「そうですが……」
「あの、私は一年二組の小野寺郁といいます。バレーボール部に所属しています」
バレーボール、そんな活動的な部活動には知り合いなどいないし、ますます接点で思い浮かばなかった。
「……先日の、校庭での戦闘に樋浦先輩がいたのを見ました。先輩も、覚えていますか?」
「―――!」
流花は息をのんだ。学校を半壊させるほどの規模の大きな戦闘だったとはいえ、ニーナさんと久我志苑が発動させた【お片付けタイム】で生徒たちの大多数がその時の記憶を抹消させられた。覚えていたは、流花だけだと思っていた。
「小野寺さんも、記憶があるの?」
小野寺―――郁は小さく頷いた。それと同時に、ほっと安堵の表情を見せた。
「よ、良かった……周りの誰もあの日のことを覚えていなくて、ただ、この中学校の制服の女の人が確かにいたことは覚えていたので、必死に探していたんです。樋浦先輩、どこの部活にも所属していないから、全然情報が足りなくて……」
「うん、まさか私以外にいると思わなかったから」
「樋浦先輩は、あの栗毛の女の子の知り合いか何かですか?」
「ただ、私だけが知っているってだけ。あの戦闘に参加したのも、たまたまで、ただフランチェスカじゃないニーナさんが危ない感じだったから助けたかっただけなの。私は飛び込んでいっただけで、部外者だから」
「でも、あの女の子は新見ニーナさんで、男の子の方はタレントの久我志苑ですよね」
さらっと口にした郁に、流花は瞠目した。
「え、小野寺さんの方が知ってるの?」
「モデルの新見ニーナさんですよ。小さい頃は子役でテレビ番組にたまに出演していましたけど、今は雑誌のモデルが主な活動媒体って感じですね」
「……知らなかった」
久我志苑が子役出身の俳優・タレントいうところまで掴んでいたので、本人からニーナさんの居所を聞き出そうとしていた。でも、訊いても一般人である流花にそう簡単に口を割ることはないだろうと思っていた。
「ありがとう、小野寺さん。雑誌とか読まないから、知らなかった」
「郁で大丈夫ですよ。でも、樋浦先輩、今日こうして話しかけたのは二人の素性を話すことが目的じゃないんです。樋浦先輩にも彼らに似た不思議な力があると仮定して、助けてもらいたいことがあるんです」
「助けてもらいたいこと?」
「戦闘の主な原因は、タコが擬態したような人間でしたよね?倒したことによって、普通の人間に戻っていましたけど、多分あの人だけじゃないんです。この日本、いや世界中にああいった人間の振りをしているのか、人間に擬態して生活しているのか、得体のしれない地球外生命体みたいなのがうようよしているんです。樋浦先輩も見ましたよね?」
「う、うん、見たけど―――」
流花のおどおどした話しぶりに、郁は微かに不愉快そうに片眉をひそめた。
「私の言うことが、オカルトめいたおかしなことを言ってると思っていますよね?そうじゃないんです。私の実に傍に、何かに擬態された人がいるんです。私、あの日からそういう不可解なオーラが見えてしまうようになってしまったんです」
一気にそうまくし立てると、すうっと大きく息を吸った。
「私の、兄です。普段は普通の人間として生活していますけど、紫色のもやっとしたオーラを纏っているのが、確かに見えるんです。家族の見ていないところで、その擬態が解ける時があるんです。兄は気づいていないと思います。いつか兄があのタコの化け物みたいに暴走するんじゃないかと、気が気じゃないんです。樋浦先輩、兄と会って見てみてくれませんか?私が噓を言っていないって、分かりますから!」
郁は制服の裾を掴みながら、必死な形相でそう訴えた。手がぶるぶると震えている。誰にも話せず、ずっと不可解な恐怖と戦い続けてきたのだろう。
「……分かった。だけど、私はニーナさんみたいにその擬態を倒すことは出来ないと思う。私は、ニーナさんに力を与えて、増幅させるだけみたいだから」
「それは、窓から見えました。樋浦先輩が新見ニーナに抱き着いたら黄色の光が注入されるのが、見えたから」
先日の戦闘をきっかけに、郁は人には見えないオーラや光のようなものが見えるようになってしまったようだ。
「とりあえず、そのお兄さんのところまで案内してもらっていい?あれ、小野寺って、もしかして―――」
「そうです、三年生の生徒会長の小野寺朔です」
どこか忌々し気に、郁は呟いた。
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