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意識が浮上し目を開けた。
ーー私、どうしたんだっけ?
ぼんやりした頭で考え、置かれた状況を確かめる。後ろ手に縛られ、知らない処に転がされているって?なんだこれ?どうしてこうなった?
ーー姿は、ラチェのまま。
小さな体を起こす。両手が使えないので苦戦した。
起き上がって、周囲も確認。一言で言うなら、汚い。閉め切られた窓。薬瓶と思しきモノで溢れた棚。机上に床にと、あちこち積まれた本と紙束。それにーー幾つも置かれた大小さまざまな…壺?水瓶?被せた布地できっちり封がしてあって、怪しいことこの上ない。それらに泥が付いていて、あまつさえ床にも散らばっている。ついでに赤黒い変な染みのオマケ付き。
まったく掃除の行き届いていない部屋だ。雑然と物があふれている。様子からして、仕事部屋みたいなのだけど。ホント、汚い。これでは落ち着かなくないか?
その汚い部屋がーーフランチェスカの部屋と同じ匂いがする。この部屋は薬師のものなのだろうか?だとすると、棚に並んでいるのは、やはり薬瓶か。
そうだ。薬師ーー
「フランチェスカちゃん」
その人は私をそう呼んだ。
ベルクラの町中。魔結晶の店を後にした、人のあふれる昼下がりの大通り。呼び止められて、振り向き私は元気よく返事した。
「あい!」
「~~~~っ!」
「…」
いちいち悶えないでほしい。
「フランチェスカちゃん、無事だったのね」
満面の笑みで口にされたのは、至極当然の台詞。そうだ。この人と別れたすぐ後に、魔物が現れたのだ。
「あい。おねえさんも、だいじょーぶでした?」
「ええ!もちろん」
くるりと一回転。なんともなっていないよと、私を見下ろしアピールする。ああ、よかった。
細い金細工のカチューシャをつけた、プラチナブロンドの長い髪がなびく。若草色のロングスカートが、ふわり広がる。見たところフランチェスカと同年代。なかなかの美人さんだ。
私が幼い姿で「フランチェスカ」を名乗ったのは、イーディスとこのお姉さんだけである。だからすぐに分かった。
そう。『庇護』を初めて発動させたあの日、手を引き私をファシオの広場まで送ってくれた、あの時のお姉さんだと。
「おねえさんは、おしごと、まにあいましたか?」
「んー?」
この世界に来てまだ数日だった時を思い出だし、問いかける。確かーー私を連れて歩いた後、彼女は仕事を忘れていたと慌てて去った。
「おしごとあるのに、わたしをおくってくれたから…」
「ふふふ。大丈夫よ、どうってことないから。あ~んな、商会の仕事なんか」
ん?
「しょうかいの、しごと…?」
「私、これでもクレマチス商会の技術者なのよ?」
「…え?」
クレマチス商会、ですと?
限りなく真っ黒と私たちが疑っている、あのクレマチス商会?
「私はね、薬師なの。『調合』の技能持ちだからちょっとしたモノを作れるのよ?」
薬師と名乗る者すべてが『調合』の技能を持っているわけではない。知識さえあれば、普通の薬は作れるわけで。
だけど、ユルがそうであるように、『調合』持ちなら普通ではないモノができ、重宝がられるのも確かでーー
ドクンッと、心臓が嫌な音を立てた気がした。
「おねえさんは、くすし?『ちょうごう』をもってる?」
「そう。クレマチス商会ってところはねえ、いろんな技能持ちを技術者として集めて、いろんな研究にお金を出してくれるの。で、その代わりにね、いろんなお仕事を頼まれちゃうわけ」
「いろんなおしごと…」
「あの日もね、新しい薬を試してみることになっていたのよ」
ドクドクと、心拍数が上がっている。
「あたらしい…くすり?」
「ふふ。なんだと思う?」
頬を汗が伝う。あれ?なにかおかしい?
「まったく。商会もせっかちで困るわ。あの薬、あ~んな使い方をするつもりじゃなかったのにね」
「おねえ…さん?」
「アレはね、メグたんのために作ったのよ?苦労したんだから。まず、ね?私ではホルルカの移住許可がおりなくてね?」
メグたん?なん、だ?彼女はなにを言っている?
「それは、どーゆー…」
「身元がちゃんとしてないと駄目なのよ。まあ、そこは商会が手を打ってくれたから、やっぱりちゃんとお仕事はこなさないと、かしら?」
お姉さんがしゃがんで目線を合わせ、小首を傾げた。邪気のない笑みが浮かぶ。それが何故か薄ら寒い。
私は知らず、一歩下がった。
ぐらり。あれ?上手くバランスがとれない?これだから幼児体型はーー
「大丈夫?フランチェスカちゃん、お顔が、真っ青よ?」
「だいじょー…」
お姉さんの良い笑顔。
あれ?なんだろう?おかしな光景が、お姉さん越しに見える。周りを歩いていた人たちが、バタバタ倒れてる?
あれ?待って、足に力が入らない。私も倒れてーー
お姉さんが、へたり込んだ私の顔を覗き込んでる。
「フランチェスカちゃん、貴女はだあれ?どうしてそんなに、おっかなびっくりな顔をしてるの?」
「わ…たしは…」
「フランチェスカとそっくりな、フランチェスカちゃん」
「え?」
それってーー
「貴女はなにを知ってるの?貴女はフランチェスカではないわよね?」
「おねえさ…」
「ねえ、分かってる?フランチェスカちゃんとフランチェスカちゃんのお父様、町では有名なのよ?」
「しって…」
「ねえ、どうしてフランチェスカと名乗ったの?ラチェちゃん」
「あ…」
動けない。ついには声も出せなくなった。
「ひょっとして、フランチェスカを捜してる?もしそうなら…残念だけど諦めて?だってフランチェスカは私がーー」
お姉さんの言葉を、最後まで聞き取ることはできなかった。
意識を失う直前までの記憶を思い出し、血の気が引いた。これはーー拙った!
ーー私、どうしたんだっけ?
ぼんやりした頭で考え、置かれた状況を確かめる。後ろ手に縛られ、知らない処に転がされているって?なんだこれ?どうしてこうなった?
ーー姿は、ラチェのまま。
小さな体を起こす。両手が使えないので苦戦した。
起き上がって、周囲も確認。一言で言うなら、汚い。閉め切られた窓。薬瓶と思しきモノで溢れた棚。机上に床にと、あちこち積まれた本と紙束。それにーー幾つも置かれた大小さまざまな…壺?水瓶?被せた布地できっちり封がしてあって、怪しいことこの上ない。それらに泥が付いていて、あまつさえ床にも散らばっている。ついでに赤黒い変な染みのオマケ付き。
まったく掃除の行き届いていない部屋だ。雑然と物があふれている。様子からして、仕事部屋みたいなのだけど。ホント、汚い。これでは落ち着かなくないか?
その汚い部屋がーーフランチェスカの部屋と同じ匂いがする。この部屋は薬師のものなのだろうか?だとすると、棚に並んでいるのは、やはり薬瓶か。
そうだ。薬師ーー
「フランチェスカちゃん」
その人は私をそう呼んだ。
ベルクラの町中。魔結晶の店を後にした、人のあふれる昼下がりの大通り。呼び止められて、振り向き私は元気よく返事した。
「あい!」
「~~~~っ!」
「…」
いちいち悶えないでほしい。
「フランチェスカちゃん、無事だったのね」
満面の笑みで口にされたのは、至極当然の台詞。そうだ。この人と別れたすぐ後に、魔物が現れたのだ。
「あい。おねえさんも、だいじょーぶでした?」
「ええ!もちろん」
くるりと一回転。なんともなっていないよと、私を見下ろしアピールする。ああ、よかった。
細い金細工のカチューシャをつけた、プラチナブロンドの長い髪がなびく。若草色のロングスカートが、ふわり広がる。見たところフランチェスカと同年代。なかなかの美人さんだ。
私が幼い姿で「フランチェスカ」を名乗ったのは、イーディスとこのお姉さんだけである。だからすぐに分かった。
そう。『庇護』を初めて発動させたあの日、手を引き私をファシオの広場まで送ってくれた、あの時のお姉さんだと。
「おねえさんは、おしごと、まにあいましたか?」
「んー?」
この世界に来てまだ数日だった時を思い出だし、問いかける。確かーー私を連れて歩いた後、彼女は仕事を忘れていたと慌てて去った。
「おしごとあるのに、わたしをおくってくれたから…」
「ふふふ。大丈夫よ、どうってことないから。あ~んな、商会の仕事なんか」
ん?
「しょうかいの、しごと…?」
「私、これでもクレマチス商会の技術者なのよ?」
「…え?」
クレマチス商会、ですと?
限りなく真っ黒と私たちが疑っている、あのクレマチス商会?
「私はね、薬師なの。『調合』の技能持ちだからちょっとしたモノを作れるのよ?」
薬師と名乗る者すべてが『調合』の技能を持っているわけではない。知識さえあれば、普通の薬は作れるわけで。
だけど、ユルがそうであるように、『調合』持ちなら普通ではないモノができ、重宝がられるのも確かでーー
ドクンッと、心臓が嫌な音を立てた気がした。
「おねえさんは、くすし?『ちょうごう』をもってる?」
「そう。クレマチス商会ってところはねえ、いろんな技能持ちを技術者として集めて、いろんな研究にお金を出してくれるの。で、その代わりにね、いろんなお仕事を頼まれちゃうわけ」
「いろんなおしごと…」
「あの日もね、新しい薬を試してみることになっていたのよ」
ドクドクと、心拍数が上がっている。
「あたらしい…くすり?」
「ふふ。なんだと思う?」
頬を汗が伝う。あれ?なにかおかしい?
「まったく。商会もせっかちで困るわ。あの薬、あ~んな使い方をするつもりじゃなかったのにね」
「おねえ…さん?」
「アレはね、メグたんのために作ったのよ?苦労したんだから。まず、ね?私ではホルルカの移住許可がおりなくてね?」
メグたん?なん、だ?彼女はなにを言っている?
「それは、どーゆー…」
「身元がちゃんとしてないと駄目なのよ。まあ、そこは商会が手を打ってくれたから、やっぱりちゃんとお仕事はこなさないと、かしら?」
お姉さんがしゃがんで目線を合わせ、小首を傾げた。邪気のない笑みが浮かぶ。それが何故か薄ら寒い。
私は知らず、一歩下がった。
ぐらり。あれ?上手くバランスがとれない?これだから幼児体型はーー
「大丈夫?フランチェスカちゃん、お顔が、真っ青よ?」
「だいじょー…」
お姉さんの良い笑顔。
あれ?なんだろう?おかしな光景が、お姉さん越しに見える。周りを歩いていた人たちが、バタバタ倒れてる?
あれ?待って、足に力が入らない。私も倒れてーー
お姉さんが、へたり込んだ私の顔を覗き込んでる。
「フランチェスカちゃん、貴女はだあれ?どうしてそんなに、おっかなびっくりな顔をしてるの?」
「わ…たしは…」
「フランチェスカとそっくりな、フランチェスカちゃん」
「え?」
それってーー
「貴女はなにを知ってるの?貴女はフランチェスカではないわよね?」
「おねえさ…」
「ねえ、分かってる?フランチェスカちゃんとフランチェスカちゃんのお父様、町では有名なのよ?」
「しって…」
「ねえ、どうしてフランチェスカと名乗ったの?ラチェちゃん」
「あ…」
動けない。ついには声も出せなくなった。
「ひょっとして、フランチェスカを捜してる?もしそうなら…残念だけど諦めて?だってフランチェスカは私がーー」
お姉さんの言葉を、最後まで聞き取ることはできなかった。
意識を失う直前までの記憶を思い出し、血の気が引いた。これはーー拙った!
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