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「騒ぎの時に、周辺にいた奴らを店に誘導してなあ。事なきを得た。寸前まで飛んできた虫が、ウチの前で向きを変えたんだぜ?大したモンだよ、あの灯りはよ。ガッハッハ」
ヤンセンさんが豪快に笑う。あの日持ち込んだ新しい灯りの魔結晶は、大いに役立ったらしい。良かった。
ぐるりを見渡す。色とりどりのガラス瓶。それらとちょっと不似合な、厳つい店主。そんなこの店は、お気に入りだったのだと思う。
「…なあ、本当に行っちまうのか?」
ヤンセンさんがぽつりと言った。
「あい」
「元々、長居する気はなかったからな」
答える私とイーディス。
「そうか…。寂しくなるなあ」
「なあに、ここにはまた魔結晶を、売りつけに来る」
「あい!」
「ーーっ!おうっ、いつでも来い」
男泣きするヤンセンさんを後に、店を出た。
この後挨拶するのはガラさんとーー一応、神殿にも顔を出しておくか。あの神官だったんだよね、ラチェが拉致されるのを目撃してたの。お陰で助かったわけだし、お礼は言っておかないとね。
その後はリズの町に行って、世話になった役所と娼館へ。ミネリさんと、ユーレリアさんの顔を思い浮かべる。それほど経っていないというのに、なんだか懐かしいな。
「ギルドにも顔を出すぞ」
「あー、そうですね。ばーつさんにもおせわになりました」
道すがら話す。ラチェ姿の私を抱えるイーディスは、変わらず視線を集めているがもう気にしないことにした。
今日、私たちはこの地を離れる。
漠然と考えてはいた。旅立つことは。きっと私たちは、一つ所に留まるべきではない。安住の地はここではない。
白い神の押し付けた役目を、全うする気は更々ない。もちろん、黒い神の言う役目もだ。
だけど、この世界のことをもう少し知りたいとは思っている。だから旅をすると決めた。
夕方すべての挨拶を終えて、ケイウォーク商店の扉を開けた。店の看板はすでに下ろされていた。
「主様、イーディスさん、おかえりなさい!」
カウンター前の椅子に腰掛けていたユルが、癒やしの笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。キルギスさん、ありがとうございます。ユルを預かってもらって」
ユルに挨拶を返し、カウンターの奥に立つ魔女に声をかける。
「構わんさ。ユルとは話が合うんでな」
「はい!キルギスさんと話すと、勉強になります」
いつの間に仲良くなったのやら。家と魔女は、笑顔を向けてくれた。今日のキルギスさんは眼鏡なし。うーむ。ゆるキャラとアダルト。妙な絵面だ。
「世話になったな。アーレイによろしく言っておいてくれ。その内、顔を出すとも」
イーディスがキルギスさんに言った。旅するからには、北大陸にもいつか行くつもりだ。魔王様には、是非会ってみたい。
それに、ラズロとアマリアが魔王様預かりとなった。蛞蝓のまま、ローレッタさんが連れて行ってしまったのだが、どうするつもりだろう。それも気になっている。
「ああ、分かった。伝えておく…はあ」
キルギスさんの返事は、ため息混じりだった。
「どうかしたんですか?」
アンニュイで、色気増し増しだ。
「キルギスさん、お店続けられなくなったそうです」
ユルが答えてくれた。
「え?なんで?このお店、なくなると傭兵は困ると思うんだけど」
「どうしたも、こうしたも。王に召還された」
「アーレイに?解せねえな」
キルギスさんの言にイーディスが呟く。
「まったくな。だが、おそらくーー」
「おそらく?」
「いや、まあそれはいいとして、これを渡しておく」
え?よくなくない?と思いつつも、キルギスさんが差し出すものを受け取った。
「これは?」
受け取ったのは一枚のコイン。
「それはケイウォーク商店の上客である証だ。各地にある同名の店にそれを見せれば、便宜をはかってくれる。持っていけ」
「あ、ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちの方だ。今回のこと、俺たち魔族を信用し話してくれて助かった。アーレイ様は、人との争いは避けたいと思っておいでだからな」
そう言って、屈託ない笑顔を見せた魔女。それは、多分拙いヤツです。『魔性』増し増しです。
結局、いろいろ訊きそびれてしまった。
リズの町を後にして、イーディスが問うてきた。
「さて、どこへ向かう?主サマ」
ユルがはずんだ声を出す。
「旅なんて初めてですっ」
私たちの旅装はとても身軽だ。腰に提げた得物以外は、なにも持っていない。当然だ。ユルがいるのだから。荷物は全部、ゆるキャラの中。ありがたや。
荒野のど真ん中でだって、野宿しなくていい。なんたって家が一緒に歩いている。
考えてみればとんでもない能力だ。『擬人化』で無尽蔵に人材を得て、『魅了』で従わせる。一大兵団を作ることだって容易い。白い神は実際のところ、それをやれと私をこの世界へ送り込んだのだろう。
でも、やってなんかやらないよ。アッカンベー。
隣を見下ろす。くるくる巻き毛のゆるキャラが笑っている。
反対隣を見上げる。美人で口の悪い聖剣が、道の先を見据えている。そして私の視線に気付き、こちらを見て口の端を上げた。
嫌な能力だと思っていたけど、なければ二人には出会えなかった。
「隣国へ。フランチェスカのことを、私は知りたい」
目的地を告げた。
腰に提げたレイピアの柄に手をかける。フランチェスカを知る手がかり。ホルルカへの移住を許された彼女は、身元のきちんとしたーーおそらく貴族。
メグたんの甲羅がエリクサーの材料となる知識は、元は彼女のものだとユルが教えてくれた。薬師としても一流の人。
それが何故、すべてを失ってここまで流れ着いた?
知りたい。この先、フランチェスカとして生きると決めたからには。もちろん、私は私だ。それでも、知らなければならないように思う。彼女のためにすべきことが、残っているように感じる。
だから、行く。行って確かめる。
さあ、行こう。
私たちの旅は、ここから始まる。
14 エピローグはプロローグ
☆☆☆☆☆
なんとか一区切りできました。一応完結とします。長々、お付き合いいただき、ありがとうございました。
行き当たりばったりのため後出しとなっていたエピソードタイトルを、一覧にしておまけで入れてみました。
ヤンセンさんが豪快に笑う。あの日持ち込んだ新しい灯りの魔結晶は、大いに役立ったらしい。良かった。
ぐるりを見渡す。色とりどりのガラス瓶。それらとちょっと不似合な、厳つい店主。そんなこの店は、お気に入りだったのだと思う。
「…なあ、本当に行っちまうのか?」
ヤンセンさんがぽつりと言った。
「あい」
「元々、長居する気はなかったからな」
答える私とイーディス。
「そうか…。寂しくなるなあ」
「なあに、ここにはまた魔結晶を、売りつけに来る」
「あい!」
「ーーっ!おうっ、いつでも来い」
男泣きするヤンセンさんを後に、店を出た。
この後挨拶するのはガラさんとーー一応、神殿にも顔を出しておくか。あの神官だったんだよね、ラチェが拉致されるのを目撃してたの。お陰で助かったわけだし、お礼は言っておかないとね。
その後はリズの町に行って、世話になった役所と娼館へ。ミネリさんと、ユーレリアさんの顔を思い浮かべる。それほど経っていないというのに、なんだか懐かしいな。
「ギルドにも顔を出すぞ」
「あー、そうですね。ばーつさんにもおせわになりました」
道すがら話す。ラチェ姿の私を抱えるイーディスは、変わらず視線を集めているがもう気にしないことにした。
今日、私たちはこの地を離れる。
漠然と考えてはいた。旅立つことは。きっと私たちは、一つ所に留まるべきではない。安住の地はここではない。
白い神の押し付けた役目を、全うする気は更々ない。もちろん、黒い神の言う役目もだ。
だけど、この世界のことをもう少し知りたいとは思っている。だから旅をすると決めた。
夕方すべての挨拶を終えて、ケイウォーク商店の扉を開けた。店の看板はすでに下ろされていた。
「主様、イーディスさん、おかえりなさい!」
カウンター前の椅子に腰掛けていたユルが、癒やしの笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。キルギスさん、ありがとうございます。ユルを預かってもらって」
ユルに挨拶を返し、カウンターの奥に立つ魔女に声をかける。
「構わんさ。ユルとは話が合うんでな」
「はい!キルギスさんと話すと、勉強になります」
いつの間に仲良くなったのやら。家と魔女は、笑顔を向けてくれた。今日のキルギスさんは眼鏡なし。うーむ。ゆるキャラとアダルト。妙な絵面だ。
「世話になったな。アーレイによろしく言っておいてくれ。その内、顔を出すとも」
イーディスがキルギスさんに言った。旅するからには、北大陸にもいつか行くつもりだ。魔王様には、是非会ってみたい。
それに、ラズロとアマリアが魔王様預かりとなった。蛞蝓のまま、ローレッタさんが連れて行ってしまったのだが、どうするつもりだろう。それも気になっている。
「ああ、分かった。伝えておく…はあ」
キルギスさんの返事は、ため息混じりだった。
「どうかしたんですか?」
アンニュイで、色気増し増しだ。
「キルギスさん、お店続けられなくなったそうです」
ユルが答えてくれた。
「え?なんで?このお店、なくなると傭兵は困ると思うんだけど」
「どうしたも、こうしたも。王に召還された」
「アーレイに?解せねえな」
キルギスさんの言にイーディスが呟く。
「まったくな。だが、おそらくーー」
「おそらく?」
「いや、まあそれはいいとして、これを渡しておく」
え?よくなくない?と思いつつも、キルギスさんが差し出すものを受け取った。
「これは?」
受け取ったのは一枚のコイン。
「それはケイウォーク商店の上客である証だ。各地にある同名の店にそれを見せれば、便宜をはかってくれる。持っていけ」
「あ、ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちの方だ。今回のこと、俺たち魔族を信用し話してくれて助かった。アーレイ様は、人との争いは避けたいと思っておいでだからな」
そう言って、屈託ない笑顔を見せた魔女。それは、多分拙いヤツです。『魔性』増し増しです。
結局、いろいろ訊きそびれてしまった。
リズの町を後にして、イーディスが問うてきた。
「さて、どこへ向かう?主サマ」
ユルがはずんだ声を出す。
「旅なんて初めてですっ」
私たちの旅装はとても身軽だ。腰に提げた得物以外は、なにも持っていない。当然だ。ユルがいるのだから。荷物は全部、ゆるキャラの中。ありがたや。
荒野のど真ん中でだって、野宿しなくていい。なんたって家が一緒に歩いている。
考えてみればとんでもない能力だ。『擬人化』で無尽蔵に人材を得て、『魅了』で従わせる。一大兵団を作ることだって容易い。白い神は実際のところ、それをやれと私をこの世界へ送り込んだのだろう。
でも、やってなんかやらないよ。アッカンベー。
隣を見下ろす。くるくる巻き毛のゆるキャラが笑っている。
反対隣を見上げる。美人で口の悪い聖剣が、道の先を見据えている。そして私の視線に気付き、こちらを見て口の端を上げた。
嫌な能力だと思っていたけど、なければ二人には出会えなかった。
「隣国へ。フランチェスカのことを、私は知りたい」
目的地を告げた。
腰に提げたレイピアの柄に手をかける。フランチェスカを知る手がかり。ホルルカへの移住を許された彼女は、身元のきちんとしたーーおそらく貴族。
メグたんの甲羅がエリクサーの材料となる知識は、元は彼女のものだとユルが教えてくれた。薬師としても一流の人。
それが何故、すべてを失ってここまで流れ着いた?
知りたい。この先、フランチェスカとして生きると決めたからには。もちろん、私は私だ。それでも、知らなければならないように思う。彼女のためにすべきことが、残っているように感じる。
だから、行く。行って確かめる。
さあ、行こう。
私たちの旅は、ここから始まる。
14 エピローグはプロローグ
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なんとか一区切りできました。一応完結とします。長々、お付き合いいただき、ありがとうございました。
行き当たりばったりのため後出しとなっていたエピソードタイトルを、一覧にしておまけで入れてみました。
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