お喚びでしょうか、ご主人様

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寂しい雨の日

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 ルルが戻ってきた日は1日べったりゴロゴロして、その次の日もべったりゴロゴロして。僕が小学校へ通う前、ルルに願い事を急かされていた頃の生活に戻った。
 変わったことといえば、ルルが大きい姿の時でも僕がまとわりつくようになったこと。僕にとってはかなり凄い変化なんだけど、ルルはあんまり気にしてないみたい。

 ちょうど梅雨に入って、雨が毎日毎日、飽きずに振り続けている。
 それを口実に僕はまた日がなぐーたら生活。晴れたら何かするからーって、言い訳しながら。
 実際僕は、昔から雨の日が嫌いじゃない。理由がなくても引きこもるけど、それでもなんとなく、引きこもってても仕方ないよね、雨だからね。みたいな気分になれるから。
 そんな感じで、何もしないまま二週間ほど過ぎてしまった。もう7月も目前だ。

「今年は梅雨、長い気がするなあ」

 今日は珍しく少し晴れ間がのぞいて、ルルは大量の洗濯物を嬉しそうに干していた。
 僕が小さなルルの姿でいてって望まなかったら、面倒な家事は魔力で済むのかもしれない。でも僕としてはやっぱり子供姿が嬉しいし、ルルが僕のために家事をするのを見るのも嬉しい。
 ルルに家のことを全部任せて僕は何してるかっていうと、ゲームやったり漫画を読んだり。夫婦だとしたらダメ旦那の極み。
 プレイしていたロリコン御用達エロゲーの1ルートをクリアして一息つくと、外から雨が降るような音が聞こえた。
 窓を開けて外を見ると、思ったよりも大粒の雨。
 確かルルはちょうど買い物に出掛けていたはず……。洗濯物、干したままだ。せっかく嬉しそうに干してたのに全部濡れてたら、きっと悲しむ。濡れてしまってもルルなら魔力で乾かしたりできるだろうけど、そういうことじゃないよな。
 僕は急いで部屋を出て、二階のベランダへ向かった。

「お……多」

 ……そ、想像以上に、たくさん干してある。これを一枚残らず取り入れるのは相当骨が折れるぞ。
 とりあえずハンガーものから部屋に入れて……。ソファに投げておけばいいか。後は……ズボンと、タオル。
 何回かベランダと部屋の中を往復していると、空からルルが現れた。
 黒い、翼なのに……まるで、僕を迎えにきた天使のようで、思わず見惚れた。

「ご主人様?」

 ルルは地に足をつけず、僕に抱きついた。浮いているせいか重さはほぼない。
 帰宅と同時に愛ある抱擁をされてどぎまぎする。
 ……まあ、愛云々はだったらいいなっていう僕の妄想だけど。

「お帰り、ルル」
「洗濯物を入れてくださったんですか?」

 回された腕にはスーパーの袋がかかっている。

「ルルは雨が降り出したから、急いで帰ってきたの?」
「はい。夕方までは降らないだろうと思っていたのですが……。スーパーを出たら降っていたので、ご主人様が寂しがっているのではないかと」
「僕が寂しいと降るの」

 詩人のような言い回しに思わずくすりと笑う。寂しがっているかもしれないから急いで帰ってきたっていうのも嬉しい。
 実際心配だったのは洗濯物だろうし、そういう言い回しをしただけだと思ったのに、ルルは真顔だった。
 いや、まあいつでも真顔なんだけどさ……。

「……えと。あの、本当に?」
「梅雨も明けないでしょう。貴方がそれを望んでいるから」
「え? え……?」

 これ、どこまで本気なんだ。ルルはすぐに中二病っぽいことを口にするけど、大抵投げっぱなしなんだよな。全部真に受けてたら僕が闇の能力者みたいじゃないか。
 ……違うな。能力者、と言うよりは。

「僕が望んでるから梅雨が明けないなんて、そんなカミサマみたいなさあ」

 確かに今年は梅雨が長いけど、それが僕のせいなら梅雨どころか365日雨じゃね? っていう。
 寂しいと雨が降るという意味もよくわからない。それがホントなら、ルルがいなかった数日なんて外は嵐だよ、嵐。それくらい寂しかったし。

「神様……ですか。ある意味、そうなのかもしれません」
「な、何が!?」

 ルルは僕から身体を離して、翼をしまった。そして何事もなかったかのように、部屋へ入っていく。

「あ……。雨、やんだ。ちょっ、ルル、待ってよ!」

 本当に、実は僕が選ばれし者だったみたいな、中二病っぽい展開が待ち受けてるんだろうか。僕はロリショタと平穏な日々と、あとできれば童貞捨てられさえしたら、それで良かったのに。今はルルが傍にいてくれればそれでいいと思っているのに。今更ファンタジーなんてやめてくれよ。
 ……や。悪魔が空飛んできて僕に抱きつくとか、もう一部の隙もなくファンタジーなんだけどさ、既に。

「ルル……」

 ルルは僕がソファへ投げ置いた服を手にとって、丁寧に畳んでいた。

「一緒に畳みますか?」
「うん」

 フローリングの床へ、並んで座る。

「ルル、さっきの」
「……少し、わくわくしましたか?」
「えっ?」
「ご主人様はこういうのがお好きかと」
「なんだ……。冗談か。本気で悩んじゃったよ。ハハ。だって、本当に梅雨も明けないし……」
「きっともう、すぐに夏ですよ」
「そうかな」
「はい」
「暑いからクーラーきいた部屋で毎日ゴロゴロしよ」
「結局変わりませんしね、ご主人様の行動は」
「あ。それもそうだった」

 でも。ルルとなら。海に行ったり山に行ったりしてみてもいいかって、ちょっと思ってる。
 子供の頃、夏休みにできなかったことを……ルルとしてみたいって。

「でも、もし、貴方が本当に神であったなら。何をしたいですか?」
「う、うーん。そうだな。……あー」

 前は過去に戻りたいって思っただろうけど、今は。
 このまま死ぬまで、ルルと幸せに暮らせるようにと。

 僕が神様なら魂を取られる心配もないしー。ルルを侍らせながら偉そうにしていればいいんだ。

 で、神様って他に何をすれば?

 ……他人と関わることなく、働かず遊びながら、この箱庭で下界のロリショタを眺めて暮らす。まさに今の僕。確かにある意味、神様のような暮らしをしている……。

「とりあえず、童貞捨てるかな」
「ご主人様……」

 なら私が捨てさせてあげましょう! なんて言ってくれる展開を期待していたわけではないけど。
 嘘、ほんの少しだけ期待してたけど、ルルは呆れた声を出しただけだった。
 神様になっても、ままならない。

「洗濯物、た……たたみおわっ……たよ?」

 ルルのと比べて、明らかにヨレヨレ。洗濯物ですらこれだもんな。僕はどうしてこうなんだろ。
 で、でも別に、ヨレてても着れたらそれでいいし。どうせ滅多に外へは出ないんだから。

「ありがとうございます」

 ルルは文句のかわりにお礼を言って、たたまれた洗濯物を僕の前でたたみなおすこともなく、まとめて手に取ってクローゼットにしまった。

「先程の話ですが。雨の日に二人で傘をさして出掛けるのも、悪くはないと思います」
「相合い傘で?」
「貴方が望むなら」

 ヨレヨレの服を着て、小さなルルとおててを繋いで歩く。僕の不審者感はすべて雨が包み隠してくれる……。確かに、悪くない。むしろイイ。

「じゃ、じゃあ、明日も雨が降ったら……。出掛けても、いいよ」
「はい」

 急に晴れるわけないし、明日は久しぶりにお出かけかあ。
 ショタとデー……。って、なんで妄想の中のルルおっきいの? 相合傘的にバランス悪いから?
 ああ、どうしよう。なんかやたらドキドキしてきた。別にもう大きいルルでもいいから……とにかく、一緒に……。




 次の日は、それはもう、抜けるような青空だった。
 どうやら梅雨明け……したみたい。
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