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新作
お見舞いイベント
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風邪を引いてしまった。
前に檜垣くんが熱を出してぼくがお見舞いに行ったことがあるけれど、今度はその逆だ。
愛しの恋人が見舞いに来てくれるというので、ぼくは……。
「檜垣くんが来たら面会謝絶だって追い返して」
そう母親にお願いして寝た。
いや、だって絶対ろくなことにならないだろ。
お見舞いイベントというのは。長く続いている少女漫画なら、一度は起こる定番イベントである。
そして大抵、主人公は悲惨な目にあう。
ぼくは詳しいんだ。
もちろん、これは現実だ。そんなコメディみたいなことは起こらないだろう。
だがしかし。檜垣くんのことだから、無理矢理にでもそんな展開を踏襲しかねない。
普通に看病してくれるならいいんだけどな。さすがに具合が悪い時に斜め上の気遣いはちょっと。
まあ。結局。
「大丈夫か、酒井。今、お前の母親が、しばらく出かけるから面倒を見ててくれって言って出かけていったぞ」
こうなるんだけども。
母親へのお願いは『どうせ喧嘩でもしてるんでしょ』程度に思われて終わったようだ。息子の危機なのに。下手したら本当に面会謝絶になりかねないぞ。
「うん……ありがとう……。でも伝染るから来なくていいって言ったのに」
「こ……恋人が、寝込んでいるのに、そういうわけにもいかないだろう」
じんわりと胸が温かくなる。弱ってる時に、これは効く。檜垣くんが何をしてこようとも、微笑ましく受け止められる気がしてきた。
「薬は飲んだか?」
「さっき……」
「わかった。ならお粥を作ってくるからキッチンを借りてもいいか?」
「いや、だから薬は飲んだし、お腹も空いてないって」
「そうか……」
予定が狂ったという顔をしている。これはヤバイ。
「檜垣くん。手、ぎゅってしてて。傍にいてくれるだけで嬉しい」
「酒井……」
むしろ傍にいる以外は何もしないでほしいという気持ちのほうが強かったんだけど、その手は意外と心地よかった。
熱があるのに、ぼくがあったかいって感じるくらい、体温を上げちゃってさ。こういうとこ、本当に愛しいな。
……檜垣くんは、なんだかんだカッコいいから。
あまり……カッコ悪いとこ、見られたくなかったんだけどな。
気づけばぼくは、手を握られたまま気を失うように眠っていた。
ぐっすり寝たのがよかったのか、起きると身体のダルさはだいぶ抜けていた。
檜垣くんはずっとついていてくれたようだったけど、今はお粥を作りにいっている。ぼくは顔を手で覆っている。
寝起きでぼんやりしてて、普通にウンッて言ってしまった……。
あとは美味しい出来上がりになっていることを祈るばかりだ。
砂糖と塩を間違えるみたいなベタなミスをしてきませんように。手料理下手なヒロインよりも、料理上手なヒロインのほうがぼくは好きです。
「できたぞ」
「はい……」
「なんだ、また具合が悪くなったのか?」
憂鬱さが顔に出ていたのか、檜垣くんがぼくの額に手のひらをあてた。
「熱は下がってそうだな」
もう片方の手にはお粥とジュースと水のコップが入ったトレー。
うっかりぶちまけてしまった! という展開もなく。
「起き上がれるか?」
「うん」
普通に食べさせてくれた。もちろん、当然のようにアーンしてもらった。味も美味しかった。変に疑っていたのが申し訳なくなるくらい。
この場合、ヒロインはぼくになるんだろうか。
ぼくの彼氏がイケメンすぎる……。
「美味しい」
「よかった。野菜ジュースも飲んでくれ。一応薬も飲むかと思って水も持ってきたけど、もう必要なかったかな」
変わった色をしてるジュースだなあと思ったけど、野菜ジュースだったのか。まさか、こちらに何か……。
「甘い」
「オレが好きなメーカーのなんだ」
市販のヤツだった。さすがの檜垣くんも他人の家でジュースを搾ったりはしないか。しかもきちんと味を知ってるものを買ってきてるのでハズレもない。
「檜垣くん、本当にありがとうね」
「いや……。オレも前にしてもらったし、今回きちんとお見舞いできてよかった」
こんなに健気な恋人を追い返す予定だったなんて、罪悪感がヤバイ。
いや……。彼の日頃の行いのせいだと思っておこう。
「ところで、その……。裸エプロンとか、するか?」
反省したそばからこれだよ。
「あのなあ。今度はどんな本を読んだんだよ」
「いや。これは、男の……浪漫、的な。一度はやってもらいたいと思うものでは?」
「少なくとも看病ではしないと思うよ。一部だけ元気になってもしかたないだろ」
「それもそうか。それによく考えれば男の裸エプロンなんて嬉しくないよな。服でごまかせないから女装も難しいし」
そう。男の裸エプロンなんて、見ても……。
「ま……、待って……」
「ん?」
「あの。やっぱり、見てみたい、かな……」
「無理するな。オレも諭されたら恥ずかしくなってきたし、気にしなくていい」
「ごめんなさい。本当に見たいです」
結論から言うと、イケメンは裸エプロンも華麗に着こなせるし、風邪にもよく効いた。
でも、次は元気な時に着てくれとお願いしたら、馬鹿だな次にこれを着るのはお前だよって言われた。
えっ?
前に檜垣くんが熱を出してぼくがお見舞いに行ったことがあるけれど、今度はその逆だ。
愛しの恋人が見舞いに来てくれるというので、ぼくは……。
「檜垣くんが来たら面会謝絶だって追い返して」
そう母親にお願いして寝た。
いや、だって絶対ろくなことにならないだろ。
お見舞いイベントというのは。長く続いている少女漫画なら、一度は起こる定番イベントである。
そして大抵、主人公は悲惨な目にあう。
ぼくは詳しいんだ。
もちろん、これは現実だ。そんなコメディみたいなことは起こらないだろう。
だがしかし。檜垣くんのことだから、無理矢理にでもそんな展開を踏襲しかねない。
普通に看病してくれるならいいんだけどな。さすがに具合が悪い時に斜め上の気遣いはちょっと。
まあ。結局。
「大丈夫か、酒井。今、お前の母親が、しばらく出かけるから面倒を見ててくれって言って出かけていったぞ」
こうなるんだけども。
母親へのお願いは『どうせ喧嘩でもしてるんでしょ』程度に思われて終わったようだ。息子の危機なのに。下手したら本当に面会謝絶になりかねないぞ。
「うん……ありがとう……。でも伝染るから来なくていいって言ったのに」
「こ……恋人が、寝込んでいるのに、そういうわけにもいかないだろう」
じんわりと胸が温かくなる。弱ってる時に、これは効く。檜垣くんが何をしてこようとも、微笑ましく受け止められる気がしてきた。
「薬は飲んだか?」
「さっき……」
「わかった。ならお粥を作ってくるからキッチンを借りてもいいか?」
「いや、だから薬は飲んだし、お腹も空いてないって」
「そうか……」
予定が狂ったという顔をしている。これはヤバイ。
「檜垣くん。手、ぎゅってしてて。傍にいてくれるだけで嬉しい」
「酒井……」
むしろ傍にいる以外は何もしないでほしいという気持ちのほうが強かったんだけど、その手は意外と心地よかった。
熱があるのに、ぼくがあったかいって感じるくらい、体温を上げちゃってさ。こういうとこ、本当に愛しいな。
……檜垣くんは、なんだかんだカッコいいから。
あまり……カッコ悪いとこ、見られたくなかったんだけどな。
気づけばぼくは、手を握られたまま気を失うように眠っていた。
ぐっすり寝たのがよかったのか、起きると身体のダルさはだいぶ抜けていた。
檜垣くんはずっとついていてくれたようだったけど、今はお粥を作りにいっている。ぼくは顔を手で覆っている。
寝起きでぼんやりしてて、普通にウンッて言ってしまった……。
あとは美味しい出来上がりになっていることを祈るばかりだ。
砂糖と塩を間違えるみたいなベタなミスをしてきませんように。手料理下手なヒロインよりも、料理上手なヒロインのほうがぼくは好きです。
「できたぞ」
「はい……」
「なんだ、また具合が悪くなったのか?」
憂鬱さが顔に出ていたのか、檜垣くんがぼくの額に手のひらをあてた。
「熱は下がってそうだな」
もう片方の手にはお粥とジュースと水のコップが入ったトレー。
うっかりぶちまけてしまった! という展開もなく。
「起き上がれるか?」
「うん」
普通に食べさせてくれた。もちろん、当然のようにアーンしてもらった。味も美味しかった。変に疑っていたのが申し訳なくなるくらい。
この場合、ヒロインはぼくになるんだろうか。
ぼくの彼氏がイケメンすぎる……。
「美味しい」
「よかった。野菜ジュースも飲んでくれ。一応薬も飲むかと思って水も持ってきたけど、もう必要なかったかな」
変わった色をしてるジュースだなあと思ったけど、野菜ジュースだったのか。まさか、こちらに何か……。
「甘い」
「オレが好きなメーカーのなんだ」
市販のヤツだった。さすがの檜垣くんも他人の家でジュースを搾ったりはしないか。しかもきちんと味を知ってるものを買ってきてるのでハズレもない。
「檜垣くん、本当にありがとうね」
「いや……。オレも前にしてもらったし、今回きちんとお見舞いできてよかった」
こんなに健気な恋人を追い返す予定だったなんて、罪悪感がヤバイ。
いや……。彼の日頃の行いのせいだと思っておこう。
「ところで、その……。裸エプロンとか、するか?」
反省したそばからこれだよ。
「あのなあ。今度はどんな本を読んだんだよ」
「いや。これは、男の……浪漫、的な。一度はやってもらいたいと思うものでは?」
「少なくとも看病ではしないと思うよ。一部だけ元気になってもしかたないだろ」
「それもそうか。それによく考えれば男の裸エプロンなんて嬉しくないよな。服でごまかせないから女装も難しいし」
そう。男の裸エプロンなんて、見ても……。
「ま……、待って……」
「ん?」
「あの。やっぱり、見てみたい、かな……」
「無理するな。オレも諭されたら恥ずかしくなってきたし、気にしなくていい」
「ごめんなさい。本当に見たいです」
結論から言うと、イケメンは裸エプロンも華麗に着こなせるし、風邪にもよく効いた。
でも、次は元気な時に着てくれとお願いしたら、馬鹿だな次にこれを着るのはお前だよって言われた。
えっ?
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