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先輩視点の番外編
心に、青空
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梅雨は嫌いだ。じめじめして、俺の好きな青空が見えない。
青い空の中、わたがしにも似た雲が浮かんでいるのを見るのが何より好きだ。
思えば去年はよかったな。
梅雨と言える梅雨はなかったし、後輩くんと付き合い始めたばかりで浮かれていた。
暑がりの後輩くんは家に行けば既にクーラーをきかせて俺は寒いしでイライラする。後輩くんもイライラしてる。
なんだかなあ、倦怠期ってヤツ?
執着心の薄い俺がこんなに長く好きでいられただけでも奇跡なのかも。
『先輩、好きです、大好きです』
本当に心から、俺しかいないって表情でそう告げてくる後輩くんを思い出すと、胸が痛んだ。
……情はすっかり移ってる。別れる気もない。別れようなんて言ったら、刺されそうだし。
でも俺は、本当に後輩くんを好きなのか?
こういうことを考えてしまうのは、俺が大学に入ってから中々会えていないせいもある。
この前二人でゴールデンウィークをかなり濃厚に過ごしたばっかなんだけどな。あの時までは確かに一生もんだと思ったのに。
やっぱみんな……梅雨のせいかなあ。
そんなことを考えていたら、タイミングよくメールがきた。
『今、家の前にいます』
って、タイミングよすぎだろ。
俺が考えてることがわかってるみたいだ。
ストーカー気質っぽくて、こういうトコはちょっと引く。
ドアを開けて出迎えた途端、そんなふうに考えたことを、盛大に後悔した。
「すいません。なかなか会えないから会いたくなって、口実にシュークリーム作ってきちゃいました。先輩これ、好きでし……」
俺は笑顔を向ける後輩くんの身体をぎゅっと抱きしめた。
申し訳なかった。謝りたい。大好きだ。ごめんな、あんなこと考えて。
「ごめん……」
「……なんですか、その謝罪。大学行って彼女でもできて、おれと別れたいって言い出すんじゃないでしょうね!」
「そんな訳ないだろ。好きだ、お前だけだ。景……」
「ちょっ、せ……先輩? どうし……んっ」
玄関だってのに、抑え切れずキスをしてた。
「シュークリームより、お前が食べたい」
「先輩……?」
「足りない。全然足りない。お前が……」
「そんなこと言って……。止まりませんよ、おれ」
すり、と俺の胸に額を擦りつけてから、後輩くんが震える指先で服の裾を掴んだ。
「少し……不安になってましたし。最近先輩、メールも電話もどこか素っ気なかったから……」
伊達に一年付き合ってない……か。
そうは見せてないつもりだったのに、後輩くんは俺の変化にきっちり気付いてた。
どれだけ不安にさせてたんだ、俺。ごめんな、景。
でも、もう大丈夫。
俺、後輩くんに毎日会えなくて、拗ねてただけみたいだ。
こうして直に会えて、どれだけ飢えていたかがわかる。
「そうしておけば、お前がこうして家にくるかなと思ったんだよ。引っかかったな、後輩くん」
さすがに拗ねてた、とは恥ずかしくて言えなかった。
言えば喜ぶだろうが、また可愛いとかふざけたことを言うだろうから。
「なっ……なんですか、それっ……! そんな、試すようなこと。先輩がうちにきてくださいよ」
「だってお前の部屋、クーラーききすぎで寒いしさ」
「が、頑張って抑えめにしますから……」
俺のために暑いの我慢しようって後輩くんが、ますます愛しくて仕方ない。
会えなかった分、想いが一気に溢れてくる。
「あー……。久々に抱きしめてると、すげー満たされてる感じがする」
「……おれ、いっぱい不安にさせられて、これだけじゃ満たされません」
「欲張りだな。どうしたい?」
「わかってるくせに……。今から貴方の部屋へ行って、身体の奥までたっぷりおれで、満たしたい」
「わかった。今日は、特別な。零さないように全部、飲んでやる」
「瑞貴さん……」
「だからまずは、一緒に風呂、入ろうぜ」
雨の中走ってきたのか冷えている後輩くんの身体を、早く暖めてやりたかった。
心も身体も全部、暖めてやるから……いっぱい好きだって言えよな。梅雨も吹き飛ぶような笑顔もよろしく頼む。
青い空の中、わたがしにも似た雲が浮かんでいるのを見るのが何より好きだ。
思えば去年はよかったな。
梅雨と言える梅雨はなかったし、後輩くんと付き合い始めたばかりで浮かれていた。
暑がりの後輩くんは家に行けば既にクーラーをきかせて俺は寒いしでイライラする。後輩くんもイライラしてる。
なんだかなあ、倦怠期ってヤツ?
執着心の薄い俺がこんなに長く好きでいられただけでも奇跡なのかも。
『先輩、好きです、大好きです』
本当に心から、俺しかいないって表情でそう告げてくる後輩くんを思い出すと、胸が痛んだ。
……情はすっかり移ってる。別れる気もない。別れようなんて言ったら、刺されそうだし。
でも俺は、本当に後輩くんを好きなのか?
こういうことを考えてしまうのは、俺が大学に入ってから中々会えていないせいもある。
この前二人でゴールデンウィークをかなり濃厚に過ごしたばっかなんだけどな。あの時までは確かに一生もんだと思ったのに。
やっぱみんな……梅雨のせいかなあ。
そんなことを考えていたら、タイミングよくメールがきた。
『今、家の前にいます』
って、タイミングよすぎだろ。
俺が考えてることがわかってるみたいだ。
ストーカー気質っぽくて、こういうトコはちょっと引く。
ドアを開けて出迎えた途端、そんなふうに考えたことを、盛大に後悔した。
「すいません。なかなか会えないから会いたくなって、口実にシュークリーム作ってきちゃいました。先輩これ、好きでし……」
俺は笑顔を向ける後輩くんの身体をぎゅっと抱きしめた。
申し訳なかった。謝りたい。大好きだ。ごめんな、あんなこと考えて。
「ごめん……」
「……なんですか、その謝罪。大学行って彼女でもできて、おれと別れたいって言い出すんじゃないでしょうね!」
「そんな訳ないだろ。好きだ、お前だけだ。景……」
「ちょっ、せ……先輩? どうし……んっ」
玄関だってのに、抑え切れずキスをしてた。
「シュークリームより、お前が食べたい」
「先輩……?」
「足りない。全然足りない。お前が……」
「そんなこと言って……。止まりませんよ、おれ」
すり、と俺の胸に額を擦りつけてから、後輩くんが震える指先で服の裾を掴んだ。
「少し……不安になってましたし。最近先輩、メールも電話もどこか素っ気なかったから……」
伊達に一年付き合ってない……か。
そうは見せてないつもりだったのに、後輩くんは俺の変化にきっちり気付いてた。
どれだけ不安にさせてたんだ、俺。ごめんな、景。
でも、もう大丈夫。
俺、後輩くんに毎日会えなくて、拗ねてただけみたいだ。
こうして直に会えて、どれだけ飢えていたかがわかる。
「そうしておけば、お前がこうして家にくるかなと思ったんだよ。引っかかったな、後輩くん」
さすがに拗ねてた、とは恥ずかしくて言えなかった。
言えば喜ぶだろうが、また可愛いとかふざけたことを言うだろうから。
「なっ……なんですか、それっ……! そんな、試すようなこと。先輩がうちにきてくださいよ」
「だってお前の部屋、クーラーききすぎで寒いしさ」
「が、頑張って抑えめにしますから……」
俺のために暑いの我慢しようって後輩くんが、ますます愛しくて仕方ない。
会えなかった分、想いが一気に溢れてくる。
「あー……。久々に抱きしめてると、すげー満たされてる感じがする」
「……おれ、いっぱい不安にさせられて、これだけじゃ満たされません」
「欲張りだな。どうしたい?」
「わかってるくせに……。今から貴方の部屋へ行って、身体の奥までたっぷりおれで、満たしたい」
「わかった。今日は、特別な。零さないように全部、飲んでやる」
「瑞貴さん……」
「だからまずは、一緒に風呂、入ろうぜ」
雨の中走ってきたのか冷えている後輩くんの身体を、早く暖めてやりたかった。
心も身体も全部、暖めてやるから……いっぱい好きだって言えよな。梅雨も吹き飛ぶような笑顔もよろしく頼む。
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