甘すぎるのも悪くない

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先輩視点の番外編

甘い膝枕

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 後輩くんの部屋に入って、いつものように雑誌を読む。
 こうしているだけで、甘い物と紅茶が出てくる、居心地のいい状態にもすっかり慣れた。
 もちろん、後輩くんが俺の家にきた時は俺が煎れてやってる。
 ……まあ『おれのカップには絶対、砂糖を入れて持ってこないでくださいね!』と必ず念を押されるんだが。
 
「今日のおやつは海外のチョコレートです」
「また変な、媚薬入りのとかじゃないだろうな」
「普通のですよ。前のだって嘘だったじゃないですか」
「ま、そうだけどさ」
 
 今日は何故か、コーヒーも紅茶も持ってきていない。後輩くんは俺の隣に座って、箱の中のチョコをひとつ摘んで差し出した。
 
「はい、あーん」
「ん」
 
 ちょっと照れたが、素直に口を開けて甘い塊を受け入れる。やった後輩くんのほうが頬を染めて、俺の腰にべたっとしがみついた。
 
「はあ……先輩……」
「……なんだよ」
「正座してください、正座」
「こうか?」
 
 後輩くんは俺の膝の上で仰向けになって、再びチョコを摘んだ。
 
「もう一個」
「ん……」
 
 なんだかわからないが、それも口に入れる。後輩くん、やたら幸せそうな顔をしてる。
 って、ああ。今気づいたけど、膝枕か。
 してほしかったのかな。可愛い奴……。
 
「今日クラスで、恋人の膝枕っていいよなーって話になって、おれも先輩にしてほしいなって」
 
 案の定そんなことを言い出した後輩くんの髪を優しく撫でてやる。
 
「そうか」
「先輩、素直にしてくれるんですね。おれの指から食べてくれるし」
「俺はいつだって素直だし、後輩くんには優しいだろ」
「はい……」
「でも、男の硬い膝枕なんて、してみたらがっかりか?」
「そんなことないです! おれにとっては、先輩の膝ってだけで……。それに、こうしてると先輩の匂いがしますし……」
 
 膝枕をしたまま、俺の腰をぎゅうっと抱きしめてきた。なんだか恥ずい。
 
「おい、嗅ぐな嗅ぐな」
「先輩、本当にいつも甘い匂いがしますね」
「まあ……甘い物ばっかり食べてるからな」
「好きだなあ……」
 
 そう言いながら、またチョコを摘んで俺の口に入れる。俺は指先まで絡めて舐めてやった。
 後輩くんがその指を舐めるのを見て、少しだけ体温が上がる。
 やばい。この状態で反応したら、即ばれるじゃないか。気が抜けないな。
 きっと何か仕掛けてくるに違いない……と思ったのに、予想に反して、後輩くんは目を閉じてそのまま眠ってしまった。
 ……なんだよ。ドキドキしてんの、俺だけかよ。らしくねえなあ、俺。
 可愛い寝顔。こんな可愛いのに、抱く時は野獣だよな、本当……。見た目だけで言うなら、絶対俺が抱く側なのに。
 でも今更、ずっと抱かれる側でいいですよって後輩くんが言ったとしても、それはちょっと寂しいと思うくらいには身体が慣らされてはいるんだけどな……。
 お前のせいだぞ。責任取れよな。
 
 気持ちよさそうに寝ている後輩くんの額にちゅっとキスをすると、嘘みたいにぱっちり目を開けた。
 
「ちょっ、お前寝てたんじゃ」
「寝てないですよ。寝られる訳がないです。だって貴方が膝枕しながら頭撫でてくれてるなんて、ドキドキしちゃって、ドキドキしちゃってそれどころじゃないです。みんなよく、恋人の膝枕で眠れるなって思いながら目をつぶってました!」
 
 寝てた訳じゃなく、寝ようとしていた、だけらしい。
 
「そして今ので完璧に火がつきました。責任取って下さい」
「……まあ、いいんじゃね」
「え、いいんですか?」
「うん……まあ。俺も、ドキドキしてたよ」
「本当ですか? 先輩いつもそうやって、余裕のある顔して……余裕ありそうに言うんだもん」
 
 お前が一人で寝ちまうの、寂しいと思ってる男が余裕なんかあるかよ。
 火なんか、とっくについてた。だから早く消せ、馬鹿。
 
 と思いながらも。
 
「余裕なんてねーって。ほら」
 
 そう、落ち着いた雰囲気のまま、甘ーいキスをしてやった。
 ヤッてる時は割りとみっともない姿見せてんだから、せめてこういうところくらいは、まだ上でいさせてくれよ。 
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