イケメンと五月病

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本編

デート

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 さすがに毎日拡張しに行くのは色々厳しい。油断すると俺のために自分で慣らしてしまいそうな支倉に、それはしてくれるなと何度も釘を刺しておいた。
 開発するのが楽しいんだ。一緒に初めてを楽しみたいんだと何度も告げると、やっと納得してくれた。
 本当は指だけじゃなく、なんかそういう、大人のオモチャ的な物があった方が楽なんだろうが、俺の指以外挿れさせたくなかった。それが支倉の指であっても。
 
 土日は必ず泊まって支倉の身体を開く。少しずつ指に馴染んでいくのが楽しい。抜き合ったりするのも気持ちいい。何より奥で感じてくれるようになったのが嬉しい。でも、最後まではまだしてない。




 梅雨が始まり、ここのところ雨の日ばかりになってきた。俺の好きなジグソーパズルの季節。雨降りとくれば自宅遊びだからな。なんとなく俺がそう思っているだけで、実際にはそんな季節はない。インドアとくればゲーム一択なこの時代にネクラっぽいとは自分でも思う。

 でも恋人と部屋でしっとりジグソーをやりたいというのは、俺の中でずっと夢だったので当然支倉を誘ってみた。休日一緒にパズルを買いに行かないかと。
 最近会えば部屋で抱き合うことしかしてなかったから、二人で出かけるのもいいかと思ったんだ。
 支倉は凄く喜んでくれた。こんなに喜んでくれるなら、もっと早く誘ってやれば良かった。
 いつも金曜は泊まりに行くが、デートと言えば待ち合わせからだろうと、駅前で待ち合わせ。実際俺は……ちゃんとしたデートは、これが初めてだ。
 
 俺はグレーの薄いパーカーTシャツにジーンズ、スニーカー。奴はダークブルーのシャツに高価そうな白のズボン。赤い薔薇でも持っていそうな雰囲気。そわそわ感が明らかに彼女を待っているような雰囲気で、後から登場した俺、声をかけにくすぎる。
 周りからの視線を集めている支倉は、きっと彼女待ってるのよーと囁かれ、逆ナンパは幸い免れていたようだったが……。
 そこで俺が現れたら、ぎょっとされるのは明白。しかも同クラスの美形ならまだしも、冴えない俺だ。
 かといって声をかけない訳にもいかず、俺はおずおずと声をかけた。
 
「おはよう、支倉」
「隆弘、おはよう。可愛いな。大学生みたいだ」
 
 なんというあからさますぎるラブオーラ。会社ではそうじゃないだろ。なんだこれ。俺が気にしすぎ? 
 
「あのな、支倉。もうちょっと……もうちょっと普通にできんのか」
「普通? だってこれ、デートだろ」
 
 さすがに空気を読んだらしく、デートだけやたら小声だった。単に浮かれすぎているだけらしい。
 本当にこいつは俺のことが好きすぎるよな。俺も好きだけどさ。
 
「でも本当に勿体ないな。この前髪。上げたら絶対もっと可愛いと思う。何で切らないんだ?」
 
 やらしい手つきで撫でるな。横に居るおねーさんがすっげー引いてる。
 
「面倒だから。それにブサイクだとは思いたくないが、俺はそう整った顔はしてない」
 
 パシッと払ってさっさとデパートへ足を向けた。こいつと二人でジグソー売り場とか、相当浮くな、これは。
 わかってて誘ったのは、俺がそれでも、一緒に選びたかったからだ。
 
「まあ、お前がそう思ってるならそれでいいよ。俺だけが知っていればいいことだしな」
 
 支倉がそう言って隣に並ぶ。気障すぎる。砂を吐きそうだ。嬉しいとか思う俺ごと、砂に埋まってしまえばいい。
 そんな嬉しそうにしながらも手をつないできたり肩を組んではこない。世間体を気にしてはいるのか、俺が嫌がりそうだからか、どっちだろう。
 
「ジグソー買ったあと、食事する? それとも家行って早速する?」
「せっかく出てきたし、ファミレスでも行くか。それともお前は洒落たカフェがいいか?」
「あのな、隆弘。俺だって普通にマックへ入るし、スタバでコーヒー飲んだりするぞ」
 
 スタバじゃ敷居が高い俺にその発言はリア充すぎる。せいぜいがドトールまでだ。
 どこが違うと聞かれても困るが、スタバは単に少しオシャレっぽいかなという気がする。異論は認める。
 
「なら、王将で餃子もありか?」
「ありあり」
 
 支倉が嬉しそうに頷いた。こんな雰囲気は悪くない。
 
「まあ今日はファミレスにしておくけどな」
「今日は? 何かあるのか?」
「……何でも」
 
 初めてになるかもしれない日に餃子臭いキスはないなと思ってるとか言えるか、馬鹿。
 今日こそ今日こそって思って既に幾日も経ってるってことは置いといて。 
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