恋とかできるわけがない 〜ヲタクがJC拾ってもなにもできない件

茉莉 佳

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6th stage

イベントだってのに盛り上がらない

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     6th stage

 日曜日のイベント会場。
夏の大祭典直後のイベントなだけに、いつも参加してるメンツは燃え尽きてて、新刊やグッズの新作を出しているところも少ない。
全体的に、コミケでの売れ残り在庫処分のまったり進行といった感じで、売り子もお客もけだるそう、、、

なんて感じるのは、自分自身が落ち込んだままだからだろうか?

、、、虚しい。

今までイベントに、こんなに重く、虚しい気持ちで出た事はない。
右も左もみんな敵だらけに感じて、せっかくの祭りなのに盛り上がらない。
そんな気持ちを反映するかの様に、本やグッズの売り上げも、予想ほどかんばしくなかった。

『あそこはレイープ魔のサークルだから、みんな買うな』
『キモいイラスト。見るだけで孕まされそう』

だれもがそんな事を噂し合って、ぼく達を避けてる気がした。
『売り子を手伝ってくれる』って言ってた麗奈ちゃんだけど、昨日の今日だ。さすがに顔を見せるはずもない。
そう言えば、Photoshopを買ってあげた代金も、立て替えたままだ。
今さら払ってもらえる、、、 わけないか。
ホテル代だって捨て金だったし、こんな事になるのなら、ペンタブなんて買ってやらなきゃよかった。
もう、美咲麗奈の事なんて、いっさい信用しない。


「コススペースで麗奈に会ったぞ」

カメコに出かけてたヨシキがサークルスペースに戻ってきて、苦笑いしながら言った。

「『昨日はあれからどうしたんだ?』って訊くと、『ミノルくんとデートして、行くとこまでいっちゃった』ってさ」
「行くとこまでって、、、」

、、、開いた口が塞がらない。

どうしてペロッと、そんな嘘がつけるんだ?!
まあ、確かに『ホテルに行った』のは事実だけど、、、

「オレに焼きもち妬かせようとしてるんだろな。 …ったく、女ってのは意味わかんねえ。
まあ、おまえたちの経緯いきさつは全部知ってるから、あいつのブラフは滑稽にしか見えないんだけどな」
「麗奈ちゃんって、、、、 なんでそんな嘘を、平気でつくんだ?」

やるせなくなって、責める様にヨシキに問い質す。ヤツは困った様な笑みを見せた。

「病んでるんじゃね? 心が」
「心の、病みかぁ、、、」
「まあ、『レイヤーあるある』だけどな。でなくても、『女は心を見せるより先に、尻を見せる』って言うしな。他人にはなかなか本性を見せないのが、女って生き物なのかもしれないな」
「ヨシキがつきあってきた女の子も、みんなそうだったのか?」
「どうだろう? オレは女の語る愛なんて、信じない事にしてるから」
「愛?」
「女なんて、つきあってる時は『一生あなただけを愛してる。離れたら生きていけない』なんて言いながら、別れて次の彼氏ができればもう、前カレの事なんか思い出しもしないもんだろ。過去の恋愛はみんな、上書き削除してしまうのさ」
「そう言えば、男の方が、昔の恋を引きずりやすいって言うよな。失恋をウジウジと、いつまでも悔やんだりとか」
「どうせおまえも、栞里ちゃんの事、まだ引きずってるんだろ?」

茶化す様に言って、ヨシキはニヤリと笑った。
クソぅ。
こんな時に、栞里ちゃんの話を持ち出さなくても、、、

「ったく、人の傷口に塩を塗り込む様な事を言うやつだな。相変わらず」

せっかく忘れかけてた栞里ちゃんへの想いが、まざまざとあぶり出され、痛々しく甦ってきたぼくは、ひとりごちる様に言った。

麗奈ちゃんと違って、栞里ちゃんは、純粋だった。
自分の気持ちをうまく表現できない様な不器用なとこはあったけど、心根は優しい、いい子だった。

今更ながら、あの原宿での事件が悔やまれる。
栞里ちゃんとは、このイベントにいっしょに来るはずだったのに。
彼女のために高いお金を出して、ロリ服まで買ったのに、、、

いやいや。

元はと言えば、ぼくが悪いんだ。

あの時、、、

『リア恋plus』の『高瀬みく』とダブルブッキングさえしなければ。
ちゃんとみくタンより、栞里ちゃんを選んでれば。
バーチャルカノジョとはいえ、二股かける様な事をしたから、栞里ちゃんを怒らせてしまったんだ。
もう一度、あの日あの時に、時間を戻せたら、、、

、、、なんて。
やっぱり未練がましく、栞里ちゃんの事は忘れられないでいる自分は、いつまでも失恋を上書き削除できないでいる。

「ミノ~ルくん♪」

ナーバスになってうつむいてたぼくは、鼻にかかった様な甘い女の子の声にハッとなって顔を上げ、ギクリと息を呑んだ。
サークルのテーブルを挟んだ向こうには、なんと美咲麗奈が立ってて、ぼくに微笑みかけてるではないか!

つづく
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