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10th stage
おやすみを言ったあとも別れたくない
郊外の小さな駅で電車を降り、しばらく歩いた閑静な住宅街に、栞里ちゃんの家はあった。
そんなに大きくはないけど、2階建ての割と新しい、こぎれいな洋風の家。
この家のなかで栞里ちゃんが言う様な、ドロドロとした人間関係が渦巻いてるなんて、なんか信じられない。
鉄製の玄関扉に手をかけた栞里ちゃんに、ぼくは訊いてみた。
「栞里ちゃん、大丈夫?」
「なにが?」
「その、、、 お父さんとかお母さんの事…」
なんと言っていいかわからない。
彼女の家庭内の事情だから、他人のぼくがあまり立ち入るのも、アレだし、、、
不安そうにしてるぼくに、栞里ちゃんは微笑みながら答えた。
「ん。大丈夫だと思う」
「ほんとに?」
「あの人たちの事は、『勝手にすれば』って感じだから。あたしはあたしの道を生きる事にする。
まあ、少なくとも、親としての最低の義務は果たしてもらうから。高校まではちゃんと行かせてもらう。大学は無理っていうんなら、バイトしながらでも、絶対行ってみせるから」
「栞里ちゃん… 強いんだね」
「そんな事ないよ。お兄ちゃんがいてくれるからだよ」
「そんな。ぼくはなにもしてないし」
「大丈夫。どうしてもダメそうな時はまた家出して、お兄ちゃん家に住むから。だってお兄ちゃん、あたしをお嫁さんにしてくれるんでしょ?」
「ええっ?!」
「ふふ、冗談… でもないかな?」
「だっ、大丈夫だよ。ぼくがちゃんと大学に行かせて、お嫁さんにもなってもらうから」
「ふふ。嬉しい。ありがと」
「…」
力を込めて言うぼくを見て、栞里ちゃんは踵を返し、前に立つと、首に両手をかけ、つま先立ちで背伸びして、小さなキスをくれた。
こんなに可愛いJK妻、、、
そりゃ、お嫁に来てほしいけど、栞里ちゃんの家の事を考えると、それは不謹慎の様な、、、
とりあえず、、、 お金貯めとかなきゃな。
あまりロリ服やコスプレ服で、散財しない様にしないと。
「じゃ、おやすみなさい」
上目遣いでぼくを見た栞里ちゃんは、クルリと背を向けると門扉を開け、ステップを軽やかに駆け上がり、玄関先で立ち止まって、もう一度振り向いて、はにかみながらぼくに小さく手を振ってくれた。
なんかもう、、、
幸せすぎて昇天しそう、、、
「いつでも戻ってきていいよ! 栞里ちゃんひとりくらい、ぼくがちゃんと面倒見るから!」
思わずそう言うと、栞里ちゃんはにっこりとした微笑みを浮かべた。
そのまま栞里ちゃんは家に入らず、笑顔でぼくを見送ってくれてる。
いつまでもその姿を見ていたかったけど、そうもいかない。
後ろ髪を引かれる思いで、ぼくは彼女の家をあとにした。
とりあえず小走りに走ってみたけど、帰りの電車にはやっぱり間に合わなかった。
終電の行ってしまった駅は、シンと静まり返り、人影はない。
時刻表の電光掲示板も、もう消えてしまって、改札はシャッターが降りてる。
周りは住宅街で灯りも少なく、駅前にはコンビニが1軒あるだけで、朝までいられる様なネカフェみたいな店は、近くには見当たらなかった。
しかたない。
タクシーで帰るか。
でも、うちまでタクシーなんか使ったら、料金がいくらかかるかわからない。
イベントでの売り上げがよかったといっても、最近調子に乗って、高いロリ服やらコスプレ服やらPhotoshopなんかを買って、お金使い過ぎてるし、次の新刊の印刷代とかもとっておかないといけないいし、もう無駄遣いはできない。
そう考え直して、ぼくは始発電車の時間を確認した。
まあ、始発で帰っても、バイトには充分間に合うだろう。
一旦家に帰って着替えたり、シャワーを浴びたりする余裕もありそうだ。
「ここで一晩明かして、始発で帰るか」
ひとりごちたが、そんなのは今の自分にとって、どうでもいい様な事だった。
終電を逃してしまい、始発まで待つしかないって事も、明日は朝いちでバイトが入ってるって事も、今度遅刻したら、森岡支配人の嫌味たっぷりの長ったらしい説教喰らうだろうって事も、今は問題じゃない。
そんな、日常の煩わしいできごとなんて、今は頭になかった。
つづく
そんなに大きくはないけど、2階建ての割と新しい、こぎれいな洋風の家。
この家のなかで栞里ちゃんが言う様な、ドロドロとした人間関係が渦巻いてるなんて、なんか信じられない。
鉄製の玄関扉に手をかけた栞里ちゃんに、ぼくは訊いてみた。
「栞里ちゃん、大丈夫?」
「なにが?」
「その、、、 お父さんとかお母さんの事…」
なんと言っていいかわからない。
彼女の家庭内の事情だから、他人のぼくがあまり立ち入るのも、アレだし、、、
不安そうにしてるぼくに、栞里ちゃんは微笑みながら答えた。
「ん。大丈夫だと思う」
「ほんとに?」
「あの人たちの事は、『勝手にすれば』って感じだから。あたしはあたしの道を生きる事にする。
まあ、少なくとも、親としての最低の義務は果たしてもらうから。高校まではちゃんと行かせてもらう。大学は無理っていうんなら、バイトしながらでも、絶対行ってみせるから」
「栞里ちゃん… 強いんだね」
「そんな事ないよ。お兄ちゃんがいてくれるからだよ」
「そんな。ぼくはなにもしてないし」
「大丈夫。どうしてもダメそうな時はまた家出して、お兄ちゃん家に住むから。だってお兄ちゃん、あたしをお嫁さんにしてくれるんでしょ?」
「ええっ?!」
「ふふ、冗談… でもないかな?」
「だっ、大丈夫だよ。ぼくがちゃんと大学に行かせて、お嫁さんにもなってもらうから」
「ふふ。嬉しい。ありがと」
「…」
力を込めて言うぼくを見て、栞里ちゃんは踵を返し、前に立つと、首に両手をかけ、つま先立ちで背伸びして、小さなキスをくれた。
こんなに可愛いJK妻、、、
そりゃ、お嫁に来てほしいけど、栞里ちゃんの家の事を考えると、それは不謹慎の様な、、、
とりあえず、、、 お金貯めとかなきゃな。
あまりロリ服やコスプレ服で、散財しない様にしないと。
「じゃ、おやすみなさい」
上目遣いでぼくを見た栞里ちゃんは、クルリと背を向けると門扉を開け、ステップを軽やかに駆け上がり、玄関先で立ち止まって、もう一度振り向いて、はにかみながらぼくに小さく手を振ってくれた。
なんかもう、、、
幸せすぎて昇天しそう、、、
「いつでも戻ってきていいよ! 栞里ちゃんひとりくらい、ぼくがちゃんと面倒見るから!」
思わずそう言うと、栞里ちゃんはにっこりとした微笑みを浮かべた。
そのまま栞里ちゃんは家に入らず、笑顔でぼくを見送ってくれてる。
いつまでもその姿を見ていたかったけど、そうもいかない。
後ろ髪を引かれる思いで、ぼくは彼女の家をあとにした。
とりあえず小走りに走ってみたけど、帰りの電車にはやっぱり間に合わなかった。
終電の行ってしまった駅は、シンと静まり返り、人影はない。
時刻表の電光掲示板も、もう消えてしまって、改札はシャッターが降りてる。
周りは住宅街で灯りも少なく、駅前にはコンビニが1軒あるだけで、朝までいられる様なネカフェみたいな店は、近くには見当たらなかった。
しかたない。
タクシーで帰るか。
でも、うちまでタクシーなんか使ったら、料金がいくらかかるかわからない。
イベントでの売り上げがよかったといっても、最近調子に乗って、高いロリ服やらコスプレ服やらPhotoshopなんかを買って、お金使い過ぎてるし、次の新刊の印刷代とかもとっておかないといけないいし、もう無駄遣いはできない。
そう考え直して、ぼくは始発電車の時間を確認した。
まあ、始発で帰っても、バイトには充分間に合うだろう。
一旦家に帰って着替えたり、シャワーを浴びたりする余裕もありそうだ。
「ここで一晩明かして、始発で帰るか」
ひとりごちたが、そんなのは今の自分にとって、どうでもいい様な事だった。
終電を逃してしまい、始発まで待つしかないって事も、明日は朝いちでバイトが入ってるって事も、今度遅刻したら、森岡支配人の嫌味たっぷりの長ったらしい説教喰らうだろうって事も、今は問題じゃない。
そんな、日常の煩わしいできごとなんて、今は頭になかった。
つづく
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