ブラックアウトガール

茉莉 佳

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10th sense

10th sense 2

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『今日こそ航平くんにラブレター渡さなきゃ。
今どき手書きのラブレターなんて時代遅れでダサいかもしれないけど、その分気持ちが籠ってるはず』

そう思いながら、緩やかに下りになった住宅街の小道を、あたしは走っていった。

『浅井航平くん。
中学時代から数えて2年間。同じ教室で勉強してて、同じ高校に通う様になってもう1年以上経つっていうのに、ほとんど口きいたこともないし、席が隣になったことさえない。
だけど昨日の新学年の始業式。
同じ教室のなかに航平くんの姿を見つけたときは、もう感動で息もつまりそうだった。
これはもう『運命だ』って思ったね。
2年になった早々、なんてラッキー!
この勢いで、今日こそはあたしの気持ち、知ってもらうんだ!
昨日夜なべして書いた、便せん5枚もの超大作。
おかげで今朝は睡眠不足。朝も起きれなかったんだ』

航平くんのことばかり考えながら、通い慣れた通学道を、あたしは全力で走った。

『、、、やっぱキモいかな。
重すぎるかな、こんなあたしって。
それでもいい!
振られたっていい。
あたしの気持ちを、航平くんには知っててほしい。
2年間もずっと想ってきたことを、航平くんには覚えててほしい。
でもやっぱり、、
振られるのはイヤかも』

成功と失敗の狭間で心は揺れて、脇を通り過ぎるクルマのことなんて、気にもとめてなかった。

『ううん。
クヨクヨするんじゃない、あずさ!
航平くんはあたしのこと、少しは気にしてるって。
授業中でも時々目が合うし、『あずさに気がある』って噂も、ミクや萌香から聞いたことある。
自分を信じてぶつかっていけ、あずさ!!
このラブレター、今日こそ絶対渡さなきゃ!』

そんなことばかり考えてたあたしは、大通りに出てすぐ、対向車線のバス停に向かって、うっかり道路に飛び出したんだ。
前から来るトラックが急ブレーキをかけたときは、もう遅かった。
あんたねぇ、、、
航平くんにぶつかる前に、トラックなんかにぶつかってどうするの?

そのときの記憶が、甦ってくる。
わずか一瞬のできごとだったけど、こうして振り返ってみると、それはとても長い時間に感じられた。

その瞬間、『痛い』というよりは、『熱い』という感覚が、胸から全身を貫いた。
宙に放り出されてからだのコントロールがきかなくなり、今まで目に入ってた街並の景色が、いきなり空と雲に変わった。
あらゆる景色から色が失われてモノクロの世界になり、灰色の空がグルグルと回ったあと、頭に激痛が走って閃光が飛び散ったかと思うと、目の前がブラックアウトした。
その時点で、あたしの魂はからだから離れ、なにかに憑かれたように、事故現場ここから走り去っていったんだ。

そう、、、

『航平くんにラブレターを渡さなきゃ』

っていう、その想いだけに憑かれて、、、


ガードレールの支柱に後頭部をぶつけ、跳ねるように道路に投げ出されたあたしは、からだと脚がよじれた不自然な格好で、道路に横たわってた。
頭と胸元から鮮血がどんどん溢れ出し、制服の白いシャツを染めていく。
灰色のアスファルトに染み込むように、まわりに真っ赤な血が広がっていった。

「この子が急に飛び出してきたんだぁ! 間に合わなかったんだぁぁぁ!!」

急ブレーキをかけて止まったトラックから、血相を変えたおじさんが飛び出してきて、狂ったように叫んだ。

「早く、救急車!」
「電話はっ?! スマホ出して、スマホ!」
「呼吸してるか? 呼吸!!」
「止血が先だ! だれかタオル持ってないか!?」

怒号が飛び交い、通りすがりの人たちも集まってきて、無惨に道路に転がってるあたしを取り囲む。
そのときにはもう、あたしのからだはピクリとも動かなくなってた。

やだ、あたし、、、
スカートめくれて、パンツ丸出し。
半目のアヘ顔だし口からも泡吹いちゃってて、みっともない。
吹き出した血で、顔もからだもベトベトに汚れちゃってる。

『ダメだこりゃ。もう死んじゃってるわ』

『悲しい』とか、『寂しい』とか、そんな感情は、なぜか湧いてこない。
あたしのからだはもう、魂のないただの抜け殻。
道ばたに転がってる虫の屍骸でも眺めてるかの様になんの感慨もなく、あたしは事故現場を傍観してるだけだった、、、

つづく
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