4 / 259
level 1
「わたしのなにかに火がついた瞬間でした」
しおりを挟む
いや。
『イケメン』なんて言い方は、俗っぽくて似合わない。
その男の人は、会場で見かけた他のカメラを持った人たちとはまるで違って、笑顔が爽やかでスラリと背の高い、知的な感じ… つまり、わたしの好みのタイプだったのだ。
年は大学生くらいだろうか?
端正な目鼻立ちで、まるでモデルか芸能人っぽい。
雰囲気も、なんだか色気がある。
洗練されているというよりは、野生の匂いが強いけど、けっして粗野という感じはしない。
一見無造作に見えるマッシュな髪型も、ボリュームや跳ね方を計算して、気を遣っているみたい。かといって、ホストみたいなチャラチャラしたヘアスタイルではなく、控えめでナチュラル。
二重襟の紺のカットソーは、からだにぴったりフィットした綺麗なラインで、細身のパンツのせいで、脚が余計に長く、スタイルがよく見える。
細いといっても貧弱な体つきではなく、肩幅も広くて逆三角形っぽい体型だ。
「似合ってるよ。すっごい可愛いね。写真撮らせてもらっていい?」
戸惑っているわたしにお構いなしに、彼はそう言いながら、肩から下げていた大きなカメラを構え、そのままじっとわたしを見つめて、返事を待っている。
心の底まで見透かすような、まっすぐな瞳。
唇には自信に満ちた微笑みを、ほんのりとたたえている。
いきなり知らない女の子に声かけてくるなんて、まるでナンパみたいだけど、他の人たちを見ていると、みんなそうやって気軽に声をかけて、写真を撮りあっているみたい。コスプレイベントでは、それがふつうなのかもしれない。
「は、はい…」
有無を言わせない彼の勢いに圧倒され、わたしは小さく返事をして、うなずいた。
「じゃ、そのままでいいよ。最初は全身ね。はい!」
“カシャカシャッ”
こちらにカメラを構えたかと思うと、連続したシャッター音がタイミングよく響いてくる。
アングルを変えながら、彼はさらに何枚かシャッターを切った。
「今度は後ろ姿も撮らせてよ。手を後ろに組んでこっちを振り向いて。そう! 髪、綺麗だね。いいよ~!」
言われるまま、わたしは腕を後ろに回し、カメラの方を振り返る。
“カシャカシャッ”っと、小気味いいテンポでシャッター音が聞こえてくる。
なんだか戸惑ってしまう。
こんなにたくさん写真を撮られたことなんて、生まれてはじめて。
「次はアップでも撮らせてもらっていい?」
そう言いながら彼は、わたしとの間合いを少し詰めてきた。
反射的に身構えて、わたしはからだを固くした。
「あ。なんかいい感じ。その緊張感がとてもいいよ。すっごい可愛い☆」
ファインダーを覗きながらわたしを褒め、彼は熱心にシャッターを切り続けた。
…からだが熱い。
ドキドキしてくる。
なんだろう?
この高揚感。
それに、『すっごい可愛い』だなんて。
目の前に迫った大きなレンズから、彼の熱い視線を感じる。
会ったばかりの人に、こんなにずっと見つめられて、近くから写真を撮られて、ときめいてしまうなんて、なんだか不思議。
頭がぼうっとしてきて、宙を漂っているみたい。
『可愛い』なんてはじめて言われて、わたし、舞い上がっているのかな?
しかもこの人、撮影している姿もかっこいい。
動きによどみがないというか、立ち方や肘の締め方まで決まっていて、隙がない。
シャッターを押すテンポも心地よくて、わたしの方も、どんどん気持ちが熱くなってくる。
思えばこれが、わたしのなかの『なにか』に、火がついた瞬間だった。
つづく
『イケメン』なんて言い方は、俗っぽくて似合わない。
その男の人は、会場で見かけた他のカメラを持った人たちとはまるで違って、笑顔が爽やかでスラリと背の高い、知的な感じ… つまり、わたしの好みのタイプだったのだ。
年は大学生くらいだろうか?
端正な目鼻立ちで、まるでモデルか芸能人っぽい。
雰囲気も、なんだか色気がある。
洗練されているというよりは、野生の匂いが強いけど、けっして粗野という感じはしない。
一見無造作に見えるマッシュな髪型も、ボリュームや跳ね方を計算して、気を遣っているみたい。かといって、ホストみたいなチャラチャラしたヘアスタイルではなく、控えめでナチュラル。
二重襟の紺のカットソーは、からだにぴったりフィットした綺麗なラインで、細身のパンツのせいで、脚が余計に長く、スタイルがよく見える。
細いといっても貧弱な体つきではなく、肩幅も広くて逆三角形っぽい体型だ。
「似合ってるよ。すっごい可愛いね。写真撮らせてもらっていい?」
戸惑っているわたしにお構いなしに、彼はそう言いながら、肩から下げていた大きなカメラを構え、そのままじっとわたしを見つめて、返事を待っている。
心の底まで見透かすような、まっすぐな瞳。
唇には自信に満ちた微笑みを、ほんのりとたたえている。
いきなり知らない女の子に声かけてくるなんて、まるでナンパみたいだけど、他の人たちを見ていると、みんなそうやって気軽に声をかけて、写真を撮りあっているみたい。コスプレイベントでは、それがふつうなのかもしれない。
「は、はい…」
有無を言わせない彼の勢いに圧倒され、わたしは小さく返事をして、うなずいた。
「じゃ、そのままでいいよ。最初は全身ね。はい!」
“カシャカシャッ”
こちらにカメラを構えたかと思うと、連続したシャッター音がタイミングよく響いてくる。
アングルを変えながら、彼はさらに何枚かシャッターを切った。
「今度は後ろ姿も撮らせてよ。手を後ろに組んでこっちを振り向いて。そう! 髪、綺麗だね。いいよ~!」
言われるまま、わたしは腕を後ろに回し、カメラの方を振り返る。
“カシャカシャッ”っと、小気味いいテンポでシャッター音が聞こえてくる。
なんだか戸惑ってしまう。
こんなにたくさん写真を撮られたことなんて、生まれてはじめて。
「次はアップでも撮らせてもらっていい?」
そう言いながら彼は、わたしとの間合いを少し詰めてきた。
反射的に身構えて、わたしはからだを固くした。
「あ。なんかいい感じ。その緊張感がとてもいいよ。すっごい可愛い☆」
ファインダーを覗きながらわたしを褒め、彼は熱心にシャッターを切り続けた。
…からだが熱い。
ドキドキしてくる。
なんだろう?
この高揚感。
それに、『すっごい可愛い』だなんて。
目の前に迫った大きなレンズから、彼の熱い視線を感じる。
会ったばかりの人に、こんなにずっと見つめられて、近くから写真を撮られて、ときめいてしまうなんて、なんだか不思議。
頭がぼうっとしてきて、宙を漂っているみたい。
『可愛い』なんてはじめて言われて、わたし、舞い上がっているのかな?
しかもこの人、撮影している姿もかっこいい。
動きによどみがないというか、立ち方や肘の締め方まで決まっていて、隙がない。
シャッターを押すテンポも心地よくて、わたしの方も、どんどん気持ちが熱くなってくる。
思えばこれが、わたしのなかの『なにか』に、火がついた瞬間だった。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる