あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
41 / 259
level 5

「イヤだとはっきり言えるようになりたいです」

しおりを挟む
みんなが挨拶している間、ずっと不機嫌そうに頬杖ついて、窓の外を眺めていた美咲麗奈さんは、わたしの方を振り向き、一変して花の様に可愛らしい笑顔を向け、明るく親しげな調子で言った。

「美月梗夜さんね。こんにちは。よろしくねw」

なに?
この変わり身の早さ。
ヨシキさんの前で調子を合わせているみたいで、胡散臭い。
そうは思っても、ふたりともヨシキさんの知り合いだし、彼女にだけ仏頂面するわけにもいかない。できるだけ平静を装い、わたしも美咲さんに挨拶を返した。

「よろしく。美咲さん」
「麗奈でいいよ」
「ありがとうございます」
「梗夜さんっていくつ? いつからコスプレしてるの?」
「17歳です。コスプレははじめたばかりで、まだわからない事が多くて…」
「そう。なにか困った事があったらあたしに相談してね。力になるから」

いきなりなにを言っているの?
会ったばかりのあなたを信用して、相談なんてできるわけないじゃない。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

内心そう思っていても、気持ちを顔に出さないよう、いい顔をするわたし。
他人に対して、心のなかではすぐに毒づくくせに、八方美人的な言動が条件反射のように出てしまうこの性格が、嫌なんだ。
嫌なものはイヤなんだと、はっきりと言える性格になりたい。
江之宮憐花のように。
だけど美咲麗奈は、わたしの言葉に気をよくしたのか、さらに親しげに言った。

「メアド交換しようよ♪」
「え? ええ」
「明日のイベントも来る?」
「行くと思います」
「そっか。会えるといいねw」

そう言いながら、美咲麗奈はスマホを取り出した。
わたしも仕方なく、自分のメールアドレスを美咲麗奈のスマホに送る。

「自己紹介が終わったとこで、おまえらと相席してもいいか? 賑やかな方が楽しいしな」
「ゴメン。あたしたちもう出る所だったの。デートの途中だしね」

座りかけたヨシキさんを遮り、美咲麗奈は急かすように大竹さんの手をとって、素早く立ち上がった。

「ミノルくぅん。麗奈まだ行きたいとこいっぱいあるんだ。もっともっと楽しもうねw」

わたしたちのことは眼中にないかのように、美咲麗奈は甘えて大竹さんの腕をとり、例によって自分の巨乳をグイグイ押しつけながら、カフェを出ていった。

このふたり、本当にデートをしていて、偶然ここで遭ったの?
わたしにはとてもそうとは思えない。
こう言っては悪いけど、美咲さんが大竹さんのことを好きだなんて、わたしには感じられない。
これって絶対、ヨシキさんに見せつけてるんだと思う。
彼の気を惹くために、大竹さんを利用しているに違いない。
あのひと、ヨシキさんのことが好きなんだ。
きっと、好きなひとを手に入れるためには、手段を選ばないタイプ。

ますます好きになれない。
大竹さん、当て馬にされちゃって、可哀想。

「ごちそうさま。あんまり遊び過ぎて、明日のイベント忘れんなよ」

外へ出ていくふたりの背中に、ヨシキさんは軽口を浴びせる。
ヨシキさんは、大竹さんが当て馬にされてること…
美咲麗奈が自分のことを好きだということに、気がついていないのかな?
それとも、知っていてわざと平静を装っているの?

「ミノル、、、 ヤバいことにならなきゃいいけどな。なにしろ相手は麗奈だし」

そんなことを考えていたとき、ふたりの背中を見送っていたヨシキさんが、ふと漏らした。

「え?」
「いや。なんでもない。まあ、偶然にしちゃ、できすぎだよな。
さ、座ろうぜ」

明るくわたしを振り返ったヨシキさんは、わたしの背中を軽く押して、促した。


『相手は麗奈だし』

その言葉の意味を知ったのは、少しあとになってからだった。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...