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level 5
心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいです」
「わぁっ! すっごい素敵です!」
目の前には、さっきiPadで見たような素敵な夕景が、フレームに収まりきれない大きさで広がっていた。
夕陽はちょうどレインボーブリッジにかかる頃で、空気はほんのりと 茜色に染まり、対岸の工場地帯やビルには明かりが灯りはじめて、それが水面でゆらゆらと漂っていて、とっても綺麗。
「グッドタイミングだったな。さ、急ごう!」
手際よくカメラをセッティングしたヨシキさんといっしょに、海岸の遊歩道を歩きながら、イメージにあうロケーションを探していく。
測るように夕景に向けてシャッターを切っていたヨシキさんだったが、ここという場所を見つけると、わたしを景色のなかに置いた。
「時間があまりないから、一気に撮るよ」
そう言ったヨシキさんは、すばやくフレームを決め、シャッターを押し込んでいく。
太陽の残滓が滲む空と、その光を写し出して暗くゆらめく海をバックにして、わたしは心地よいシャッター音に包まれ、快感に身を委ねる。
『魔界に人間を誘惑するような、美しい物の怪』という、ヨシキさんが語ったイメージを心に描きながら、気だるい瞳でレンズを見つめる。
海風がわたしの長い髪をさらい、頬を撫でる。
その瞬間をねらいすましたように、ヨシキさんはシャッターを切る。
「いいよいいよ。すごくいい! 今度はちょっとうつむいて、もっともの憂げな感じで見つめて。少し唇ゆるめて、右手で髪を 梳いてみて。よしっ!」
言われるままに、わたしはうっとりとカメラを見つめ、挑発するように唇をわずかにゆるめる。
夜へと移り変わるこの瞬間は、本当に神の国への 端境みたいに、わたしを異空間へと 誘う。
インディゴブルーの深い空と、幾重にも重なったビル群のきらめきに、軽くめまいさえ感じる。
レンズ越しにヨシキさんの熱い視線を注がれたわたしは、心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいだった。
「感動的によかったよ。どう?」
ゆっくりと魔法が解けるように、最後の残光が夜のとばりに呑み込まれていく。
撮影を終えたヨシキさんはわたしの方へ歩み寄ってくると、となりに並んでカメラのモニター画面をこちらに向け、今撮ったばかりの写真を見せてくれた。
「すごいっ! 綺麗です!!」
嘘みたいに深い群青色の空に、輝くイリュミネーション。
そんな綺麗な景色をバックに、わたしが漂っている。
街の明かりが映えた表情は、憂いを帯びていて、長い髪はまるで命を持っているかのようにたなびき、それは映画のワンシーンのように儚く美しく、まるで自分ではないみたいに綺麗だった。
「なんだかまるで、魔法みたいです。どうしてこんな素敵な写真が撮れるんですか?」
わたしは顔を上げて、ヨシキさんを見つめながら訊いた。
「空がこういう青に写るトワイライトのベストタイムは、ほんの5分か10分くらいしかないんだ。その短い瞬間を狙って、集中的に撮るわけ」
優しげな顔でわたしを見つめながら、ヨシキさんはそう教えてくれた。
「そうなんですか。それであんなに急いで撮っていたんですね」
「魔が刻ってやっぱり異空間だよな。なにもかもが昼間の景色と違って見える」
「そうですね。まるで魔法にかけられたみたいです」
「魔法か…」
そう応えたヨシキさんは、覗き込むように首をかしげてわたしを見つめ、やわらかく微笑んだ。
「美月ちゃんにも、魔法をかけられたかな」
「え?」
つづく
目の前には、さっきiPadで見たような素敵な夕景が、フレームに収まりきれない大きさで広がっていた。
夕陽はちょうどレインボーブリッジにかかる頃で、空気はほんのりと 茜色に染まり、対岸の工場地帯やビルには明かりが灯りはじめて、それが水面でゆらゆらと漂っていて、とっても綺麗。
「グッドタイミングだったな。さ、急ごう!」
手際よくカメラをセッティングしたヨシキさんといっしょに、海岸の遊歩道を歩きながら、イメージにあうロケーションを探していく。
測るように夕景に向けてシャッターを切っていたヨシキさんだったが、ここという場所を見つけると、わたしを景色のなかに置いた。
「時間があまりないから、一気に撮るよ」
そう言ったヨシキさんは、すばやくフレームを決め、シャッターを押し込んでいく。
太陽の残滓が滲む空と、その光を写し出して暗くゆらめく海をバックにして、わたしは心地よいシャッター音に包まれ、快感に身を委ねる。
『魔界に人間を誘惑するような、美しい物の怪』という、ヨシキさんが語ったイメージを心に描きながら、気だるい瞳でレンズを見つめる。
海風がわたしの長い髪をさらい、頬を撫でる。
その瞬間をねらいすましたように、ヨシキさんはシャッターを切る。
「いいよいいよ。すごくいい! 今度はちょっとうつむいて、もっともの憂げな感じで見つめて。少し唇ゆるめて、右手で髪を 梳いてみて。よしっ!」
言われるままに、わたしはうっとりとカメラを見つめ、挑発するように唇をわずかにゆるめる。
夜へと移り変わるこの瞬間は、本当に神の国への 端境みたいに、わたしを異空間へと 誘う。
インディゴブルーの深い空と、幾重にも重なったビル群のきらめきに、軽くめまいさえ感じる。
レンズ越しにヨシキさんの熱い視線を注がれたわたしは、心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいだった。
「感動的によかったよ。どう?」
ゆっくりと魔法が解けるように、最後の残光が夜のとばりに呑み込まれていく。
撮影を終えたヨシキさんはわたしの方へ歩み寄ってくると、となりに並んでカメラのモニター画面をこちらに向け、今撮ったばかりの写真を見せてくれた。
「すごいっ! 綺麗です!!」
嘘みたいに深い群青色の空に、輝くイリュミネーション。
そんな綺麗な景色をバックに、わたしが漂っている。
街の明かりが映えた表情は、憂いを帯びていて、長い髪はまるで命を持っているかのようにたなびき、それは映画のワンシーンのように儚く美しく、まるで自分ではないみたいに綺麗だった。
「なんだかまるで、魔法みたいです。どうしてこんな素敵な写真が撮れるんですか?」
わたしは顔を上げて、ヨシキさんを見つめながら訊いた。
「空がこういう青に写るトワイライトのベストタイムは、ほんの5分か10分くらいしかないんだ。その短い瞬間を狙って、集中的に撮るわけ」
優しげな顔でわたしを見つめながら、ヨシキさんはそう教えてくれた。
「そうなんですか。それであんなに急いで撮っていたんですね」
「魔が刻ってやっぱり異空間だよな。なにもかもが昼間の景色と違って見える」
「そうですね。まるで魔法にかけられたみたいです」
「魔法か…」
そう応えたヨシキさんは、覗き込むように首をかしげてわたしを見つめ、やわらかく微笑んだ。
「美月ちゃんにも、魔法をかけられたかな」
「え?」
つづく
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