43 / 259
level 5
心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいです」
しおりを挟む
「わぁっ! すっごい素敵です!」
目の前には、さっきiPadで見たような素敵な夕景が、フレームに収まりきれない大きさで広がっていた。
夕陽はちょうどレインボーブリッジにかかる頃で、空気はほんのりと 茜色に染まり、対岸の工場地帯やビルには明かりが灯りはじめて、それが水面でゆらゆらと漂っていて、とっても綺麗。
「グッドタイミングだったな。さ、急ごう!」
手際よくカメラをセッティングしたヨシキさんといっしょに、海岸の遊歩道を歩きながら、イメージにあうロケーションを探していく。
測るように夕景に向けてシャッターを切っていたヨシキさんだったが、ここという場所を見つけると、わたしを景色のなかに置いた。
「時間があまりないから、一気に撮るよ」
そう言ったヨシキさんは、すばやくフレームを決め、シャッターを押し込んでいく。
太陽の残滓が滲む空と、その光を写し出して暗くゆらめく海をバックにして、わたしは心地よいシャッター音に包まれ、快感に身を委ねる。
『魔界に人間を誘惑するような、美しい物の怪』という、ヨシキさんが語ったイメージを心に描きながら、気だるい瞳でレンズを見つめる。
海風がわたしの長い髪をさらい、頬を撫でる。
その瞬間をねらいすましたように、ヨシキさんはシャッターを切る。
「いいよいいよ。すごくいい! 今度はちょっとうつむいて、もっともの憂げな感じで見つめて。少し唇ゆるめて、右手で髪を 梳いてみて。よしっ!」
言われるままに、わたしはうっとりとカメラを見つめ、挑発するように唇をわずかにゆるめる。
夜へと移り変わるこの瞬間は、本当に神の国への 端境みたいに、わたしを異空間へと 誘う。
インディゴブルーの深い空と、幾重にも重なったビル群のきらめきに、軽くめまいさえ感じる。
レンズ越しにヨシキさんの熱い視線を注がれたわたしは、心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいだった。
「感動的によかったよ。どう?」
ゆっくりと魔法が解けるように、最後の残光が夜のとばりに呑み込まれていく。
撮影を終えたヨシキさんはわたしの方へ歩み寄ってくると、となりに並んでカメラのモニター画面をこちらに向け、今撮ったばかりの写真を見せてくれた。
「すごいっ! 綺麗です!!」
嘘みたいに深い群青色の空に、輝くイリュミネーション。
そんな綺麗な景色をバックに、わたしが漂っている。
街の明かりが映えた表情は、憂いを帯びていて、長い髪はまるで命を持っているかのようにたなびき、それは映画のワンシーンのように儚く美しく、まるで自分ではないみたいに綺麗だった。
「なんだかまるで、魔法みたいです。どうしてこんな素敵な写真が撮れるんですか?」
わたしは顔を上げて、ヨシキさんを見つめながら訊いた。
「空がこういう青に写るトワイライトのベストタイムは、ほんの5分か10分くらいしかないんだ。その短い瞬間を狙って、集中的に撮るわけ」
優しげな顔でわたしを見つめながら、ヨシキさんはそう教えてくれた。
「そうなんですか。それであんなに急いで撮っていたんですね」
「魔が刻ってやっぱり異空間だよな。なにもかもが昼間の景色と違って見える」
「そうですね。まるで魔法にかけられたみたいです」
「魔法か…」
そう応えたヨシキさんは、覗き込むように首をかしげてわたしを見つめ、やわらかく微笑んだ。
「美月ちゃんにも、魔法をかけられたかな」
「え?」
つづく
目の前には、さっきiPadで見たような素敵な夕景が、フレームに収まりきれない大きさで広がっていた。
夕陽はちょうどレインボーブリッジにかかる頃で、空気はほんのりと 茜色に染まり、対岸の工場地帯やビルには明かりが灯りはじめて、それが水面でゆらゆらと漂っていて、とっても綺麗。
「グッドタイミングだったな。さ、急ごう!」
手際よくカメラをセッティングしたヨシキさんといっしょに、海岸の遊歩道を歩きながら、イメージにあうロケーションを探していく。
測るように夕景に向けてシャッターを切っていたヨシキさんだったが、ここという場所を見つけると、わたしを景色のなかに置いた。
「時間があまりないから、一気に撮るよ」
そう言ったヨシキさんは、すばやくフレームを決め、シャッターを押し込んでいく。
太陽の残滓が滲む空と、その光を写し出して暗くゆらめく海をバックにして、わたしは心地よいシャッター音に包まれ、快感に身を委ねる。
『魔界に人間を誘惑するような、美しい物の怪』という、ヨシキさんが語ったイメージを心に描きながら、気だるい瞳でレンズを見つめる。
海風がわたしの長い髪をさらい、頬を撫でる。
その瞬間をねらいすましたように、ヨシキさんはシャッターを切る。
「いいよいいよ。すごくいい! 今度はちょっとうつむいて、もっともの憂げな感じで見つめて。少し唇ゆるめて、右手で髪を 梳いてみて。よしっ!」
言われるままに、わたしはうっとりとカメラを見つめ、挑発するように唇をわずかにゆるめる。
夜へと移り変わるこの瞬間は、本当に神の国への 端境みたいに、わたしを異空間へと 誘う。
インディゴブルーの深い空と、幾重にも重なったビル群のきらめきに、軽くめまいさえ感じる。
レンズ越しにヨシキさんの熱い視線を注がれたわたしは、心までも魔が刻に引きずり込まれていくみたいだった。
「感動的によかったよ。どう?」
ゆっくりと魔法が解けるように、最後の残光が夜のとばりに呑み込まれていく。
撮影を終えたヨシキさんはわたしの方へ歩み寄ってくると、となりに並んでカメラのモニター画面をこちらに向け、今撮ったばかりの写真を見せてくれた。
「すごいっ! 綺麗です!!」
嘘みたいに深い群青色の空に、輝くイリュミネーション。
そんな綺麗な景色をバックに、わたしが漂っている。
街の明かりが映えた表情は、憂いを帯びていて、長い髪はまるで命を持っているかのようにたなびき、それは映画のワンシーンのように儚く美しく、まるで自分ではないみたいに綺麗だった。
「なんだかまるで、魔法みたいです。どうしてこんな素敵な写真が撮れるんですか?」
わたしは顔を上げて、ヨシキさんを見つめながら訊いた。
「空がこういう青に写るトワイライトのベストタイムは、ほんの5分か10分くらいしかないんだ。その短い瞬間を狙って、集中的に撮るわけ」
優しげな顔でわたしを見つめながら、ヨシキさんはそう教えてくれた。
「そうなんですか。それであんなに急いで撮っていたんですね」
「魔が刻ってやっぱり異空間だよな。なにもかもが昼間の景色と違って見える」
「そうですね。まるで魔法にかけられたみたいです」
「魔法か…」
そう応えたヨシキさんは、覗き込むように首をかしげてわたしを見つめ、やわらかく微笑んだ。
「美月ちゃんにも、魔法をかけられたかな」
「え?」
つづく
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる