あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
47 / 259
level 6

「わたしだけを見てもらわないと気がすみません」

「へぇ~。じゃあ凛子ちゃんは、正真正銘、島津のお姫様なんだ」
「そのお姫様というの、やめて下さい。恥ずかしいです」
「でも、はじめてイベント会場で見かけたときから、凛子ちゃんには他のレイヤーとは違う、毅然とした品格と雰囲気を感じたもんな。納得だよ」
「近寄りがたい… みたいな感じではなかったですか?
わたし、人から『とっつきにくい』とか『無愛想』だと思われているし、親も旧家のプライドばかり高くて、行儀作法にうるさいから」
「確かに、イベントではじめて見たときから、凛子ちゃんは『高嶺の花』って感じだったな」
「そんなことはないつもりですけど… あのときも、ヨシキさんが写真撮ってくれるまで、だれも声をかけてくれなかったんです」
「まあ、凛子ちゃんみたいなお嬢様タイプに声かけるのは、ふつうのカメコじゃハードル高過ぎるかもな」
「ヨシキさんは、ふつうではないんですか?」
「ははは。オレはツンデレ美人お嬢萌えだから」
「え~? わたし、ツンデレじゃないですよ。むしろ、それに憧れているくらいだし」
「おっ。『美人お嬢』は否定しないのな」
「そんな…」
「ははは」

こうしてなんでもないような会話をしているうちに、わたしの緊張もだんだん解けてくる。
低いけど張りのあるヨシキさんの声が、耳に心地いい。
オーダーしてくれた料理もとっても美味しくて、気分を盛り上げてくれる。
海の幸のパエリアは、新鮮なエビやムール貝などの具がたくさんで、とっても豪華で美味しいし、いっしょにオーダーしてくれたサラダの生ハムは、燻製の豊潤な香りが鼻腔をくすぐり、舌の上でふんわりとろけていくみたい。
お薦めのイベリコ豚のグリルは、噛み締めるたびに、濃厚な肉の旨味が口のなかいっぱいに広がって、恍惚としてしまう。
室内も、会話を愉しむにはちょうどいい仄暗さ。
時間も忘れて、わたしはヨシキさんとの会話にのめり込んでいった。

だけど…

ほんとうに訊きたかったことは、とうとう最後まで訊けなかった。

『ヨシキさんは今、恋人いないんですか?』
『ヨシキさんとわたしはもう、つきあっているんですか?』

それが今は、一番知りたいことなのに。
好きな人のことは、なんでも知りたいはずなのに…

『特定のレイヤーさんとカレカノになったりとかしないの?』

前回のイベント帰りにみんなでドライブしたとき、訊ねてきた恋子さんに、『それはNG』だと、ヨシキさんは答えた。

ヨシキさんは、モデルを恋人にはしない主義。
なのに、キスをしてきた。

『エロ大魔王のヨシキさんが、モデルの女の子に手ぇ出さないなんて、ありえない』

冗談とも本気ともつかない恋子さんの言葉を、ヨシキさんは否定しなかった。
こんなに素敵で才能もある人なのに、恋人がいないというのは、考えにくい。
わたしを好きだというヨシキさんの言葉に、嘘はないのかもしれないけど、それはただの友達程度の感覚で、恋とは違うものかもしれない。
こうしている今も、ヨシキさんにはちゃんとしたカノジョがいて、わたしはただ、遊ばれているだけなのかもしれない。
キスをしたのも、ただの気まぐれ。
もしかして、優花さんの元カレのように、二股も三股もかけているのかもしれない。

本当のことを知りたい。
でも、訊くのは怖い。

『遊びだよ』
なんて言われたら、わたしはどうするだろう?

悲しいかな。
いや。

むしろ怒りのあまり、平手打ちでもしてしまうかも。
それくらいわたしは、勝ち気で負けず嫌いなのだ。
わたしだけを見てもらわないと、気が済まないほどに。

つづく
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。