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「少しモヤモヤしたものを感じてしまいました」
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温泉でまったり癒されたあと、近くの古びた民家風の料理屋に移動し、少し早い夕食をとる。
熱々の大きな瓦の上に、牛肉のしぐれ煮と錦糸卵の載った『かわらそば』は、野趣があって味も抜群。とっても満足できるものだった。
「訊いていいですか?」
デザートの柚子シャーベットを食べながら、この旅行中、ずっと疑問に思っていたことを、わたしは口にした。
「ヨシキさんはこの場所にこだわりがあったみたいだけど、どうしてですか?」
一瞬、返事に迷ったような顔をしたヨシキさんだが、逆に尋ねてきた。
「凛子ちゃんは、ここ、気に入らなかった?」
「いえ。そんなことはないですけど」
「だったらいいじゃん。ここは海も綺麗で、ドライブコースも快適で、近場に温泉もあって、しかも人も少なくて、いいところだから、凛子ちゃんと来たかっただけだよ」
「ほんとうに、それだけの理由なのですか?」
「そうだよ」
「このお店も、『前来た時に社長に連れてきてもらった』と言っていましたけど、以前来たのは仕事でですか?」
「ああ。CM撮影で来たんだ」
「へぇ。そのCM、わたしも見てみたいです」
「だいぶ前のことだし、もうオンエアしてないよ。ネットで検索したら出てくるかもな」
「じゃあわたし、帰ってから調べてみます。検索ワードとか教えてくれませんか?」
「ん… 『森田美湖』『角島』『CM』でヒットすると思うよ」
「えっ? 森田美湖。あの森田美湖ですか?! 女優でモデルの!」
「そうだよ」
「森田美湖って、うちの父が大ファンなんです!
映画とかドラマとかよく出ていて、すっごく綺麗で魅力的で、わたしも好きなんです。
もう40代なのに、いまだに第一線でモデルをしていて、ファッション雑誌のカバーモデルにもなっていて、すごいなって思います。
そんな人とCMのお仕事をしたとか、すごいです! ヨシキさん」
「まあ、オレはただのアシスタントだけどな。社長がずっとカメラ回してたんだ」
「ではそのときに、みなさんでこのお店にも寄ったんですね」
「ああ。撮影が終わって、『ぼくが若い頃、デートで来た店』って、社長がここに連れてきてくれたんだ。昨日から今日のドライブコースも、だいたいロケの時といっしょだったよ。
あの時も、昨日泊まったホテルで宿泊して、角島大橋とその周辺で撮影したんだ」
「それで、ヨシキさんは道にも迷わなかったんですね。知った道みたいにスイスイ走るから、すごいなって思っていました」
「ああ。あのときもロケハンを兼ねていろいろドライブしたな。みっこと」
「みっこ?」
「あ… 森田美湖のニックネームだよ」
「ふぅん。みっこ…」
次のヨシキさんの言葉を待ちながら、わたしは最後のシャーベットを口に入れた。
頰杖ついたヨシキさんは、窓の外に視線を向け、ただ、雨粒がポタポタと滴り落ちる景色の向こうを、黙ったまま見つめているだけだった。
「…まあいいさ。そろそろ出よう。ちょっとのんびりしすぎたから、予定より遅くなっちまった。早く行かないと、飛行機に乗り遅れちまう」
食べ終えるわたしを待っていたかのように、ヨシキさんは伝票を手にして立ち上がる。
少しモヤモヤしたものを感じつつ、わたしも席を立つ。
なにが、『まあいい』のだろう?
撮影の仕事がらみで、なにかあったのだろうか?
『みっこ』と…
でも、歳の差があり過ぎるし、まさか… ね。
ふと、疑問が頭をかすめたものの、それ以上深く考えることもなく、残り少なくなった旅の時間を、わたしはヨシキさんと楽しく過ごした。
つづく
熱々の大きな瓦の上に、牛肉のしぐれ煮と錦糸卵の載った『かわらそば』は、野趣があって味も抜群。とっても満足できるものだった。
「訊いていいですか?」
デザートの柚子シャーベットを食べながら、この旅行中、ずっと疑問に思っていたことを、わたしは口にした。
「ヨシキさんはこの場所にこだわりがあったみたいだけど、どうしてですか?」
一瞬、返事に迷ったような顔をしたヨシキさんだが、逆に尋ねてきた。
「凛子ちゃんは、ここ、気に入らなかった?」
「いえ。そんなことはないですけど」
「だったらいいじゃん。ここは海も綺麗で、ドライブコースも快適で、近場に温泉もあって、しかも人も少なくて、いいところだから、凛子ちゃんと来たかっただけだよ」
「ほんとうに、それだけの理由なのですか?」
「そうだよ」
「このお店も、『前来た時に社長に連れてきてもらった』と言っていましたけど、以前来たのは仕事でですか?」
「ああ。CM撮影で来たんだ」
「へぇ。そのCM、わたしも見てみたいです」
「だいぶ前のことだし、もうオンエアしてないよ。ネットで検索したら出てくるかもな」
「じゃあわたし、帰ってから調べてみます。検索ワードとか教えてくれませんか?」
「ん… 『森田美湖』『角島』『CM』でヒットすると思うよ」
「えっ? 森田美湖。あの森田美湖ですか?! 女優でモデルの!」
「そうだよ」
「森田美湖って、うちの父が大ファンなんです!
映画とかドラマとかよく出ていて、すっごく綺麗で魅力的で、わたしも好きなんです。
もう40代なのに、いまだに第一線でモデルをしていて、ファッション雑誌のカバーモデルにもなっていて、すごいなって思います。
そんな人とCMのお仕事をしたとか、すごいです! ヨシキさん」
「まあ、オレはただのアシスタントだけどな。社長がずっとカメラ回してたんだ」
「ではそのときに、みなさんでこのお店にも寄ったんですね」
「ああ。撮影が終わって、『ぼくが若い頃、デートで来た店』って、社長がここに連れてきてくれたんだ。昨日から今日のドライブコースも、だいたいロケの時といっしょだったよ。
あの時も、昨日泊まったホテルで宿泊して、角島大橋とその周辺で撮影したんだ」
「それで、ヨシキさんは道にも迷わなかったんですね。知った道みたいにスイスイ走るから、すごいなって思っていました」
「ああ。あのときもロケハンを兼ねていろいろドライブしたな。みっこと」
「みっこ?」
「あ… 森田美湖のニックネームだよ」
「ふぅん。みっこ…」
次のヨシキさんの言葉を待ちながら、わたしは最後のシャーベットを口に入れた。
頰杖ついたヨシキさんは、窓の外に視線を向け、ただ、雨粒がポタポタと滴り落ちる景色の向こうを、黙ったまま見つめているだけだった。
「…まあいいさ。そろそろ出よう。ちょっとのんびりしすぎたから、予定より遅くなっちまった。早く行かないと、飛行機に乗り遅れちまう」
食べ終えるわたしを待っていたかのように、ヨシキさんは伝票を手にして立ち上がる。
少しモヤモヤしたものを感じつつ、わたしも席を立つ。
なにが、『まあいい』のだろう?
撮影の仕事がらみで、なにかあったのだろうか?
『みっこ』と…
でも、歳の差があり過ぎるし、まさか… ね。
ふと、疑問が頭をかすめたものの、それ以上深く考えることもなく、残り少なくなった旅の時間を、わたしはヨシキさんと楽しく過ごした。
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