あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
117 / 259
level 13

「いくつになっても純粋な目をできる人は、羨ましいです」

しおりを挟む
 2時間のレッスンが終わると、もう汗だくで、服も下着もびっしょり濡れていた。
そんなわたしに、森田さんは微笑みながらタオルを差し出してくれる。

「シャワー浴びるといいわ」
「ありがとうございます」
「そのあと、時間ある?」
「え? はい、大丈夫ですけど」
「じゃあ、お茶飲んでいかない?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「紅茶とマカロンを用意してるのよ。ちょっとお話しでもしましょ」

シャワーで汗を流してすっきりしたあと、リビングに通されたわたしは、暖炉の前のアンティークな花柄のソファに座り、森田さんが淹れて下さった紅茶を頂いた。
深い紺色のティーカップに、よく手入れされたピカピカの、ティサーバー。
どこかで、見覚えがある…

「あ。このティーサーバー。ヨシキさんのお部屋にあるものといっしょです」
「凛子ちゃん。ヨシキくんのお部屋に行ったことあるの?」
「はい」
「ふぅん。あのヨシキくんが、部屋に女の子をあげるなんてね~」
「森田さん、ご存知なんですか? ヨシキさんの…」
「『この部屋はオレだけの特別な空間』、なんでしょ?」
「え? ええ。そう言っていましたけど…」
「凛子ちゃんはヨシキくんの大切な恋人だしね。部屋に入れてもらえるのは、あたりまえか。ふふ」

ちょっと肩をすくめて微笑んだ森田さんは、ティーサーバーから紅茶をカップに注いだ。
胸がすくようにかぐわしく、かすかに渋みを漂わせたダージリンの香りが、気持ちを穏やかにさせる。
いっしょに出していただいた『ラデュレ』のマカロンも、色が可愛くて美味しく、自然と会話も弾んでくる。

モデルのこと、ファッションのこと。音楽やダンスのこと。
時間も忘れて、わたしたちはいろいろなことを話した。
ふた周り近くも歳が離れているのに、森田さんはわたしの話も同年代の友達のように、同じ目線で聞いてくれるし、日舞やなぎなた、コスプレのことまでも、興味を持ってうなずいてくれた。

「凛子ちゃんは、なぎなた全日本選手権6位なんだって?
今度あたしにも、日舞となぎなたを教えてくれない?」

人なつっこい微笑みを浮かべながら、森田さんは言った。

「わたしが森田さんにですか?」
「お互いギブアンドテイクで、公平でしょ?」
「そんな… 日舞やなぎなたなんて、森田さんのお役に立つかどうか」
「あら? いろんな世界を知っておくのは、モデルやお芝居をするにも、大切なことよ」
「でも、わたしなんかが教えるなんて…」
「あたしの知らない世界を知ってる凛子ちゃんは、そこでは尊敬する先輩で、師匠よ」
「そ、そうですか?」
「あたしね。いろんな世界を見てみたいの。
ファッションだけじゃなく、音楽や映画や絵画や、もちろん日舞やなぎなたとか、いろんな芸術にもたくさん触れて、もっともっと自分の内面を充実させていきたい。そうすることで引き出しも増えて、創造力も磨かれると思うのよ」

そう話す森田さんの瞳は、まるで小さな女の子のように、キラキラした好奇心で輝いていた。

羨ましいな。
いくつになっても、こういう純粋な目をできる人は。
ヨシキさんも、そう。
カメラや写真のことを話すとき、少年みたいにキラキラした瞳になる。

「そう言えば… ヨシキさんも同じようなことを話してくれました。『引き出しを持っておけ』と、社長から言われた、と」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...