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level 13
「いくつになっても純粋な目をできる人は、羨ましいです」
2時間のレッスンが終わると、もう汗だくで、服も下着もびっしょり濡れていた。
そんなわたしに、森田さんは微笑みながらタオルを差し出してくれる。
「シャワー浴びるといいわ」
「ありがとうございます」
「そのあと、時間ある?」
「え? はい、大丈夫ですけど」
「じゃあ、お茶飲んでいかない?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「紅茶とマカロンを用意してるのよ。ちょっとお話しでもしましょ」
シャワーで汗を流してすっきりしたあと、リビングに通されたわたしは、暖炉の前のアンティークな花柄のソファに座り、森田さんが淹れて下さった紅茶を頂いた。
深い紺色のティーカップに、よく手入れされたピカピカの、ティサーバー。
どこかで、見覚えがある…
「あ。このティーサーバー。ヨシキさんのお部屋にあるものといっしょです」
「凛子ちゃん。ヨシキくんのお部屋に行ったことあるの?」
「はい」
「ふぅん。あのヨシキくんが、部屋に女の子をあげるなんてね~」
「森田さん、ご存知なんですか? ヨシキさんの…」
「『この部屋はオレだけの特別な空間』、なんでしょ?」
「え? ええ。そう言っていましたけど…」
「凛子ちゃんはヨシキくんの大切な恋人だしね。部屋に入れてもらえるのは、あたりまえか。ふふ」
ちょっと肩をすくめて微笑んだ森田さんは、ティーサーバーから紅茶をカップに注いだ。
胸がすくように芳しく、かすかに渋みを漂わせたダージリンの香りが、気持ちを穏やかにさせる。
いっしょに出していただいた『ラデュレ』のマカロンも、色が可愛くて美味しく、自然と会話も弾んでくる。
モデルのこと、ファッションのこと。音楽やダンスのこと。
時間も忘れて、わたしたちはいろいろなことを話した。
ふた周り近くも歳が離れているのに、森田さんはわたしの話も同年代の友達のように、同じ目線で聞いてくれるし、日舞やなぎなた、コスプレのことまでも、興味を持ってうなずいてくれた。
「凛子ちゃんは、なぎなた全日本選手権6位なんだって?
今度あたしにも、日舞となぎなたを教えてくれない?」
人なつっこい微笑みを浮かべながら、森田さんは言った。
「わたしが森田さんにですか?」
「お互いギブアンドテイクで、公平でしょ?」
「そんな… 日舞やなぎなたなんて、森田さんのお役に立つかどうか」
「あら? いろんな世界を知っておくのは、モデルやお芝居をするにも、大切なことよ」
「でも、わたしなんかが教えるなんて…」
「あたしの知らない世界を知ってる凛子ちゃんは、そこでは尊敬する先輩で、師匠よ」
「そ、そうですか?」
「あたしね。いろんな世界を見てみたいの。
ファッションだけじゃなく、音楽や映画や絵画や、もちろん日舞やなぎなたとか、いろんな芸術にもたくさん触れて、もっともっと自分の内面を充実させていきたい。そうすることで引き出しも増えて、創造力も磨かれると思うのよ」
そう話す森田さんの瞳は、まるで小さな女の子のように、キラキラした好奇心で輝いていた。
羨ましいな。
いくつになっても、こういう純粋な目をできる人は。
ヨシキさんも、そう。
カメラや写真のことを話すとき、少年みたいにキラキラした瞳になる。
「そう言えば… ヨシキさんも同じようなことを話してくれました。『引き出しを持っておけ』と、社長から言われた、と」
つづく
そんなわたしに、森田さんは微笑みながらタオルを差し出してくれる。
「シャワー浴びるといいわ」
「ありがとうございます」
「そのあと、時間ある?」
「え? はい、大丈夫ですけど」
「じゃあ、お茶飲んでいかない?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「紅茶とマカロンを用意してるのよ。ちょっとお話しでもしましょ」
シャワーで汗を流してすっきりしたあと、リビングに通されたわたしは、暖炉の前のアンティークな花柄のソファに座り、森田さんが淹れて下さった紅茶を頂いた。
深い紺色のティーカップに、よく手入れされたピカピカの、ティサーバー。
どこかで、見覚えがある…
「あ。このティーサーバー。ヨシキさんのお部屋にあるものといっしょです」
「凛子ちゃん。ヨシキくんのお部屋に行ったことあるの?」
「はい」
「ふぅん。あのヨシキくんが、部屋に女の子をあげるなんてね~」
「森田さん、ご存知なんですか? ヨシキさんの…」
「『この部屋はオレだけの特別な空間』、なんでしょ?」
「え? ええ。そう言っていましたけど…」
「凛子ちゃんはヨシキくんの大切な恋人だしね。部屋に入れてもらえるのは、あたりまえか。ふふ」
ちょっと肩をすくめて微笑んだ森田さんは、ティーサーバーから紅茶をカップに注いだ。
胸がすくように芳しく、かすかに渋みを漂わせたダージリンの香りが、気持ちを穏やかにさせる。
いっしょに出していただいた『ラデュレ』のマカロンも、色が可愛くて美味しく、自然と会話も弾んでくる。
モデルのこと、ファッションのこと。音楽やダンスのこと。
時間も忘れて、わたしたちはいろいろなことを話した。
ふた周り近くも歳が離れているのに、森田さんはわたしの話も同年代の友達のように、同じ目線で聞いてくれるし、日舞やなぎなた、コスプレのことまでも、興味を持ってうなずいてくれた。
「凛子ちゃんは、なぎなた全日本選手権6位なんだって?
今度あたしにも、日舞となぎなたを教えてくれない?」
人なつっこい微笑みを浮かべながら、森田さんは言った。
「わたしが森田さんにですか?」
「お互いギブアンドテイクで、公平でしょ?」
「そんな… 日舞やなぎなたなんて、森田さんのお役に立つかどうか」
「あら? いろんな世界を知っておくのは、モデルやお芝居をするにも、大切なことよ」
「でも、わたしなんかが教えるなんて…」
「あたしの知らない世界を知ってる凛子ちゃんは、そこでは尊敬する先輩で、師匠よ」
「そ、そうですか?」
「あたしね。いろんな世界を見てみたいの。
ファッションだけじゃなく、音楽や映画や絵画や、もちろん日舞やなぎなたとか、いろんな芸術にもたくさん触れて、もっともっと自分の内面を充実させていきたい。そうすることで引き出しも増えて、創造力も磨かれると思うのよ」
そう話す森田さんの瞳は、まるで小さな女の子のように、キラキラした好奇心で輝いていた。
羨ましいな。
いくつになっても、こういう純粋な目をできる人は。
ヨシキさんも、そう。
カメラや写真のことを話すとき、少年みたいにキラキラした瞳になる。
「そう言えば… ヨシキさんも同じようなことを話してくれました。『引き出しを持っておけ』と、社長から言われた、と」
つづく
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