あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「カメラの前で演技する役者さんのすごさを実感します」

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 古びた大学の門や、草の茂った中庭、ところどころペンキの剥げかけている校舎の廊下などを背景にして、わたしたちは写真を撮った。

「ではみなさん~。次は学校での休み時間のシーン撮ります~☆
レイラ先生とみくちゃんは、教室の扉のところで話してる感じで、京子ちゃんは『今から部活だ』ってイメージで、元気よく背伸びして。憐花さまはひとり離れて、窓から外の景色を見てる雰囲気でお願いします~ o(*^‐^*)ノ」

公式ガイドブックのイラストをイメージして描いたという絵コンテを見ながら、桃李さんはわたしたちの立ち位置やポーズをして指示していく。

「桃李ちゃん、まるで映画監督みたいだな」

わたしが思っていることを、ヨシキさんが口にした。
丸めた絵コンテで自分の頭を軽く叩きながら、桃李さんは照れる。

「いや~。こうやって絵を作っていくのって、意外と楽しいですぅ (*^▽^*)
レイヤーさんもフォトジェニックな方たちばかりだし、桃李、監督業にのめり込みそうです (((o≧▽≦)o」
「まあ、桃李ちゃんの仕事もヘアメイクで、裏方っぽいしな」
「ヨシキさんは桃李の進路のこと、覚えてくれてたんですね。嬉しいですぅ (*^▽^*)」
「まあな。それで、桃李ちゃんの場所は?」
「あっ。桃李はあの階段の陰から、お手紙持って、ストーカーのようにこちらをのぞいてる風で」

そう言いながら、奥の階段を指差す。
あんなに遠くじゃ、小さくしか写らないのに、桃李さんはそれでいいのかな。

「よしっ。じゃあ、ポジションについたところで、みんなそれぞれポーズとって!
ソリンちゃんと栞里ちゃんは、もう少し顔をこちらに向けて。目線はカメラになくていいから、ふたりで会話してる感じを出して。
恋子ちゃん、目立ちすぎ~!
元気よくていいけど、もっと表情抑えて。ひとりだけ浮いてるぞ。
美月ちゃんは物想いにふけるように、頬杖ついてみようか。目線は窓の遠くな。
桃李ちゃん。もっとからだを壁から出して! 脚が少し見えた方がいいな… そう!」

桃李さんがつけたポーズの細部を調整しながら、ヨシキさんはシャッターを切っていく。
それぞれの役が決まっているとはいえ、全員の表情を揃えるのは、やはり難しい。
改めて、ドラマや映画で、カメラの前で演技する役者さんのすごさを実感する。
これだけ大勢で写る場合は、自分の好き勝手に演技するわけにはいかない。
協調性や、全体の和が大事になってくる。
わたしやソリンさん、栞里さんは、こういう合わせ撮影ははじめてで、みんなの流れを読みながらポーズをつけるのは、まだまだ上手くできないし、恋子さんは逆に、目立とうとして、全体の調和を壊してしまうことが多い。
だけど桃李さんは、コスプレ歴が長いだけあって、合わせ撮影のポイントを心得ている。
テキパキとわたしたちをリードしてくれるのだけど、自分はあまり前に出過ぎないように心がけているようだ。
なので、みんなの不興を買うこともないし、なにより、撮影の雰囲気がよくなる。
こういうところ、桃李さんの素直で気配りのできる性格が表れているのかもしれない。
ヨシキさんからダメ出しをされても、桃李さんはそれをいちいちフォローしてくれて、みんなのモチベーションが落ちることなく、撮影は順調に進んでいった。



ひとつのロケ場所でひととおり集合写真を撮り終えると、そのままの流れで個人撮影に移っていく。

「じゃあ、最初はあたしからね」

そう言った恋子さんは、みんなの返事も待たず、レンズの前に立った。

つづく
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