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「謝るのではなく、けんかを売りに来たのですか?」
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反射的に、わたしは鴨居にかけてある薙刀を手にとり、部屋を飛び出した。
急いで階段を駆け下り、居間にいる両親に、襖越しにひとこと断る。
「ちょっと、神社で素振りしてきます」
返事も待たずに家を飛び出すと、視界の隅に映るヨシキさんには目もくれず、わたしは反対方向に歩いていった。
その意味を悟ったのか、ヨシキさんは『TOYOTA bB』の運転席に乗り込み、静かにクルマを出した。
反対方向に走り去った『TOYOTA bB』は、わたしが行こうとしていた大きな楠の茂った神社の前に、すでに停まっていた。
通り過ぎざまにクルマのなかをのぞいてみたが、ヨシキさんはいない。
それにはかまわず、わたしは薙刀を小脇に抱え、鳥居をくぐって参道の石段を上がっていった。
しばらく歩くと、黒々とした木々の間に、神社の屋根が見えてくる。
ヨシキさんは…
そこにいた。
境内の入り口を守る狛犬の下で、沈鬱そうに腕を組んでじっと目を閉じ、うずくまっていた。
その横を、わたしは誰もいないかのように通り過ぎる。
境内の広い場所を探してそこに立つと、薙刀を中段に構え、大きく息を吸い込んだ。
「ふっ!」
気合を溜めて薙刀を振る。
切っ先がジンジンと震えて、空気を引き裂く。
がむしゃらに、わたしは薙刀を振り続けた。
できるだけ気を乱さないように、素振りに集中しようとするけど、どうしても背中にヨシキさんの視線を感じてしまう。
「さすが。全日本なぎなた選手権6位は、気迫が違うな」
「…」
その声を無視して、わたしは素振りを続けた。
「夜遅くごめんな」
「ヨシキさんのっ… ために… 出て来たわけじゃ… ありません!」
思いっきり薙刀を振りながら話しているせいで、言葉が切れ切れになって、力が入る。
「でも嬉しいよ。わざわざ出てきてくれて」
「わたしは、なぎなたの練習に出てきただけです。
そこにたまたま、ヨシキさんがいただけですからっ」
「相変わらず強情だな、凛子ちゃんは」
“ドスッ!”
石突きが地面に勢いよくぶつかる音が響く。
「謝りに来たんじなかったんですかっ? けんかを売りに来たんですか?!」
素振りをやめたわたしは、仁王立ちでヨシキさんを睨んだ。
一瞬ひるんだように見えたヨシキさんだったが、おもむろに立ち上がると、ゆっくりとわたしの方に近づいてきた。
こうしてヨシキさんと向き合うのは、久しぶり。
精いっぱい虚勢を張っているわたしだったが、苛立つ気持ちと同時に、胸が高鳴ってくる。
ヨシキさんが一歩一歩近づく度に、鼓動は速くなっていき、呼吸が乱れる。
素振りしたせいで、息が上がっているわけじゃない。
薙刀が届かないくらいのところで、ヨシキさんは立ち止まり、じっとわたしの瞳を見つめて言った。
「茶化してごめんな。ほんとに謝りたいんだよ」
まるですがるような表情で、わたしを見つめるヨシキさん。
やっぱりときめく。
こういう、憂いに満ちた瞳や、翳りのある眼差しって、ドキドキしてくるほど素敵。
そんな気持ちは押し隠し、自分でも驚くくらいそっけない口調で、わたしは応えた。
「手短にお願いします。なぎなたの練習すると言って出てきたので、あまり時間、ありませんから」
「そうか…」
「あやまることがあるなら、さっさと言って、さっさと帰って下さい」
「凛子ちゃん… つれないな」
「変なことしたら、この薙刀で串刺しにしますよ。これ、真剣だから」
「はは…」
乾いた笑いを浮かべたヨシキさんは、わずかにあとずさりした。
つづく
急いで階段を駆け下り、居間にいる両親に、襖越しにひとこと断る。
「ちょっと、神社で素振りしてきます」
返事も待たずに家を飛び出すと、視界の隅に映るヨシキさんには目もくれず、わたしは反対方向に歩いていった。
その意味を悟ったのか、ヨシキさんは『TOYOTA bB』の運転席に乗り込み、静かにクルマを出した。
反対方向に走り去った『TOYOTA bB』は、わたしが行こうとしていた大きな楠の茂った神社の前に、すでに停まっていた。
通り過ぎざまにクルマのなかをのぞいてみたが、ヨシキさんはいない。
それにはかまわず、わたしは薙刀を小脇に抱え、鳥居をくぐって参道の石段を上がっていった。
しばらく歩くと、黒々とした木々の間に、神社の屋根が見えてくる。
ヨシキさんは…
そこにいた。
境内の入り口を守る狛犬の下で、沈鬱そうに腕を組んでじっと目を閉じ、うずくまっていた。
その横を、わたしは誰もいないかのように通り過ぎる。
境内の広い場所を探してそこに立つと、薙刀を中段に構え、大きく息を吸い込んだ。
「ふっ!」
気合を溜めて薙刀を振る。
切っ先がジンジンと震えて、空気を引き裂く。
がむしゃらに、わたしは薙刀を振り続けた。
できるだけ気を乱さないように、素振りに集中しようとするけど、どうしても背中にヨシキさんの視線を感じてしまう。
「さすが。全日本なぎなた選手権6位は、気迫が違うな」
「…」
その声を無視して、わたしは素振りを続けた。
「夜遅くごめんな」
「ヨシキさんのっ… ために… 出て来たわけじゃ… ありません!」
思いっきり薙刀を振りながら話しているせいで、言葉が切れ切れになって、力が入る。
「でも嬉しいよ。わざわざ出てきてくれて」
「わたしは、なぎなたの練習に出てきただけです。
そこにたまたま、ヨシキさんがいただけですからっ」
「相変わらず強情だな、凛子ちゃんは」
“ドスッ!”
石突きが地面に勢いよくぶつかる音が響く。
「謝りに来たんじなかったんですかっ? けんかを売りに来たんですか?!」
素振りをやめたわたしは、仁王立ちでヨシキさんを睨んだ。
一瞬ひるんだように見えたヨシキさんだったが、おもむろに立ち上がると、ゆっくりとわたしの方に近づいてきた。
こうしてヨシキさんと向き合うのは、久しぶり。
精いっぱい虚勢を張っているわたしだったが、苛立つ気持ちと同時に、胸が高鳴ってくる。
ヨシキさんが一歩一歩近づく度に、鼓動は速くなっていき、呼吸が乱れる。
素振りしたせいで、息が上がっているわけじゃない。
薙刀が届かないくらいのところで、ヨシキさんは立ち止まり、じっとわたしの瞳を見つめて言った。
「茶化してごめんな。ほんとに謝りたいんだよ」
まるですがるような表情で、わたしを見つめるヨシキさん。
やっぱりときめく。
こういう、憂いに満ちた瞳や、翳りのある眼差しって、ドキドキしてくるほど素敵。
そんな気持ちは押し隠し、自分でも驚くくらいそっけない口調で、わたしは応えた。
「手短にお願いします。なぎなたの練習すると言って出てきたので、あまり時間、ありませんから」
「そうか…」
「あやまることがあるなら、さっさと言って、さっさと帰って下さい」
「凛子ちゃん… つれないな」
「変なことしたら、この薙刀で串刺しにしますよ。これ、真剣だから」
「はは…」
乾いた笑いを浮かべたヨシキさんは、わずかにあとずさりした。
つづく
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