156 / 259
level 17
「謝るのではなく、けんかを売りに来たのですか?」
反射的に、わたしは鴨居にかけてある薙刀を手にとり、部屋を飛び出した。
急いで階段を駆け下り、居間にいる両親に、襖越しにひとこと断る。
「ちょっと、神社で素振りしてきます」
返事も待たずに家を飛び出すと、視界の隅に映るヨシキさんには目もくれず、わたしは反対方向に歩いていった。
その意味を悟ったのか、ヨシキさんは『TOYOTA bB』の運転席に乗り込み、静かにクルマを出した。
反対方向に走り去った『TOYOTA bB』は、わたしが行こうとしていた大きな楠の茂った神社の前に、すでに停まっていた。
通り過ぎざまにクルマのなかをのぞいてみたが、ヨシキさんはいない。
それにはかまわず、わたしは薙刀を小脇に抱え、鳥居をくぐって参道の石段を上がっていった。
しばらく歩くと、黒々とした木々の間に、神社の屋根が見えてくる。
ヨシキさんは…
そこにいた。
境内の入り口を守る狛犬の下で、沈鬱そうに腕を組んでじっと目を閉じ、うずくまっていた。
その横を、わたしは誰もいないかのように通り過ぎる。
境内の広い場所を探してそこに立つと、薙刀を中段に構え、大きく息を吸い込んだ。
「ふっ!」
気合を溜めて薙刀を振る。
切っ先がジンジンと震えて、空気を引き裂く。
がむしゃらに、わたしは薙刀を振り続けた。
できるだけ気を乱さないように、素振りに集中しようとするけど、どうしても背中にヨシキさんの視線を感じてしまう。
「さすが。全日本なぎなた選手権6位は、気迫が違うな」
「…」
その声を無視して、わたしは素振りを続けた。
「夜遅くごめんな」
「ヨシキさんのっ… ために… 出て来たわけじゃ… ありません!」
思いっきり薙刀を振りながら話しているせいで、言葉が切れ切れになって、力が入る。
「でも嬉しいよ。わざわざ出てきてくれて」
「わたしは、なぎなたの練習に出てきただけです。
そこにたまたま、ヨシキさんがいただけですからっ」
「相変わらず強情だな、凛子ちゃんは」
“ドスッ!”
石突きが地面に勢いよくぶつかる音が響く。
「謝りに来たんじなかったんですかっ? けんかを売りに来たんですか?!」
素振りをやめたわたしは、仁王立ちでヨシキさんを睨んだ。
一瞬ひるんだように見えたヨシキさんだったが、おもむろに立ち上がると、ゆっくりとわたしの方に近づいてきた。
こうしてヨシキさんと向き合うのは、久しぶり。
精いっぱい虚勢を張っているわたしだったが、苛立つ気持ちと同時に、胸が高鳴ってくる。
ヨシキさんが一歩一歩近づく度に、鼓動は速くなっていき、呼吸が乱れる。
素振りしたせいで、息が上がっているわけじゃない。
薙刀が届かないくらいのところで、ヨシキさんは立ち止まり、じっとわたしの瞳を見つめて言った。
「茶化してごめんな。ほんとに謝りたいんだよ」
まるですがるような表情で、わたしを見つめるヨシキさん。
やっぱりときめく。
こういう、憂いに満ちた瞳や、翳りのある眼差しって、ドキドキしてくるほど素敵。
そんな気持ちは押し隠し、自分でも驚くくらいそっけない口調で、わたしは応えた。
「手短にお願いします。なぎなたの練習すると言って出てきたので、あまり時間、ありませんから」
「そうか…」
「あやまることがあるなら、さっさと言って、さっさと帰って下さい」
「凛子ちゃん… つれないな」
「変なことしたら、この薙刀で串刺しにしますよ。これ、真剣だから」
「はは…」
乾いた笑いを浮かべたヨシキさんは、わずかにあとずさりした。
つづく
急いで階段を駆け下り、居間にいる両親に、襖越しにひとこと断る。
「ちょっと、神社で素振りしてきます」
返事も待たずに家を飛び出すと、視界の隅に映るヨシキさんには目もくれず、わたしは反対方向に歩いていった。
その意味を悟ったのか、ヨシキさんは『TOYOTA bB』の運転席に乗り込み、静かにクルマを出した。
反対方向に走り去った『TOYOTA bB』は、わたしが行こうとしていた大きな楠の茂った神社の前に、すでに停まっていた。
通り過ぎざまにクルマのなかをのぞいてみたが、ヨシキさんはいない。
それにはかまわず、わたしは薙刀を小脇に抱え、鳥居をくぐって参道の石段を上がっていった。
しばらく歩くと、黒々とした木々の間に、神社の屋根が見えてくる。
ヨシキさんは…
そこにいた。
境内の入り口を守る狛犬の下で、沈鬱そうに腕を組んでじっと目を閉じ、うずくまっていた。
その横を、わたしは誰もいないかのように通り過ぎる。
境内の広い場所を探してそこに立つと、薙刀を中段に構え、大きく息を吸い込んだ。
「ふっ!」
気合を溜めて薙刀を振る。
切っ先がジンジンと震えて、空気を引き裂く。
がむしゃらに、わたしは薙刀を振り続けた。
できるだけ気を乱さないように、素振りに集中しようとするけど、どうしても背中にヨシキさんの視線を感じてしまう。
「さすが。全日本なぎなた選手権6位は、気迫が違うな」
「…」
その声を無視して、わたしは素振りを続けた。
「夜遅くごめんな」
「ヨシキさんのっ… ために… 出て来たわけじゃ… ありません!」
思いっきり薙刀を振りながら話しているせいで、言葉が切れ切れになって、力が入る。
「でも嬉しいよ。わざわざ出てきてくれて」
「わたしは、なぎなたの練習に出てきただけです。
そこにたまたま、ヨシキさんがいただけですからっ」
「相変わらず強情だな、凛子ちゃんは」
“ドスッ!”
石突きが地面に勢いよくぶつかる音が響く。
「謝りに来たんじなかったんですかっ? けんかを売りに来たんですか?!」
素振りをやめたわたしは、仁王立ちでヨシキさんを睨んだ。
一瞬ひるんだように見えたヨシキさんだったが、おもむろに立ち上がると、ゆっくりとわたしの方に近づいてきた。
こうしてヨシキさんと向き合うのは、久しぶり。
精いっぱい虚勢を張っているわたしだったが、苛立つ気持ちと同時に、胸が高鳴ってくる。
ヨシキさんが一歩一歩近づく度に、鼓動は速くなっていき、呼吸が乱れる。
素振りしたせいで、息が上がっているわけじゃない。
薙刀が届かないくらいのところで、ヨシキさんは立ち止まり、じっとわたしの瞳を見つめて言った。
「茶化してごめんな。ほんとに謝りたいんだよ」
まるですがるような表情で、わたしを見つめるヨシキさん。
やっぱりときめく。
こういう、憂いに満ちた瞳や、翳りのある眼差しって、ドキドキしてくるほど素敵。
そんな気持ちは押し隠し、自分でも驚くくらいそっけない口調で、わたしは応えた。
「手短にお願いします。なぎなたの練習すると言って出てきたので、あまり時間、ありませんから」
「そうか…」
「あやまることがあるなら、さっさと言って、さっさと帰って下さい」
「凛子ちゃん… つれないな」
「変なことしたら、この薙刀で串刺しにしますよ。これ、真剣だから」
「はは…」
乾いた笑いを浮かべたヨシキさんは、わずかにあとずさりした。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。