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「こんな無様な形で終わらせたくはなかったです」
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「えいっ」
「えいっっ」
「えいいっっ!!」
ふがいない演技しかできなかったわたしに、みっこさんはきっと失望しただろう。
だけど、彼女がくれたチャンスを、こんな無様な形で終わらせたくない。
もっといい演技がしたい!
わたしの力をすべて出し切りたい!
そう念じながら、わたしは一心不乱に、気合いを込めて打ち込んでいった。
“ビュッ ビュッ”
空気を切り裂く切っ先の音が、少しづつ鋭くなっていく。
額から汗がほとばしる。
からだの奥底から力が沸き上がってきて、かけ声にも気力が乗ってくる。
大勢の視線もカメラも、もう気にならない。
いつの間にかわたしはすっかり、演技に没頭していた。
「はいっ、オッケー! すごくよくなったよ、凛子ちゃん!!」
30分ほども素振りをしてただろうか。
突然の監督の大きな声で我に返り、わたしは思わず訊いた。
「え? 撮影は…」
「へぇ~。カメラ回してたのも気づかなかったんだ?
凛子ちゃんの集中力と気魄があんまりすごいから、そのまま撮ったよ」
「スチルも撮らせてもらったわよ。わたしも薙刀の演技ってはじめて見たけど、圧倒的で迫力あるわね~。感動したわ」
星川先生も微笑みながら言う。
「あ、ありがとうございます…」
「すごいの撮れたから、今度は大丈夫」
「でも…」
「そうね・・・ メイクと衣装を直して、一応撮っときましょうか」
「は、はい! お願いしますっ!」
乱れた衣装を整え、わたしはもう一度、撮影に臨んだ。
素振りでからだが温まり、集中力も高まったおかげで、もう緊張などない。
本番撮影はスムースにいき、あっという間にOKが出た。
「うんっ。最高以上だったわよ」
「あ、ありがとうございます」
「メイク直したのもよかったけど、練習の時の真剣な眼差しと汗が、ぐっと印象的だったから、使うのはそちらになるかもね」
「は、はい」
「じゃあ凛子ちゃん。お疲れさま」
「ありがとうございました!」
そう言って、わたしは深々とお辞儀をした。
“パチパチパチパチ…”
どこからか拍手の音が聞こえてきて、連鎖するように繋がっていく。
「お疲れさま~」
「お疲れ~」
「すっごいよかったよ」
「CM楽しみにしているからね」
ホリゾントを囲んでいたスタッフやクライアントさんが、口々にねぎらいの声をかけてくれる。
満場の喝采のなか、わたしは薙刀を抱えて深々とお辞儀をし、ホリゾントから降りた。
「伝説のはじまり。かもね」
ホリゾントから戻ったわたしを、さっきとは打って変わった笑みで迎えてくれたみっこさんは、茶化すように言った。
「伝説?」
「今日の撮影。凛子ちゃんがトップモデルになったとき、『はじめてのCM出演で、監督にダメ出しした』って語り継がれるわね」
「え?」
「監督がOK出したものを、撮り直させるなんて。駆け出しのひよっこモデルはそんな生意気なこと、できないものなのよ。ふつうは」
「で、でもわたし。あのままじゃ納得いかなくて」
「ふふ。さっきの凛子ちゃんの目、オーラがあったわ。はじめて会ったとき、あたしに喰らいついてきたときみたいに」
「すみません…」
「謝ることないのよ。そんな凛子ちゃんが大好きだから。
それに、最初の演技のままで妥協するような子だったら、あたし、あなたを見限ってたわ。集中力に欠けてふわふわしてて、素人のあたしから見ても、最低の演技だったもの」
「すっ、すみません」
「でも今のはすごかったわよ。気合がこもってて、目力あって。最高だった」
そう言って、みっこさんはニッコリ微笑んだ。
つづく
「えいっっ」
「えいいっっ!!」
ふがいない演技しかできなかったわたしに、みっこさんはきっと失望しただろう。
だけど、彼女がくれたチャンスを、こんな無様な形で終わらせたくない。
もっといい演技がしたい!
わたしの力をすべて出し切りたい!
そう念じながら、わたしは一心不乱に、気合いを込めて打ち込んでいった。
“ビュッ ビュッ”
空気を切り裂く切っ先の音が、少しづつ鋭くなっていく。
額から汗がほとばしる。
からだの奥底から力が沸き上がってきて、かけ声にも気力が乗ってくる。
大勢の視線もカメラも、もう気にならない。
いつの間にかわたしはすっかり、演技に没頭していた。
「はいっ、オッケー! すごくよくなったよ、凛子ちゃん!!」
30分ほども素振りをしてただろうか。
突然の監督の大きな声で我に返り、わたしは思わず訊いた。
「え? 撮影は…」
「へぇ~。カメラ回してたのも気づかなかったんだ?
凛子ちゃんの集中力と気魄があんまりすごいから、そのまま撮ったよ」
「スチルも撮らせてもらったわよ。わたしも薙刀の演技ってはじめて見たけど、圧倒的で迫力あるわね~。感動したわ」
星川先生も微笑みながら言う。
「あ、ありがとうございます…」
「すごいの撮れたから、今度は大丈夫」
「でも…」
「そうね・・・ メイクと衣装を直して、一応撮っときましょうか」
「は、はい! お願いしますっ!」
乱れた衣装を整え、わたしはもう一度、撮影に臨んだ。
素振りでからだが温まり、集中力も高まったおかげで、もう緊張などない。
本番撮影はスムースにいき、あっという間にOKが出た。
「うんっ。最高以上だったわよ」
「あ、ありがとうございます」
「メイク直したのもよかったけど、練習の時の真剣な眼差しと汗が、ぐっと印象的だったから、使うのはそちらになるかもね」
「は、はい」
「じゃあ凛子ちゃん。お疲れさま」
「ありがとうございました!」
そう言って、わたしは深々とお辞儀をした。
“パチパチパチパチ…”
どこからか拍手の音が聞こえてきて、連鎖するように繋がっていく。
「お疲れさま~」
「お疲れ~」
「すっごいよかったよ」
「CM楽しみにしているからね」
ホリゾントを囲んでいたスタッフやクライアントさんが、口々にねぎらいの声をかけてくれる。
満場の喝采のなか、わたしは薙刀を抱えて深々とお辞儀をし、ホリゾントから降りた。
「伝説のはじまり。かもね」
ホリゾントから戻ったわたしを、さっきとは打って変わった笑みで迎えてくれたみっこさんは、茶化すように言った。
「伝説?」
「今日の撮影。凛子ちゃんがトップモデルになったとき、『はじめてのCM出演で、監督にダメ出しした』って語り継がれるわね」
「え?」
「監督がOK出したものを、撮り直させるなんて。駆け出しのひよっこモデルはそんな生意気なこと、できないものなのよ。ふつうは」
「で、でもわたし。あのままじゃ納得いかなくて」
「ふふ。さっきの凛子ちゃんの目、オーラがあったわ。はじめて会ったとき、あたしに喰らいついてきたときみたいに」
「すみません…」
「謝ることないのよ。そんな凛子ちゃんが大好きだから。
それに、最初の演技のままで妥協するような子だったら、あたし、あなたを見限ってたわ。集中力に欠けてふわふわしてて、素人のあたしから見ても、最低の演技だったもの」
「すっ、すみません」
「でも今のはすごかったわよ。気合がこもってて、目力あって。最高だった」
そう言って、みっこさんはニッコリ微笑んだ。
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