あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
212 / 259
level 23

「わたしのコスプレを撮ってみたかったんですか?」

それは…
自分でも薄々感じていたことだった。

「凛子ちゃんがコスプレはじめたのって、『自分を変えたい』から。よね?」
「は、はい」
「なりたかった自分に、今、凛子ちゃんはなれてる?」
「…」

まっすぐな瞳で、みっこさんはわたしを見つめていた。
改まって訊かれると、答えに詰まる。

確かに、、、
最初の動機は純粋だった。

『自分を変えたい』

この想いで、わたしはコスプレに飛び込んでいった。
だけど、この世界に染まっていくにつれて、なにかを失っていったような気もする。
ヨシキさんへの当てつけもあって、ムキになって見境なく、いろんなカメコと個撮もしてきた。
そうして今になって、それを後悔してると感じる自分がいる。
やればやるほど虚しさが溜まっていくっていうか、自分がつまらない存在に落ちていくような気がしていたのだ。
だからこうして、『コスプレを卒業しろ』と言われても、なんの抵抗も未練もない。
むしろ、いいきっかけかもしれない。
大きく深呼吸して、わたしは晴れやかな声で、みっこさんに答えた。

「わかりました。コスプレはもう、卒業します。
わたしがイベントに参加しはじめたのは、コスプレで有名になるとか、周りからチヤホヤされるとかじゃなくて、自分の進む道を見つけることだったと思いますから」
「それはもう、達成できたってわけね」
「はい」
「よかった」

安堵するように、みっこさんはニッコリ微笑んだ。

「ん~… だけど残念」

となりに座って話を聞いていた川島さんが、いきなりオーバーなゼスチャーで口を挟んだ。

「実はぼくも、凛子ちゃんのコスプレ撮ってみたかったんだよ」
「ええっ? 川島さんがですか?」「えっ? 川島くんが?」

わたしとみっこさんの声がダブった。
そんなわたしたちを見ながら、川島さんはおどけた口調で言う。

「コスプレフォトには、未来を感じるんだ」
「未来?」
「話を聞いてぼくも、コスプレの画像とかを検索して、いろいろ見てみた。
確かにつまんない写真は多い。
だけど、ハッと息を飲む斬新なヤツもあったよ。
ぼくらみたいな、カメラでめし食ってる人間の常識を打ち破るようなヤツが」
「そうね。あのレタッチとか顔の加工とか、プロの世界じゃ考えられないものだしね」
「そうそう。意外といいじゃないか。あのプラスティッキーな肌の質感。
実在の女の子が、まるで作り物のフィギュアみたいに表現されてて、こういうのはアリかな」
「そうなんです! そういうのって、コスプレの世界観にハマってて、まるでゲームかアニメのキャラになったみたいに感じるんです」
「2.5次元みたいなものね」

川島さんの言葉に共感して応えたわたしに、みっこさんは茶化すように微笑んだ。

「ぼくらみたいな頭の古いクリエイターには、コスプレフォトは新しい刺激だよ。
凛子ちゃんの画像をぼくも見たけど、あのボーカロイドっていうやつ? キュートでちょっぴりセクシーでよかったよ。プリーツのミニスカートが凛子ちゃんの美脚にぴったりでさ。ぼくも撮りたいって思ったよ。
あと、甲冑にミニの振り袖を纏った、えっと…」
「『散華転生』の、お市の方ですか?」
「そう、それ! あの衣装はデザインも秀逸だし、手間がかかっててすごいよ」
「わかっていただけますか、川島さん。
わたしは衣装の手作りはできませんけど、すごい人になると、甲冑なんかをモールドで樹脂成形したりして、手作りしてるんですよ」
「そりゃすごいな。コスプレなんてしょせん素人の撮影ごっこだって、甜めてかかってたけど、浅はかだったよ。コスプレも、衣装も撮影も極めれば、ちゃんとした芸術にまで昇華できる可能性を秘めてるな」

つづく
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
恋愛
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。