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level 25
「どこへ向かって突っ走っているかわかりません」
level 25
もう1時間くらい、わたしは知らない街角を彷徨っていた。
財布も定期も携帯も持ってきてないから、ほんとうに家まで歩いて帰るしかない。
すれ違う人が振り返って、怪訝そうにわたしを眺めていく。
そりゃそうだ。
日の暮れた冬空の下、ブレザーにミニスカートだけの制服姿は、見るからに寒々しいだろう。
冷たい風が体温を奪う。
指先がかじかんで痺れる。
トボトボと歩きながら両手を口元に当て、少しでも暖かくなるよう、わたしは息を吹きかけてみる。
真っ白な吐息が、寒空に消えていく。
舗道の端に残った雪がシャーベット状になり、ローファーの底から滲みてきて足先を濡らし、からだを芯から凍えさせて、つま先の感覚がなくなっていく。
あてもなく歩きながら、わたしの頭の中にはこの半年間のことが、何度も何度もリフレインしていた。
その都度、自分に問うてみる。
梅雨明けの蒸し暑い日。
あのときのわたしは、確かに自分を変えたくて、『コスプレ』という、知らない世界に飛び込んだ。
だけど、わたしがなりたかったのは、本当に今の自分なんだろうか?
寒さで頭が冷えてくると、さっきまでの血気にはやった気持ちも醒めてくる。
この数ヶ月、確かにわたしは自分を見失っていた。
みんなが言うように、言葉遣いも乱れてきたし、コスプレに染まっていけばいくほど、どんどん汚れて堕ちていくのを、自分でも感じていた。
別に、コスプレが悪いわけじゃない。
だけど、『素敵レイヤー』『大物レイヤー』と周囲から称賛され、カメコからどんなに個撮の依頼が来たって、気持ちが報われることはなかった。
報われないと思ってみても、自分じゃもう、どうすることもできなかった。
とにかく突っ走るしかなかった。
エンジンはフル回転してるのに、ハンドルの壊れたクルマのように、どこへ向かって突っ走っているかわからない。
いったいどこから…
どこからどうやり直せば、わたしは自分らしい道に戻れるんだろ。
寒空に向かって、わたしは大きくため息つき、自嘲するかのように、ひとことつぶやいた。
「『狂夜ビッチ化』、かぁ、、、
うまいこと言うわよね」
そのあとは、どこをどう歩いたか、覚えていない。
気がつくとわたしは、瀟洒な洋館の前に立っていた。
ここは、、、
森田美湖さんの家。
灯りがついてる。
みっこさん、家にいるんだ。
「凛子ちゃん? どうしたの、その寒そうな格好は? さ、入ってよ」
思い切って呼び鈴を鳴らすとみっこさんが出てきて、わたしの格好を見て驚き、家の中に招き入れてくれた。
リビングにわたしを通すと、暖炉の前に座るように勧めてくれ、紅茶を淹れるために、キッチンへ立った。
煉瓦作りのマントルピースには、たくさんの新しい薪がくべられていて、オレンジ色の炎が燃え盛っている。
…あったかい。
ほっとするぬくもり。
凍りついた全身の細胞がさらさらと解けていき、生き返った気がする。
「そういえば、『冬になったらいっしょに、暖炉の前でなごもう』って、言ったことあったわね。凛子ちゃんがはじめて、ここにレッスンに来た日だったかな」
コクンコクンと、わたしが紅茶を飲むのをじっと見つめながら、みっこさんは懐かしむように言った。
「…そうでした。
『暖炉ってすごく癒し効果があるから、揺れる炎を見ながらココアとか飲んでると、仕事の疲れなんて忘れちゃう』って、みっこさんおっしゃっていました」
「そうだったわね」
「あの…」
紅茶を飲んで、からだが温まってくると、気持ちも正気に戻ってくる。
カップをソーサーに戻しながら、わたしは頭を下げて謝った。
つづく
もう1時間くらい、わたしは知らない街角を彷徨っていた。
財布も定期も携帯も持ってきてないから、ほんとうに家まで歩いて帰るしかない。
すれ違う人が振り返って、怪訝そうにわたしを眺めていく。
そりゃそうだ。
日の暮れた冬空の下、ブレザーにミニスカートだけの制服姿は、見るからに寒々しいだろう。
冷たい風が体温を奪う。
指先がかじかんで痺れる。
トボトボと歩きながら両手を口元に当て、少しでも暖かくなるよう、わたしは息を吹きかけてみる。
真っ白な吐息が、寒空に消えていく。
舗道の端に残った雪がシャーベット状になり、ローファーの底から滲みてきて足先を濡らし、からだを芯から凍えさせて、つま先の感覚がなくなっていく。
あてもなく歩きながら、わたしの頭の中にはこの半年間のことが、何度も何度もリフレインしていた。
その都度、自分に問うてみる。
梅雨明けの蒸し暑い日。
あのときのわたしは、確かに自分を変えたくて、『コスプレ』という、知らない世界に飛び込んだ。
だけど、わたしがなりたかったのは、本当に今の自分なんだろうか?
寒さで頭が冷えてくると、さっきまでの血気にはやった気持ちも醒めてくる。
この数ヶ月、確かにわたしは自分を見失っていた。
みんなが言うように、言葉遣いも乱れてきたし、コスプレに染まっていけばいくほど、どんどん汚れて堕ちていくのを、自分でも感じていた。
別に、コスプレが悪いわけじゃない。
だけど、『素敵レイヤー』『大物レイヤー』と周囲から称賛され、カメコからどんなに個撮の依頼が来たって、気持ちが報われることはなかった。
報われないと思ってみても、自分じゃもう、どうすることもできなかった。
とにかく突っ走るしかなかった。
エンジンはフル回転してるのに、ハンドルの壊れたクルマのように、どこへ向かって突っ走っているかわからない。
いったいどこから…
どこからどうやり直せば、わたしは自分らしい道に戻れるんだろ。
寒空に向かって、わたしは大きくため息つき、自嘲するかのように、ひとことつぶやいた。
「『狂夜ビッチ化』、かぁ、、、
うまいこと言うわよね」
そのあとは、どこをどう歩いたか、覚えていない。
気がつくとわたしは、瀟洒な洋館の前に立っていた。
ここは、、、
森田美湖さんの家。
灯りがついてる。
みっこさん、家にいるんだ。
「凛子ちゃん? どうしたの、その寒そうな格好は? さ、入ってよ」
思い切って呼び鈴を鳴らすとみっこさんが出てきて、わたしの格好を見て驚き、家の中に招き入れてくれた。
リビングにわたしを通すと、暖炉の前に座るように勧めてくれ、紅茶を淹れるために、キッチンへ立った。
煉瓦作りのマントルピースには、たくさんの新しい薪がくべられていて、オレンジ色の炎が燃え盛っている。
…あったかい。
ほっとするぬくもり。
凍りついた全身の細胞がさらさらと解けていき、生き返った気がする。
「そういえば、『冬になったらいっしょに、暖炉の前でなごもう』って、言ったことあったわね。凛子ちゃんがはじめて、ここにレッスンに来た日だったかな」
コクンコクンと、わたしが紅茶を飲むのをじっと見つめながら、みっこさんは懐かしむように言った。
「…そうでした。
『暖炉ってすごく癒し効果があるから、揺れる炎を見ながらココアとか飲んでると、仕事の疲れなんて忘れちゃう』って、みっこさんおっしゃっていました」
「そうだったわね」
「あの…」
紅茶を飲んで、からだが温まってくると、気持ちも正気に戻ってくる。
カップをソーサーに戻しながら、わたしは頭を下げて謝った。
つづく
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