あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
231 / 259
level 25

「暖炉の炎を見ていると、人恋しくなってきます」

しおりを挟む
「すみません。突然押しかけてしまって」

忙しい彼女にアポもとらず、レッスン日でもないのに家に上がり込んで、みっこさんは迷惑してるかもしれない。
しかし、彼女は優しくかぶりを振った。

「ちょうどね、あたしも、だれかと話しがしたいなって、思ってたとこなの。
冬の夜って、ひとりでいるのは淋しいじゃない。特に、こんな雪の夜はね。
暖炉に火を入れてあったかい炎を見てると、なんだか人恋しくなってきちゃってね。
だから、凛子ちゃんが来てくれて、あたしも嬉しいわ」
「ありがとうございます。そんな風に言って下さって」
「いいのよ。紅茶のおかわり、いる?」
「みっこさん」
「ん?」
「わたし、どこで間違えたんでしょうか?」
「…話してみて?」

そう言いながら、みっこさんは紅茶カップとソーサーを手に持って、わたしのとなりに座り込む。
橙色に揺らめく暖炉の炎を見つめながら、この半年間のことを洗いざらい、わたしは打ち明けた。

はじめてコスプレイベントに参加した、去年の夏。
ヨシキさんに写真を撮られた日のこと。
桃李さんにイベント会場で声をかけられて、コスプレにハマっていったこと。
『神カメコ』と呼ばれ、女性レイヤーに絶大な人気のあるヨシキさんのこと。
そのヨシキさんから個撮に誘われ、夜の海辺でキスをされて、次の日には部屋に泊まり込み、すぐに深い仲になったこと。
家族に偽って、山口のリゾートホテルに泊まり旅行に行って、ヌード写真まで撮られたこと。
旅行の間中、朝から晩までいろんなところでエッチしていたこと。
翌日、母にバレてしまったこと。
そして、ヨシキさんの勤めるスタジオで撮ってもらって、川島社長やみっこさんに出会ったこと。


こんなに素直に、自分のことを人に話したのは、これがはじめてだった。
ふた回りも年が離れていて、いつも的確なアドバイスをくれるお姉さんのような存在だから、心が開けたのかもしれない。
じっと耳を傾けているみっこさんに、わたしは訊いてみた。

「みっこさん。ネット掲示板ってご存知ですか?」
「知ってるわよ。いろいろ社会問題にもなったしね。なかでも、モデル掲示板とかコスプレ掲示板は誹謗中傷の書き込みが多くて、荒れやすいって聞いたことあるわ」
「わたし、その掲示板を見させられたんです。おそらく、ヨシキさんが二股かけていたレイヤーから。
そこでヨシキさんの悪口雑言をイヤっていう程読まされて、彼がいろんな女性レイヤーとつきあってるのを知って、自分や桃李さんが掲示板に晒されて貶められてるのを見て、心がすさんで、、、
それが原因で、ヨシキさんとはいったん別れて。
元の鞘に収まったものの、わたしはどんどん自分を見失っていって、、、」

こうしてみっこさんに話してるだけでも、あのときの屈辱がビデオでも見るように、まざまざと甦ってくる。
あの日からがむしゃらに、わたしはコスプレに打ち込んだ。
わたしを嘲笑っていたヤツらを見返そうと、必死になった。
ヨシキさんの鼻をあかしてやろうと、意地になった。
片っ端から目につくコスプレをしまくって、ポージングを研究して。みっこさんの薦めるモデル事務所に入ったのも、不純な動機もあったかもしれない。
好きでもない、尊敬もしてないカメコと個撮したり、イベントで囲み撮影されたりするうちに、自分のなかの矛盾はどんどん大きくなっていった。

「わたし、みっこさんに謝らなくちゃいけないことがあるんです」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...