あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「今夜くらいは忘れた方がいいでしょうか」

「そんな純真で、心の痛みをいつまでも忘れないでいるみっこさんが、わたしは好きです」
「あ、ありがとう」
「もう、軽くなって下さい。みっこさんはなにも壊してないと思います。
だって今は、川島さんとあんなに仲いいし。
そういう事件があったからこそ、今の素敵なみっこさんがあるんだと思います」
「そう… そうよね。さつきも今は二児の母で、幸せになってることだし」

安心した彼女を見て、わたしは腕の力を緩めた。
今さらながら、頬が赤くなってくる。
な、なんてことしちゃったんだろ。
ふた周りも年上の女の人を、『可愛い』とか思うなんて、、、

「そっ、それでみっこさんは、川島さんとは結局…」

取り繕う様に、わたしは彼女に訊いた。
抱きしめられたことなんかさらっと忘れたように、みっこさんは冷めた口調で答える。

「つきあってないわよ。ただのいいお友達」
「そうなんですか。なんか、意外です」
「全然意外じゃないわ。あたしの美意識に反するし、道義的にもできないわよ。
これで川島くんとつきあってたりしたら、それこそ三流ドラマの略奪愛みたいじゃない。そんなの、プライドが許さないわ」
「なんか、、、尊敬します」
「尊敬?」
「だって、そうやってドロドロとした三角関係を乗り越えて、20年も友達でいられるなんて。しかも男女の友情なんて。
みっこさんと川島さんの関係って、なんだか素敵です」
「素敵か。ありがと」
「いえ、、、」
「だからね。あたしもよくわかるのよ。その、桃李さんって子の苦しみが」
「え?」
「いい子なのね。その子」
「…ええ」

桃李さんの笑顔が、わたしの脳裏をよぎる。
いつだってテンション高めで、アニメっぽいオーバーな仕草だけど、なんだか癒される微笑み。
その微笑みの裏には、みっこさんのような苦悩も隠されていたのかもしれない。
重い荷物を背追い込みながら、いつでも前向きに生きているからこそ、彼女に惹きつけられたのかもしれない。
そして、ヨシキさんも、、、

「彼女といるといつも癒されました。わたしには、、、 真似できないです」

そう応えて、わたしはみっこさんの顔を見た。
彼女はわたしをじっと見つめ、暖炉の炎のような、あったかな微笑みを浮かべる。

「いいんじゃないの? 間違えたって」
「え?」
「完璧な人生を目指す必要はないわ。
間違ったり迷ったり、行き止まりで引き返したり…
確かにそのときは辛いことだけど、諦めずに自分の道を探していれば、いつかはきっかけが掴めるものよ」
「そう、、、 ですよね」
「ま、ポジティブでいようなんて、口で言うのは簡単だけどね」
「そうですね。それを実際にやるのは難しいですよね」
「大事なのはストレス発散と気分転換。
凛子ちゃん、いける口なんでしょ?」

そう言ってみっこさんは、グラスを傾けるポーズをして、ウィンクした。

「えっ?」
「こういうグジュグジュした気分は、アルコールで洗い流すのがいちばん。
聞いてるわよ。凛子ちゃんお酒強いって。今夜は飲も!」(作者註*未成年にお酒を勧めてはいけません)
「え。でもわたし、もうすぐセンター試験で、そろそろ帰って勉強しないと、、、」
「そんなの今夜くらいは忘れなさいよ。試験までまだ一週間あるじゃない。
勉強なんて、やらなきゃと思ってぐずぐず引きずるより、一度はパアッと忘れてリフレッシュした方が、はかどるものよ。特にこんな夜には、ね」
「、、、そうかもしれません」
「待ってて。とっておきのワインを開けるわ。オードブルも用意するから!」
「わたしも手伝います」
「お願いね」

つづく
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