239 / 259
level 25
「どうでもいいことで悩んでいたように感じます」
しおりを挟む
冷蔵庫から出されたチーズや生ハムやフルーツを、わたしはお皿に並べた。
みっこさんはキッチンの隅にあるワインセラーを開け、ワインを選んでいる。
「今夜は特別。これにしましょ」
濃緑のボトルを取り出し、みっこさんはフランス語で書かれたラベルをわたしに見せて言った。
「1991年のブルゴーニュの赤。とっておきのやつよ」
「すごいです! 23年ものですか?!」
「あたしが大学生だった年に仕込まれたワインね。なんだか奇遇」
「運命って感じですね」
夜が更けるまで、わたしたちはワイングラス片手に、恋話に花を咲かせた。
1991年のヴィンテージワインは、花のような素晴らしい香りを漂わせてくる。
ひとくち含むと、濃厚で複雑な余韻がまったりとたなびき、すうっとからだの奥に消えていく。
とっても魅惑的な風味。
「すごく美味しいです。まるでみっこさんの人生みたいに熟成されて、まろやかで濃厚な香りがあって」
「あは。凛子ちゃんも語るわね。じゃああなたは、とれたてのボジョレーヌーボーってとこかな。フレッシュで爽やかで」
「ボジョレーは長期保存しても、美味しくならないそうですよ」
「あら。よく知ってるのね」
「父がよく言ってます。こんなフルーティーで軽いワインなんて、お酒じゃないって」
「さすが鹿児島県人。さ、乾杯! 今夜は楽しも!!」
そう言ってみっこさんは、空になったグラスにワインを注いでくれる。
わたしたちは何度も乾杯を重ねた。
楽しい。
こんな気持ちになったのは、いつ以来だろ。
こうしてみっこさんと、暖炉の側でワインを飲みながらいろいろなことをしゃべってると、ヨシキさんのことも、桃李さんのことも、どうでもいいことで悩んでいたように感じる。
優雅なワインの香りといっしょに、ふたりに対する執着が、さらさらと解けて、消えていく。
ヨシキさんにはいろいろムカついてきたけど、今ならそれも流せそう。
“ピコン”
そのとき、みっこさんのスマホが鳴った。
「ちょっと待って、お仕事メール」
そう言ってみっこさんはスマホの画面を見ていたが、パッと瞳を輝かせた。
「おめでとう! 凛子ちゃん」
「え?」
「やったわ! あなた、今年のアルディア化粧品の、夏キャンモデルに選ばれたわよ!」
「え? ほんとですか?!」
「プロデューサーさんが知らせてくれたわ。これから忙しくなるわよ。夏キャンでブレイクするモデルさんも多いしね。ロケ場所はまだ決まってないけど… あたしがやったときはモルディブだったわ」
「えっ? みっこさんもアルディア化粧品のサマーキャンペーンモデルを、されたことがあるんですか?」
「20年以上前の、それこそ大学生だったときだけどね。アルバムにもあったでしょ。モルディブで撮った写真」
「あの、海のとっても綺麗な写真!」
「そう。さつきと川島くんにはスタッフに入ってもらって、いっしょにモルディブに行ったのよ。
ぶっちゃけ、そこがあたしたちのターニングポイントになったんだけどね」
「詳しく聞いてみたいです。そのときのこと」
「ふふ。いいわよ。でも、ちょっと待ってね」
そう言いながらスマホを手に取ったみっこさんは、どこかに電話をかけた。
数コールのあと、相手が電話に出る気配がする。
「あ。川島くん? いい知らせよ。凛子ちゃんが例のオーディション受かったの。
そう… アルディアの夏キャン。
でしょ? あたしも絶対いけると思ってたんだ。それでね、多分カメラマンは川島くんにお願いすることになるから、よろしくね。え? 今から? そうね…」
わたしをチラリと見た彼女は、電話の向こうの川島さんに言った。
つづく
みっこさんはキッチンの隅にあるワインセラーを開け、ワインを選んでいる。
「今夜は特別。これにしましょ」
濃緑のボトルを取り出し、みっこさんはフランス語で書かれたラベルをわたしに見せて言った。
「1991年のブルゴーニュの赤。とっておきのやつよ」
「すごいです! 23年ものですか?!」
「あたしが大学生だった年に仕込まれたワインね。なんだか奇遇」
「運命って感じですね」
夜が更けるまで、わたしたちはワイングラス片手に、恋話に花を咲かせた。
1991年のヴィンテージワインは、花のような素晴らしい香りを漂わせてくる。
ひとくち含むと、濃厚で複雑な余韻がまったりとたなびき、すうっとからだの奥に消えていく。
とっても魅惑的な風味。
「すごく美味しいです。まるでみっこさんの人生みたいに熟成されて、まろやかで濃厚な香りがあって」
「あは。凛子ちゃんも語るわね。じゃああなたは、とれたてのボジョレーヌーボーってとこかな。フレッシュで爽やかで」
「ボジョレーは長期保存しても、美味しくならないそうですよ」
「あら。よく知ってるのね」
「父がよく言ってます。こんなフルーティーで軽いワインなんて、お酒じゃないって」
「さすが鹿児島県人。さ、乾杯! 今夜は楽しも!!」
そう言ってみっこさんは、空になったグラスにワインを注いでくれる。
わたしたちは何度も乾杯を重ねた。
楽しい。
こんな気持ちになったのは、いつ以来だろ。
こうしてみっこさんと、暖炉の側でワインを飲みながらいろいろなことをしゃべってると、ヨシキさんのことも、桃李さんのことも、どうでもいいことで悩んでいたように感じる。
優雅なワインの香りといっしょに、ふたりに対する執着が、さらさらと解けて、消えていく。
ヨシキさんにはいろいろムカついてきたけど、今ならそれも流せそう。
“ピコン”
そのとき、みっこさんのスマホが鳴った。
「ちょっと待って、お仕事メール」
そう言ってみっこさんはスマホの画面を見ていたが、パッと瞳を輝かせた。
「おめでとう! 凛子ちゃん」
「え?」
「やったわ! あなた、今年のアルディア化粧品の、夏キャンモデルに選ばれたわよ!」
「え? ほんとですか?!」
「プロデューサーさんが知らせてくれたわ。これから忙しくなるわよ。夏キャンでブレイクするモデルさんも多いしね。ロケ場所はまだ決まってないけど… あたしがやったときはモルディブだったわ」
「えっ? みっこさんもアルディア化粧品のサマーキャンペーンモデルを、されたことがあるんですか?」
「20年以上前の、それこそ大学生だったときだけどね。アルバムにもあったでしょ。モルディブで撮った写真」
「あの、海のとっても綺麗な写真!」
「そう。さつきと川島くんにはスタッフに入ってもらって、いっしょにモルディブに行ったのよ。
ぶっちゃけ、そこがあたしたちのターニングポイントになったんだけどね」
「詳しく聞いてみたいです。そのときのこと」
「ふふ。いいわよ。でも、ちょっと待ってね」
そう言いながらスマホを手に取ったみっこさんは、どこかに電話をかけた。
数コールのあと、相手が電話に出る気配がする。
「あ。川島くん? いい知らせよ。凛子ちゃんが例のオーディション受かったの。
そう… アルディアの夏キャン。
でしょ? あたしも絶対いけると思ってたんだ。それでね、多分カメラマンは川島くんにお願いすることになるから、よろしくね。え? 今から? そうね…」
わたしをチラリと見た彼女は、電話の向こうの川島さんに言った。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる