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01 PERKY JEAN
PERKY JEAN 9
夜に訪れた海は、わたしたちが見た景色とは、まったく違う顔をしていた。
昼間、あれだけ賑やかで歓声の沸いていた海岸は、今は人影もなく、吸い込まれそうなくらい真っ黒な海が横たわり、ただ、波の音だけが同じリズムで、飽きることなく繰り返している。
ときおり、遠くの岬の灯台が、四人の姿を闇の中に浮かび上がらせる。
声を出せば、ピンと張った空気が壊れそう。
そんな静けさを切り裂くように、爆音を響かせたクルマが、時折海岸沿いの道を走り抜けていく。
「みっこ、灯台の方に行ってみようゼ」
「サッキ、俺達はこっちに行こ」
あらかじめ打ち合わせていたかのように、彼らは別々の場所にわたしたちを誘った。
えっ?
お互いふたりっきりになるの?
いやよ。
絶対イヤッ!
「もう少しいっしょに歩きましょ。楽しくおしゃべりしたいわ」
みっこの言葉に男たちはしかたなくうなずき、『楽しいおしゃべり』をはじめた。
サングラスの質問は次第に露骨になってきた。
「みっこ。おまえもうバージンじゃないだろ? 何でも知ってるって感じで、慣れてるもんな」
「あら? あなたたちのことは知らないわ」
「じゃ、オレを知ってみろヨ」
「ふふ。あなたがじょうずに口説けたら、考えてもいいわ」
ふぅ…
わたしにはついていけない会話。
でも彼女、ほんとにそんな経験あるのかしら?
それはそれで興味はあるかも。
「サッキはどうなん?」
不意にニキビが訊いてきた。
「えっ? わたし?」
なんて答えたら…
しかし、わたしが迷う間もなく、みっこがフォローを入れてきた。
「この子にはちゃんと彼氏、いるのよ。だから手なんか出したらダメだからね」
ニキビは『チッ』と舌打ちしたような顔。
ふん、いい気味。
それにしても、みっこの機転には感心する。
ゆるやかに弧を描いた長い砂浜を、わたしたちはあてなく歩いていた。
もう、小一時間ほど歩いただろうか。
小さな湾を隔ててほとんど正面に、クルマを止めている海水浴場の水銀灯や、海の家の明かり、時間待ちをしているバスの室内灯なんかが、遠くにチラチラと瞬いている。岬の灯台は山に隠れて光も届かなくなり、海沿いの国道を走るクルマも、もうまばら。
いったいどこまで歩くんだろう?
こんなに薄暗くて寂しいところまで来て、ほんとに大丈夫なの?
道ばたには海水浴場からふたつ先のバス停があるから、もう3キロくらいは歩いている。そのあたりの砂浜で、みっこはようやく腰をおろした。続いてサングラスが、みっこにぴったりくっつくように座る。
「じゃましたら悪いけ」
彼女のとなりに座りかけたわたしを、ニキビはそう言って遮った。
みっこはなにも言わない。
ふたりから20メートル程離れた草はらに、ニキビはわたしを連れていく。
気が気じゃない。
みっこ、これからどうするつもり?
わたしの脳裏には、ふと、昔見た、美少年と美少女の出演する青春映画のワンシーンがかすめたけど、今はキャスティングが悪すぎる。
『さつきはあたしのそば、絶対離れちゃダメよ』
みっこの言葉を思い出す。
こうして彼女から離れてしまって、大丈夫かな。
心配のあまり、ニキビの存在も忘れて、わたしはみっこの方の動向に、最大限に気を配っていた。
「…楽しかったよ。食事もうまかったし。なんたってみっこ…」
「Kiss in blue heaven♪ 連れていってねぇ…」
風に乗ってとぎれとぎれに、ふたりの会話が聞こえてくる。みっこをなんとか口説こうとしているサングラスを無視して、彼女は歌なんか歌ってるみたい。
「おまえみたい… キレイな女って… …てだ。なんでもして…」
「誘惑… ポーズの裏… 誘惑してる …悪い子♪」
「…だろ。無理もないけどサ。お前が好きに… おい。聞いてるのか?」
「聞いてるわ」
よく聞きとれない。
もっと状況がわかるよう、わたしはふたりの会話に耳を澄ました。
「え?」
そのときだった。
わたしの肩に、なま暖かいものが巻きついてきたのは。
ギクリとして振り向くと、すぐ近くにはニキビの顔がある。
一瞬、どういう状況なのかわからなかった。が、次の瞬間、寒気とともに呑み込めた。
わたし、ニキビに肩を抱かれてるんだ!
つづく
昼間、あれだけ賑やかで歓声の沸いていた海岸は、今は人影もなく、吸い込まれそうなくらい真っ黒な海が横たわり、ただ、波の音だけが同じリズムで、飽きることなく繰り返している。
ときおり、遠くの岬の灯台が、四人の姿を闇の中に浮かび上がらせる。
声を出せば、ピンと張った空気が壊れそう。
そんな静けさを切り裂くように、爆音を響かせたクルマが、時折海岸沿いの道を走り抜けていく。
「みっこ、灯台の方に行ってみようゼ」
「サッキ、俺達はこっちに行こ」
あらかじめ打ち合わせていたかのように、彼らは別々の場所にわたしたちを誘った。
えっ?
お互いふたりっきりになるの?
いやよ。
絶対イヤッ!
「もう少しいっしょに歩きましょ。楽しくおしゃべりしたいわ」
みっこの言葉に男たちはしかたなくうなずき、『楽しいおしゃべり』をはじめた。
サングラスの質問は次第に露骨になってきた。
「みっこ。おまえもうバージンじゃないだろ? 何でも知ってるって感じで、慣れてるもんな」
「あら? あなたたちのことは知らないわ」
「じゃ、オレを知ってみろヨ」
「ふふ。あなたがじょうずに口説けたら、考えてもいいわ」
ふぅ…
わたしにはついていけない会話。
でも彼女、ほんとにそんな経験あるのかしら?
それはそれで興味はあるかも。
「サッキはどうなん?」
不意にニキビが訊いてきた。
「えっ? わたし?」
なんて答えたら…
しかし、わたしが迷う間もなく、みっこがフォローを入れてきた。
「この子にはちゃんと彼氏、いるのよ。だから手なんか出したらダメだからね」
ニキビは『チッ』と舌打ちしたような顔。
ふん、いい気味。
それにしても、みっこの機転には感心する。
ゆるやかに弧を描いた長い砂浜を、わたしたちはあてなく歩いていた。
もう、小一時間ほど歩いただろうか。
小さな湾を隔ててほとんど正面に、クルマを止めている海水浴場の水銀灯や、海の家の明かり、時間待ちをしているバスの室内灯なんかが、遠くにチラチラと瞬いている。岬の灯台は山に隠れて光も届かなくなり、海沿いの国道を走るクルマも、もうまばら。
いったいどこまで歩くんだろう?
こんなに薄暗くて寂しいところまで来て、ほんとに大丈夫なの?
道ばたには海水浴場からふたつ先のバス停があるから、もう3キロくらいは歩いている。そのあたりの砂浜で、みっこはようやく腰をおろした。続いてサングラスが、みっこにぴったりくっつくように座る。
「じゃましたら悪いけ」
彼女のとなりに座りかけたわたしを、ニキビはそう言って遮った。
みっこはなにも言わない。
ふたりから20メートル程離れた草はらに、ニキビはわたしを連れていく。
気が気じゃない。
みっこ、これからどうするつもり?
わたしの脳裏には、ふと、昔見た、美少年と美少女の出演する青春映画のワンシーンがかすめたけど、今はキャスティングが悪すぎる。
『さつきはあたしのそば、絶対離れちゃダメよ』
みっこの言葉を思い出す。
こうして彼女から離れてしまって、大丈夫かな。
心配のあまり、ニキビの存在も忘れて、わたしはみっこの方の動向に、最大限に気を配っていた。
「…楽しかったよ。食事もうまかったし。なんたってみっこ…」
「Kiss in blue heaven♪ 連れていってねぇ…」
風に乗ってとぎれとぎれに、ふたりの会話が聞こえてくる。みっこをなんとか口説こうとしているサングラスを無視して、彼女は歌なんか歌ってるみたい。
「おまえみたい… キレイな女って… …てだ。なんでもして…」
「誘惑… ポーズの裏… 誘惑してる …悪い子♪」
「…だろ。無理もないけどサ。お前が好きに… おい。聞いてるのか?」
「聞いてるわ」
よく聞きとれない。
もっと状況がわかるよう、わたしはふたりの会話に耳を澄ました。
「え?」
そのときだった。
わたしの肩に、なま暖かいものが巻きついてきたのは。
ギクリとして振り向くと、すぐ近くにはニキビの顔がある。
一瞬、どういう状況なのかわからなかった。が、次の瞬間、寒気とともに呑み込めた。
わたし、ニキビに肩を抱かれてるんだ!
つづく
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