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01 PERKY JEAN
PERKY JEAN 11
次第に小さくなっていくふたつの影を見送るわたしは、次第に爽快な気持ちになってきた。
いやらしい男たちに、最後はピシャリと平手打ちをくわせてやれたからかな。
シートにからだを沈めて、わたしはほっと胸をなでおろす… と、その時、大変なことに気がついてしまったのだ。
「あっ! わたしのバッグ。クルマに置いたままだった!」
バッグには水着に財布、アドレス帳まで入っている。いっぺんでわたしたちの本名も住所も、電話番号までバレちゃう。一瞬で目の前が真っ黒になった。
「はい。さつきのバッグ。ふたつも持つとけっこう重いのね」
みっこはそう言いながら微笑んで、わたしのバッグを差し出した。
「え? どうしてみっこが持って…」
「もう、クルマに戻るつもりはなかったから」
「じゃあ、はじめからみっこは、バスで帰るつもりだったの?」
彼女は大きくうなずきながら、わたしの質問を察したように話しはじめた。
「バスの時間は見てたわ。バス停の近くで座ったのも、計算のうちよ。あそこからは時間待ちしてるバスがよく見えたでしょ。もう出るかなって思ってたら、サングラスがキスしようとしたのよ。その時バスが発車するのが見えたから、ケリをつけたわけ。だけど怒るタイミングが難しくってね。ちょっとアセっちゃった」
ケリをつけたって…?
すべて計算ずくだったんだ、みっこは。
あの時…
『逆ナンパしよっか』
と言って男たちの誘いにのって、食事を奢らせて、ドライブして、夜の海に来て、『ケリをつけ』てバスに乗るまで。なにもかも。
そしてみっこは、あの男たちの下心を、見事に暴き出して見せてくれた。
それは、男の人のことをよく知らない、わたしのため。
みっこの大胆な緻密さに、わたしはしばらくは返す言葉がなかった。
ようやく緊張がほぐれたかのように、彼女は穏やかな顔をして、窓の外を流れていく夜景を見ている。
わたしが見つめているのを知ってか知らずか、彼女はひとりごとのように言った。
「あたし。女をただのモノや飾りにしたがる男って、許せない」
「許せない?」
「同じ人間、として扱ってくれないような人には、相手にもそうしたって文句は言えないはずでしょ」
「それは、そうかもしれないけど…」
「ごめん、さつき」
「なにが?」
「『男の人のこと教えてあげる』なんていうのはただの口実で、あたしはあの人たちを使って、自分のなにかに、復讐したかったのかもしれない」
「復讐…」
「せっかくのバカンスなのに、さつきに迷惑かけちゃった。ほんと、ごめんね」
「そんなことないよ。確かにかなりハラハラして怖かったけど。まあ、なにごともなかったし… それになかなかできない体験もさせてもらったし」
「あたしね…」
少し間をおいて、みっこは言った。
「昼間、『恋したことない』って、言ったでしょ」
「うん」
「あたし、ほんとの自分を見てくれる人が現れるまで、もう、恋しないつもり。あたしをひとりの人間として見てくれる人じゃないと、もういっしょには、いたくない」
そう言いながら、自分のセリフに少し照れたように窓に肘をついて、みっこは外の景色に視線を戻した。
あ…
なんだか少しだけ、彼女のことがわかった気がする。
『もう、恋しない』
『もういっしょには、いられない』
『生意気でわがままな小娘』という生き方を貫いている森田美湖の、言葉の端に垣間見える、過去の恋愛のかけら。
『復讐』したくなるような。
今はまだ、それがどんなものなのか、わからない。
みっこはどんな人と、どういう恋をしてきたのか。
時折見せる彼女の翳りは、過去の恋との葛藤なのかもしれない。
そんな自分の姿を、彼女は他人に見せないようにしている。
つややかで美しい彼女のロゼカラーの口紅は、きっと、傷ついた自分を守るための鎧。
そして彼女は、鎧の下に隠れた本当の自分を見てくれる人を、待っているのかもしれない。
そんなみっこに、今まで以上に魅力を感じ、惹きつけられる。
わたしなんて、いつもまわりに流されてしまう弱い人間だけど、少しでもみっこのことをわかってあげたい。ひとりの人間として。
「わたしもPERKY JEAN… いいなって思うわ」
ひとりごとのように、わたしはポツリと言った。
彼女はわたしを振り返り、ニッコリと、とびきり素敵な微笑みをくれた。
END
24th Jan. 2011 初稿
23th Apr.2017 改稿
1st Aug. 2017 改稿
25th Oct.2019 改稿
いやらしい男たちに、最後はピシャリと平手打ちをくわせてやれたからかな。
シートにからだを沈めて、わたしはほっと胸をなでおろす… と、その時、大変なことに気がついてしまったのだ。
「あっ! わたしのバッグ。クルマに置いたままだった!」
バッグには水着に財布、アドレス帳まで入っている。いっぺんでわたしたちの本名も住所も、電話番号までバレちゃう。一瞬で目の前が真っ黒になった。
「はい。さつきのバッグ。ふたつも持つとけっこう重いのね」
みっこはそう言いながら微笑んで、わたしのバッグを差し出した。
「え? どうしてみっこが持って…」
「もう、クルマに戻るつもりはなかったから」
「じゃあ、はじめからみっこは、バスで帰るつもりだったの?」
彼女は大きくうなずきながら、わたしの質問を察したように話しはじめた。
「バスの時間は見てたわ。バス停の近くで座ったのも、計算のうちよ。あそこからは時間待ちしてるバスがよく見えたでしょ。もう出るかなって思ってたら、サングラスがキスしようとしたのよ。その時バスが発車するのが見えたから、ケリをつけたわけ。だけど怒るタイミングが難しくってね。ちょっとアセっちゃった」
ケリをつけたって…?
すべて計算ずくだったんだ、みっこは。
あの時…
『逆ナンパしよっか』
と言って男たちの誘いにのって、食事を奢らせて、ドライブして、夜の海に来て、『ケリをつけ』てバスに乗るまで。なにもかも。
そしてみっこは、あの男たちの下心を、見事に暴き出して見せてくれた。
それは、男の人のことをよく知らない、わたしのため。
みっこの大胆な緻密さに、わたしはしばらくは返す言葉がなかった。
ようやく緊張がほぐれたかのように、彼女は穏やかな顔をして、窓の外を流れていく夜景を見ている。
わたしが見つめているのを知ってか知らずか、彼女はひとりごとのように言った。
「あたし。女をただのモノや飾りにしたがる男って、許せない」
「許せない?」
「同じ人間、として扱ってくれないような人には、相手にもそうしたって文句は言えないはずでしょ」
「それは、そうかもしれないけど…」
「ごめん、さつき」
「なにが?」
「『男の人のこと教えてあげる』なんていうのはただの口実で、あたしはあの人たちを使って、自分のなにかに、復讐したかったのかもしれない」
「復讐…」
「せっかくのバカンスなのに、さつきに迷惑かけちゃった。ほんと、ごめんね」
「そんなことないよ。確かにかなりハラハラして怖かったけど。まあ、なにごともなかったし… それになかなかできない体験もさせてもらったし」
「あたしね…」
少し間をおいて、みっこは言った。
「昼間、『恋したことない』って、言ったでしょ」
「うん」
「あたし、ほんとの自分を見てくれる人が現れるまで、もう、恋しないつもり。あたしをひとりの人間として見てくれる人じゃないと、もういっしょには、いたくない」
そう言いながら、自分のセリフに少し照れたように窓に肘をついて、みっこは外の景色に視線を戻した。
あ…
なんだか少しだけ、彼女のことがわかった気がする。
『もう、恋しない』
『もういっしょには、いられない』
『生意気でわがままな小娘』という生き方を貫いている森田美湖の、言葉の端に垣間見える、過去の恋愛のかけら。
『復讐』したくなるような。
今はまだ、それがどんなものなのか、わからない。
みっこはどんな人と、どういう恋をしてきたのか。
時折見せる彼女の翳りは、過去の恋との葛藤なのかもしれない。
そんな自分の姿を、彼女は他人に見せないようにしている。
つややかで美しい彼女のロゼカラーの口紅は、きっと、傷ついた自分を守るための鎧。
そして彼女は、鎧の下に隠れた本当の自分を見てくれる人を、待っているのかもしれない。
そんなみっこに、今まで以上に魅力を感じ、惹きつけられる。
わたしなんて、いつもまわりに流されてしまう弱い人間だけど、少しでもみっこのことをわかってあげたい。ひとりの人間として。
「わたしもPERKY JEAN… いいなって思うわ」
ひとりごとのように、わたしはポツリと言った。
彼女はわたしを振り返り、ニッコリと、とびきり素敵な微笑みをくれた。
END
24th Jan. 2011 初稿
23th Apr.2017 改稿
1st Aug. 2017 改稿
25th Oct.2019 改稿
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