15 / 300
02 Fashion Plate
Fashion Plate 3
雨はいつの間にか、やんでいた。
水に洗われてポタポタと透明の雫を落とす街路樹と、雲の隙間からのぞく青空と、それを映し出す水たまり。そんな舗道に波紋を作りながら、わたしとみっこは並んで歩いていた。
「ねえ。みっこはどうして、西蘭女子大を選んだの?」
自分の進学の動機を思い出しながら、わたしはみっこに訊いてみた。
「あたしは、そうね… さつきはどうしてなの?」
「わたし?」
「あれだけたくさんの本を読んでるんだし、なにか目的があるのかなって」
「そうね。目標、できたかな?」
「どんな?」
みっこに訊かれるまま、わたしは西田教授のこと、小説への想いを語る。そしてこれから計画していることを、みっこに打ち明けた。
「十月から九州文化センターで、新聞社主催の小説講座が開かれるの。半年の受講期間で毎週金曜日の6時半から8時半。わたし、ここに通うことにしたんだ」
「へえ。もう着実に夢に向かって走りはじめてるのね」
「そうなの。やっぱり同じ様に、小説家目指してる仲間がいた方が楽しいだろうし。
でもこの講座のいちばんの魅力は、半年ごとに作品コンクールがあって、そこでいい成績とれれば、その新聞社が出版している文学雑誌で、デビューできるってとこなの!
そうすれば作家として認められるし、前途が大きく開けるって夢が持てるのよ」
「じゃあ、さつきは作家のたまごってわけか」
「でも、入賞なんて難しいんだろうな。全国展開してる実績のあるカルチャースクールだから、経験ある人も多いだろうし。最終選考に残るだけでも上出来かも…」
「そう?」
「小説家なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないだろうし…」
「でも。なろうと思わなきゃ、なれないんじゃないの?」
わたしを見つめ、みっこはニッコリと微笑む。
その笑顔を見ていると、なんだか元気が湧いてくる。
「そうよね。なにかを夢見て、自分を試してみるのはいいことよね。わたし、本当に物語が好きなんだ。
たとえプロの小説家になれなくても、わたしは一生お話しを書いていたい。
それが、『弥生さつき』って人間がこの世に存在している理由なんだって、思うときもある。えへ。大袈裟かな」
「ううん。そんなことない。
でも… うらやましい。
そんなに打ち込めるものが、あなたには見えてて…」
ふと立ち止まり、雨に濡れたはっぱがキラキラと陽をはじいているポプラの樹を、みっこは眩しそうに見上げ、つぶやいた。
「あたし… 今はまだ、なんにも見えないし」
彼女は視線を落とす。心なしか曇った表情。
「みっこは将来、なにになりたいの?」
「あたし…」
しばらく口を噤んで、みっこは逆にわたしに訊ねた。
「さつきはあたしが、なにになればいいと思う?」
「え? わたしは… そうねぇ。
だいいちわたし、みっこのことまだよく知らないもの。
あなたがなにが好きでなにが嫌いで、なにが得意なのかとか…」
「ふふ。あたしが好きなのはピアノを弾くことと、踊ること。嫌いなのは学校の勉強。得意は洋服選びよ。さ、行こ! この先にあたしのお気に入りのブティックがあるの」
かすかにのぞいた心の翳りを払いのけるように、みっこはクルリと綺麗なターンを描いて歩きはじめた。フレアーのロングスカートがふわりと綺麗に舞い上がる。
みっこの歩き方は、とても綺麗。
腰から振り出す脚は、つま先が少し外を向き、後ろに残した脚のひざが、一瞬ピンと伸びる。
腰は左右に揺れて、スカートの裾がひらめくけど、上体は背中をシャキッと伸ばして胸を張ったまま、少しも揺れない。
それは、モンローウォークみたいな媚びたお色気じゃない、凛とした清楚な色香。
この子って、ただ外見が綺麗なだけじゃないんだな。
ちょっとした身のこなしがとても洗練されていて、印象的なんだ。
まるで、ファッションモデルみたいに…
つづく
水に洗われてポタポタと透明の雫を落とす街路樹と、雲の隙間からのぞく青空と、それを映し出す水たまり。そんな舗道に波紋を作りながら、わたしとみっこは並んで歩いていた。
「ねえ。みっこはどうして、西蘭女子大を選んだの?」
自分の進学の動機を思い出しながら、わたしはみっこに訊いてみた。
「あたしは、そうね… さつきはどうしてなの?」
「わたし?」
「あれだけたくさんの本を読んでるんだし、なにか目的があるのかなって」
「そうね。目標、できたかな?」
「どんな?」
みっこに訊かれるまま、わたしは西田教授のこと、小説への想いを語る。そしてこれから計画していることを、みっこに打ち明けた。
「十月から九州文化センターで、新聞社主催の小説講座が開かれるの。半年の受講期間で毎週金曜日の6時半から8時半。わたし、ここに通うことにしたんだ」
「へえ。もう着実に夢に向かって走りはじめてるのね」
「そうなの。やっぱり同じ様に、小説家目指してる仲間がいた方が楽しいだろうし。
でもこの講座のいちばんの魅力は、半年ごとに作品コンクールがあって、そこでいい成績とれれば、その新聞社が出版している文学雑誌で、デビューできるってとこなの!
そうすれば作家として認められるし、前途が大きく開けるって夢が持てるのよ」
「じゃあ、さつきは作家のたまごってわけか」
「でも、入賞なんて難しいんだろうな。全国展開してる実績のあるカルチャースクールだから、経験ある人も多いだろうし。最終選考に残るだけでも上出来かも…」
「そう?」
「小説家なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないだろうし…」
「でも。なろうと思わなきゃ、なれないんじゃないの?」
わたしを見つめ、みっこはニッコリと微笑む。
その笑顔を見ていると、なんだか元気が湧いてくる。
「そうよね。なにかを夢見て、自分を試してみるのはいいことよね。わたし、本当に物語が好きなんだ。
たとえプロの小説家になれなくても、わたしは一生お話しを書いていたい。
それが、『弥生さつき』って人間がこの世に存在している理由なんだって、思うときもある。えへ。大袈裟かな」
「ううん。そんなことない。
でも… うらやましい。
そんなに打ち込めるものが、あなたには見えてて…」
ふと立ち止まり、雨に濡れたはっぱがキラキラと陽をはじいているポプラの樹を、みっこは眩しそうに見上げ、つぶやいた。
「あたし… 今はまだ、なんにも見えないし」
彼女は視線を落とす。心なしか曇った表情。
「みっこは将来、なにになりたいの?」
「あたし…」
しばらく口を噤んで、みっこは逆にわたしに訊ねた。
「さつきはあたしが、なにになればいいと思う?」
「え? わたしは… そうねぇ。
だいいちわたし、みっこのことまだよく知らないもの。
あなたがなにが好きでなにが嫌いで、なにが得意なのかとか…」
「ふふ。あたしが好きなのはピアノを弾くことと、踊ること。嫌いなのは学校の勉強。得意は洋服選びよ。さ、行こ! この先にあたしのお気に入りのブティックがあるの」
かすかにのぞいた心の翳りを払いのけるように、みっこはクルリと綺麗なターンを描いて歩きはじめた。フレアーのロングスカートがふわりと綺麗に舞い上がる。
みっこの歩き方は、とても綺麗。
腰から振り出す脚は、つま先が少し外を向き、後ろに残した脚のひざが、一瞬ピンと伸びる。
腰は左右に揺れて、スカートの裾がひらめくけど、上体は背中をシャキッと伸ばして胸を張ったまま、少しも揺れない。
それは、モンローウォークみたいな媚びたお色気じゃない、凛とした清楚な色香。
この子って、ただ外見が綺麗なだけじゃないんだな。
ちょっとした身のこなしがとても洗練されていて、印象的なんだ。
まるで、ファッションモデルみたいに…
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。