Campus91

茉莉 佳

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02 Fashion Plate

Fashion Plate 3

 雨はいつの間にか、やんでいた。
水に洗われてポタポタと透明の雫を落とす街路樹と、雲の隙間からのぞく青空と、それを映し出す水たまり。そんな舗道に波紋を作りながら、わたしとみっこは並んで歩いていた。

「ねえ。みっこはどうして、西蘭女子大を選んだの?」
自分の進学の動機を思い出しながら、わたしはみっこに訊いてみた。
「あたしは、そうね… さつきはどうしてなの?」
「わたし?」
「あれだけたくさんの本を読んでるんだし、なにか目的があるのかなって」
「そうね。目標、できたかな?」
「どんな?」
みっこに訊かれるまま、わたしは西田教授のこと、小説への想いを語る。そしてこれから計画していることを、みっこに打ち明けた。
「十月から九州文化センターで、新聞社主催の小説講座が開かれるの。半年の受講期間で毎週金曜日の6時半から8時半。わたし、ここに通うことにしたんだ」
「へえ。もう着実に夢に向かって走りはじめてるのね」
「そうなの。やっぱり同じ様に、小説家目指してる仲間がいた方が楽しいだろうし。
でもこの講座のいちばんの魅力は、半年ごとに作品コンクールがあって、そこでいい成績とれれば、その新聞社が出版している文学雑誌で、デビューできるってとこなの!
そうすれば作家として認められるし、前途が大きく開けるって夢が持てるのよ」
「じゃあ、さつきは作家のたまごってわけか」
「でも、入賞なんて難しいんだろうな。全国展開してる実績のあるカルチャースクールだから、経験ある人も多いだろうし。最終選考に残るだけでも上出来かも…」
「そう?」
「小説家なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないだろうし…」
「でも。なろうと思わなきゃ、なれないんじゃないの?」
わたしを見つめ、みっこはニッコリと微笑む。
その笑顔を見ていると、なんだか元気が湧いてくる。
「そうよね。なにかを夢見て、自分を試してみるのはいいことよね。わたし、本当に物語が好きなんだ。
たとえプロの小説家になれなくても、わたしは一生お話しを書いていたい。
それが、『弥生さつき』って人間がこの世に存在している理由なんだって、思うときもある。えへ。大袈裟かな」
「ううん。そんなことない。
でも… うらやましい。
そんなに打ち込めるものが、あなたには見えてて…」

ふと立ち止まり、雨に濡れたはっぱがキラキラと陽をはじいているポプラの樹を、みっこは眩しそうに見上げ、つぶやいた。
「あたし… 今はまだ、なんにも見えないし」
彼女は視線を落とす。心なしか曇った表情。
「みっこは将来、なにになりたいの?」
「あたし…」
しばらく口を噤んで、みっこは逆にわたしに訊ねた。
「さつきはあたしが、なにになればいいと思う?」
「え? わたしは… そうねぇ。
だいいちわたし、みっこのことまだよく知らないもの。
あなたがなにが好きでなにが嫌いで、なにが得意なのかとか…」
「ふふ。あたしが好きなのはピアノを弾くことと、踊ること。嫌いなのは学校の勉強。得意は洋服選びよ。さ、行こ! この先にあたしのお気に入りのブティックがあるの」
かすかにのぞいた心のかげりを払いのけるように、みっこはクルリと綺麗なターンを描いて歩きはじめた。フレアーのロングスカートがふわりと綺麗に舞い上がる。

みっこの歩き方は、とても綺麗。
腰から振り出す脚は、つま先が少し外を向き、後ろに残した脚のひざが、一瞬ピンと伸びる。
腰は左右に揺れて、スカートの裾がひらめくけど、上体は背中をシャキッと伸ばして胸を張ったまま、少しも揺れない。
それは、モンローウォークみたいな媚びたお色気じゃない、凛とした清楚な色香。
この子って、ただ外見が綺麗なだけじゃないんだな。
ちょっとした身のこなしがとても洗練されていて、印象的なんだ。
まるで、ファッションモデルみたいに…

つづく
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