Campus91

茉莉 佳

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02 Fashion Plate

Fashion Plate 6


「ええ。あの頃の淑子さんはたいそうお綺麗で、身長も高く、パリのコレクションのステージにも立っていた、一流のファッションモデルだったのですよ」
「へえ。すごい!」
「私が最初のお店を出した頃に、淑子さんもご結婚して、美湖ちゃんが生まれたんですよ。
淑子さんは子供の教育にも本当に熱心で、厳しい方でした。
美湖ちゃんには小さい頃から、ご自分の服は自分で選んで買うよう、躾けられてました。そうすることで、美湖ちゃんの感性を養われようとしたんでしょうね。ピアノやバレエも習わせて、美湖ちゃんはかなりの腕前でしたよ。私もまた、美湖ちゃんのピアノを聞いてみたいものですわ」
そう言いながら伊藤さんは、ちょっと過去を懐かしむ様な瞳になり、「では、ごゆっくり」と言って、奥へ引っ込もうとした。
だけど、伊藤さんが昔話をはじめたときから気になっていたことがあって、わたしは思わず声をかけた。
「あの…」
「なにか?」
「それで… 『友達を連れてきたのは小学生以来』ってのは、どういうことですか?」
伊藤さんは少しためらう様子を見せたが、おもむろに話しはじめた。
「あれは、美湖ちゃんが小学校4年生くらいの頃でした。バレエやピアノの発表会で、私がドレスをお作りしたのですが、その採寸や試着の時に、お友達とご一緒にお店に見えたことがあったんです。
でも、そのお友達とは仲たがいされた様子で、『ここに友達連れてくると嫌われる』とおっしゃって、それからはいつもおひとりでいらっしゃいました。
そのお友達はやきもちでも焼いたのでしょうかねぇ… 残念ですね」
ポツリとそうひと言つけ足すと、伊藤さんは仕事に戻っていった。

…なんだか複雑。
こんな話、聞かなきゃよかった。
情けないような、腹が立つような、なんとも言えない、もどかしい感情がわき上がってくる。

そりゃわたしだって、みっこのことが羨ましいときもある。
美人でスタイルがよくて、しかもピアノやバレエがうまいお嬢様とくれば、それは女の子の『なりたいドリーム』をみんな詰め込んだようなもの。
だけどわたしは、みっこに対する嫉妬とか羨望よりも、『大事な友達』だという気持ちの方が強い。
なのにみっこはわたしに、自分のことを話そうとしない。
弱さを見せようとすることも、ない。
ここへ来るときだって、西蘭女子大の志望動機も、将来なりたいことも、結局、みっこは誤魔化して、話してくれなかった。

みっこにとって、わたしはどんな存在なの?
当たり障りのないことしか話せない、うわべだけのつきあいなの?

「さつき、どう? このワンピース。ちょっと着てみない?」
そう言いながら、螺旋階段の中程から、みっこはわたしに服を差し出した。
「なんでわたしが着るの?」
もやもやした感情を引きずっているせいか、わたしの声は少し無愛想だった。
「いいから、いいから」
「わけを言ってよ」
「いいじゃない」
「みっこはなにも言ってくれないのね」
「え?」
「わたし… 伊藤さんからいろいろ聞いたわ。みっこのお母さんのこととか、ピアノやバレエ習ってたこととか」
「…」
「みっこはそんな話、してくれなかったじゃない」
「…そうね」
「みっこって、いつだって自分の話はしないよね。
海に行った時もそうだったし、ここに来る途中だって、わたしは自分の夢とか将来のこととか、悩んでることだっていろいろ話したのに、みっこはテキトーにはぐらかして、自分のことはなにも言ってくれなかった。
それってなんか寂しい。
みっこももっと、いろいろ話してくれてもいいんじゃない?
わたしは話してるじゃない!
まあ、わたしだって…
無理に聞こうってつもりはないけど。
でも…」
感情に任せて口にしていた言葉が、しぼんでいく。
黙ったままうつむいて聞いていたみっこは、ぽつりと言った。
「ごめんなさい」
「…」
「でも。言えないこと… ある」
わたしの知らない遠くを見ながら、彼女はかすかにまゆをひそめた。
「言いたくないとかじゃない。でもまだ…」
ウインドゥに映る大通りに、彼女は目をやった。
たくさんの人が行き交っている。
いろんな服を着て、いろんな過去を背負って。

そうよね。
誰にだって、侵されたくないテリトリーって、あるよね。
他人わたしに触れられたくない過去だって、きっとあるに違いない。
「わたしこそ、ごめん。なんか… 自分勝手で」
「ううん」
ホッとした表情でわたしを見つめ、みっこは口元を緩める。
「なにも言えなくてごめんね。あたし… まだ測れないの」
「測れない?」
「あたし、ひとりっ子だし、同年代の親しい友達って、ほとんどいたことがなかった。
小学校の頃からずっと、クラスの女の子たちからは、なんとなく距離を置かれてたし。
だから、友達とはなにをやってどんなこと話すのか、よくわからない」
「そんな…」
「怖いの。自分の言葉や態度が。さつきのこと、気がつかないうちに傷つけてしまうかもしれないって思うと」
「あは。なに言ってんの? 『生意気でわがままな小娘』が?
わたしのことなら気にしなくていいのに。わたしそんなにデリケートにできてないもん」
「もう。…そうなんだ」
みっこはくすっと笑う。
そのあとで、少し恥ずかしげにわたしを見つめ、真面目な顔に戻って言った。
「友達との距離って、難しいものなのね」

つづく
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