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03 Sweet Memories
Sweet Memories 2
川島君の成績なら、このあたりの国立大は受かりそうだったし、最初の志望校はそうだったから、先生や親からも、大学を受験する様にと、かなり諭されたらしい。
だけど川島君は、自分の決めた進路を頑なに変えなかった、という話しだった。
「弥生さんは、やっぱり国文科?」
「ええ」
「そうか。弥生さんは高校の頃から本が好きだったもんな。だから小説講座も受講するのか」
「えっ? どうして知ってるの?」
「実はさっき、九州文化センターの中で弥生さんを見かけたんだ。あとを追いかけたら本屋に入ったから、声かけわけ」
「そうだったんだ。川島君はなんの講座受けてるの?」
「絵画講座だよ」
「絵画講座…」
思わず反芻する。
そういえば川島君、高校時代も美術部に入っていたな。
あの頃の出来事が、糸を手繰る様に憶い出されてくる。
夕方の日差しがいっぱいに入る美術室で、川島君が一心不乱に、イーゼルに立てたキャンバスに向かって絵を描いていた。
美術室の前をたまたま通ったわたしは、窓越しに見えるその光景に思わず足を止め、魅入ってしまった。
真剣に石膏像を見つめる瞳。
淀みない手の動き。
綺麗な逆光に縁取られた、川島君のまぶしいシルエット。
ほんとはずっと見つめていたかったけど、友達の呼ぶ声で、わたしはそこから離れたんだった。
もう一年くらい前のことだけど、そのときの光景は、今でも心に焼きついている。
「小説講座かぁ… おもしろそうだな」
たくさんの本が並んだ書架を見渡しながら、川島君はつぶやいた。
「ぼくも受けることにしようかな。次の講座からでも」
「ええっ。川島君も受けるの? 小説講座?!」
思わず大きな声でわたしが聞き返したものだから、川島君はちょっとびっくりしたみたいだけど、笑いながら答えた。
「ははは、ぼくなんか小説って柄じゃないかもしれないけど。でも、興味はあったんだ。写真や絵画でも、物語性ってのは重要だし、映画はまず、お話がなきゃ作れないだろ。物語の構造とかを知っておくことで、作品の幅も広がるかもしれないしな」
「確かに… そうかも」
「そう考えると、余計にやりたくなってきたよ。今日から後期の講座がはじまったみたいだけど、最初から受けられなくて残念だったな」
「でも、途中からでも受講できるそうだし、まだ人数枠も、余裕あるみたい」
「じゃあ、明日にでも申し込んで、来週から受講しようかな」
「川島君って、積極的なのね」
「はは。『善は急げ』って言うじゃないか。
よかったらどんな感じだったか聞かせてくれないか? 今日の講義の様子。お茶でも飲みながら」
「え?」
「この先に『紅茶貴族』って紅茶のおいしい店があるんだ。よかったらそこ、今から行かない?」
「えっ? ええ…」
わたしは戸惑った。
好きな人に誘われているのに、なぜ?
高校のときは、彼とはロクに話をしたこともない。
遠くから見ているだけの、一方的な『バスストップ・ラブ』だった。
それが、急にこうしてふたりきりで、面と向かってしゃべったりしているものだから、なんだか気持ちがふわふわして現実感がない。
それに…
わたしの脳裏を、ひとりの女の子の顔がかすめた。
恵美さん…
「無理にとは言わないけど…」
戸惑っているわたしの様子を察したのか、川島君は言った。
ううん…
無理とかじゃない。
わたし、怖がってるけど、イヤってわけじゃない。
わたしは黙ってうなずいた。
つづく
だけど川島君は、自分の決めた進路を頑なに変えなかった、という話しだった。
「弥生さんは、やっぱり国文科?」
「ええ」
「そうか。弥生さんは高校の頃から本が好きだったもんな。だから小説講座も受講するのか」
「えっ? どうして知ってるの?」
「実はさっき、九州文化センターの中で弥生さんを見かけたんだ。あとを追いかけたら本屋に入ったから、声かけわけ」
「そうだったんだ。川島君はなんの講座受けてるの?」
「絵画講座だよ」
「絵画講座…」
思わず反芻する。
そういえば川島君、高校時代も美術部に入っていたな。
あの頃の出来事が、糸を手繰る様に憶い出されてくる。
夕方の日差しがいっぱいに入る美術室で、川島君が一心不乱に、イーゼルに立てたキャンバスに向かって絵を描いていた。
美術室の前をたまたま通ったわたしは、窓越しに見えるその光景に思わず足を止め、魅入ってしまった。
真剣に石膏像を見つめる瞳。
淀みない手の動き。
綺麗な逆光に縁取られた、川島君のまぶしいシルエット。
ほんとはずっと見つめていたかったけど、友達の呼ぶ声で、わたしはそこから離れたんだった。
もう一年くらい前のことだけど、そのときの光景は、今でも心に焼きついている。
「小説講座かぁ… おもしろそうだな」
たくさんの本が並んだ書架を見渡しながら、川島君はつぶやいた。
「ぼくも受けることにしようかな。次の講座からでも」
「ええっ。川島君も受けるの? 小説講座?!」
思わず大きな声でわたしが聞き返したものだから、川島君はちょっとびっくりしたみたいだけど、笑いながら答えた。
「ははは、ぼくなんか小説って柄じゃないかもしれないけど。でも、興味はあったんだ。写真や絵画でも、物語性ってのは重要だし、映画はまず、お話がなきゃ作れないだろ。物語の構造とかを知っておくことで、作品の幅も広がるかもしれないしな」
「確かに… そうかも」
「そう考えると、余計にやりたくなってきたよ。今日から後期の講座がはじまったみたいだけど、最初から受けられなくて残念だったな」
「でも、途中からでも受講できるそうだし、まだ人数枠も、余裕あるみたい」
「じゃあ、明日にでも申し込んで、来週から受講しようかな」
「川島君って、積極的なのね」
「はは。『善は急げ』って言うじゃないか。
よかったらどんな感じだったか聞かせてくれないか? 今日の講義の様子。お茶でも飲みながら」
「え?」
「この先に『紅茶貴族』って紅茶のおいしい店があるんだ。よかったらそこ、今から行かない?」
「えっ? ええ…」
わたしは戸惑った。
好きな人に誘われているのに、なぜ?
高校のときは、彼とはロクに話をしたこともない。
遠くから見ているだけの、一方的な『バスストップ・ラブ』だった。
それが、急にこうしてふたりきりで、面と向かってしゃべったりしているものだから、なんだか気持ちがふわふわして現実感がない。
それに…
わたしの脳裏を、ひとりの女の子の顔がかすめた。
恵美さん…
「無理にとは言わないけど…」
戸惑っているわたしの様子を察したのか、川島君は言った。
ううん…
無理とかじゃない。
わたし、怖がってるけど、イヤってわけじゃない。
わたしは黙ってうなずいた。
つづく
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