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03 Sweet Memories
Sweet Memories 6
そういえばあの頃、どんなに女子ネットワークを駆使しても、川島君が好きだった人のことはわからなかった。
あんなに明るくてつきあいがよくても、川島君は自分のことはあまり進んで話さなかったみたいで、けっこう『謎』が多かった。
だから、ちょっとでも親しく話している女の子がいたら、すぐに、『川島君はその子のことを好きなんだ』って、噂が立っていたな。
わたしが知っているだけでも、2人の女の子が川島君に告白していたし、『他の学校の女子から告白された』って話も聞いたことがあった。
川島君のまわりには、いつでも女の子の影がまとわりついてて、なにも行動できないわたしは、そういう噂が耳に入るたびに、やきもきしてた。でも、川島君はその誰ともつきあわなかったみたいで、みんなで『不思議ね~』って言ってたっけ。
だからわたしも、チャンスはきっとあると思って、告白の科白を何度も何度も心のなかで繰り返し練習して、その時がくるのをねらってた。
その頃のわたしが、いちばん揺れていたと思う。
川島君にこの想いを伝えたい。
だけど、拒まれるのが怖くてできない。
ふたつの感情がぶつかりあって、いつも悶々としていた。
そんなある日。
あれは…
共通一次試験が終わった翌日の、雪の降る放課後のことだった。
三年の下駄箱の入り口に、川島君がいた。
わたしはちょうど下校する所で、下駄箱に向かっていたが、彼の姿を見つけて足が止まった。
鞄を脇に挟み、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、少し寒そうに肩をすぼめながら、なにをする風でもなく、川島君はその場に立っているだけだった。
周りを見渡しても、だれもいない。
こんなチャンス、滅多にない。
話しかける口実を、わたしは一生懸命考えていた。
もうすぐ自宅学習がはじまり、学校で会うこともなくなる。
ここで告白しなきゃ、もう卒業までできないかもしれない。
早く声かけなきゃ、帰ってしまう。
勇気、出さなきゃ。
そう焦りながら、あと一歩が踏み出せないでいたわたしの横を、ひとりの下級生が走り抜けていった。
彼女は川島君の正面にかけ寄ると、はあはあと白い息をはずませて、
『待ちました?』
と親しげに言った。
彼女の川島君を見つめる瞳…
『恋してる』って直感した。
雪の降りしきる冬の夕暮れ。
ふたりのまわりだけ、空気があったかく見えた。
『えみちゃん。ぼくも今来たばかりだよ』
川島君は優しく、彼女の名前を呼んだ。
『先輩、帰りましょ』
『傘はないのか?』
『持ってこなかったの』
『そうか』
そう言いながら、川島君は彼女の方へ自分の傘を掲げる。
当たり前のように、その子は傘のなかに入って、川島君にからだを寄せた。
自分に雪が降りかかるのもかまわず、川島君は彼女の方に傘を傾けた。その肩はみるみる雪が積もっていく。
そうして、ひとつの傘で下校するふたりの姿は、雪に覆われた景色のなかに白く消えていった。
降りしきる雪に凍りついたように、わたしはその場に立ちすくんでいるだけだった。
川島君が初恋、ってわけじゃない。
だけど、こんなに人を好きになったのは、彼がはじめてだった。
その彼が下級生と相合傘で下校するのを見て、ふつうなら悔しかったり悲しかったりするはずなんだけど、その瞬間、わたしは解放された様な、不思議な心地よさを感じてしまった。
遠くから見つめるだけの寂しい恋に、終止符が打てたから?
でも、家に帰るなりはるみに電話して、ご飯も食べずに泣きながら、川島君のことばかり、ずっと話したっけ。
つづく
あんなに明るくてつきあいがよくても、川島君は自分のことはあまり進んで話さなかったみたいで、けっこう『謎』が多かった。
だから、ちょっとでも親しく話している女の子がいたら、すぐに、『川島君はその子のことを好きなんだ』って、噂が立っていたな。
わたしが知っているだけでも、2人の女の子が川島君に告白していたし、『他の学校の女子から告白された』って話も聞いたことがあった。
川島君のまわりには、いつでも女の子の影がまとわりついてて、なにも行動できないわたしは、そういう噂が耳に入るたびに、やきもきしてた。でも、川島君はその誰ともつきあわなかったみたいで、みんなで『不思議ね~』って言ってたっけ。
だからわたしも、チャンスはきっとあると思って、告白の科白を何度も何度も心のなかで繰り返し練習して、その時がくるのをねらってた。
その頃のわたしが、いちばん揺れていたと思う。
川島君にこの想いを伝えたい。
だけど、拒まれるのが怖くてできない。
ふたつの感情がぶつかりあって、いつも悶々としていた。
そんなある日。
あれは…
共通一次試験が終わった翌日の、雪の降る放課後のことだった。
三年の下駄箱の入り口に、川島君がいた。
わたしはちょうど下校する所で、下駄箱に向かっていたが、彼の姿を見つけて足が止まった。
鞄を脇に挟み、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、少し寒そうに肩をすぼめながら、なにをする風でもなく、川島君はその場に立っているだけだった。
周りを見渡しても、だれもいない。
こんなチャンス、滅多にない。
話しかける口実を、わたしは一生懸命考えていた。
もうすぐ自宅学習がはじまり、学校で会うこともなくなる。
ここで告白しなきゃ、もう卒業までできないかもしれない。
早く声かけなきゃ、帰ってしまう。
勇気、出さなきゃ。
そう焦りながら、あと一歩が踏み出せないでいたわたしの横を、ひとりの下級生が走り抜けていった。
彼女は川島君の正面にかけ寄ると、はあはあと白い息をはずませて、
『待ちました?』
と親しげに言った。
彼女の川島君を見つめる瞳…
『恋してる』って直感した。
雪の降りしきる冬の夕暮れ。
ふたりのまわりだけ、空気があったかく見えた。
『えみちゃん。ぼくも今来たばかりだよ』
川島君は優しく、彼女の名前を呼んだ。
『先輩、帰りましょ』
『傘はないのか?』
『持ってこなかったの』
『そうか』
そう言いながら、川島君は彼女の方へ自分の傘を掲げる。
当たり前のように、その子は傘のなかに入って、川島君にからだを寄せた。
自分に雪が降りかかるのもかまわず、川島君は彼女の方に傘を傾けた。その肩はみるみる雪が積もっていく。
そうして、ひとつの傘で下校するふたりの姿は、雪に覆われた景色のなかに白く消えていった。
降りしきる雪に凍りついたように、わたしはその場に立ちすくんでいるだけだった。
川島君が初恋、ってわけじゃない。
だけど、こんなに人を好きになったのは、彼がはじめてだった。
その彼が下級生と相合傘で下校するのを見て、ふつうなら悔しかったり悲しかったりするはずなんだけど、その瞬間、わたしは解放された様な、不思議な心地よさを感じてしまった。
遠くから見つめるだけの寂しい恋に、終止符が打てたから?
でも、家に帰るなりはるみに電話して、ご飯も食べずに泣きながら、川島君のことばかり、ずっと話したっけ。
つづく
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