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05 Love Affair
Love Affair 16
affair7
秋も深まってきて、シトシトと雨が降る夜だった。
この秋は、川島君をめぐる女の子たちとの小さな事件に、一喜一憂していた気がする。
だけどそれも、今夜で終わらせるつもりだった。
今日こそは川島君に、自分の気持ちを打ち明けるつもりにしていた。
小説講座を終えた夜。
わたしと川島君はいつものように九州文化センターをあとにすると、濡れたアスファルトにネオンが滲んでいる夜の大通りに出た。
どちらが言い出すでもなく、ふたりの足はいつもの『紅茶貴族』の方へ向かう。
だけど今夜の川島君、口数が少ない。
ちょっと元気ないみたい。
わたしたちは黙ったまま、繁華街の雑踏を抜けた。
冷たい秋雨の雫が足許を濡らして、からだが凍える。
違う。
雨のせいだけじゃない。
これから先の恋のゆくえを予感して、心が震えるんだ。
しばらく黙って歩いて、川島君は『ふう』と、大きくため息をついた。
「ぼくはカメラマン失格かな。サークルも、運営できる器じゃないのかも」
「え? どうして?」
思いもかけない川島君の言葉に、わたしは驚いて聞き返す。
川島君と蘭さんとの間に、なにかあったのかもしれない。
それとも、志摩みさとさんと…
わたしの問いには答えず、ただ空を仰いで、川島君は自分を鼓舞するように言う。
「でも、やるしかないよな。みんなの原稿を預かってる責任もある。ちゃんとやるよ」
「川島君… どうしたの?」
「ああ。つまんないこと言ってごめんよ」
そう言って彼は、無理矢理明るい表情を作った。
「なにかあったの?」
「…」
川島君は黙っている。
「川島君?」
「…どうせわかることだから、黙っててもしかたないな…」
そう言ってため息ついた川島君は、意を決するように話しはじめた。
「えみちゃん… サークルやめるって。
ぼくが撮った写真も『使わないでほしい』って言われたんだよ」
「蘭さんとなにかあったの?」
そう訊きながら、わたしは予感するものがあった。先週の集会の後、蘭さんは川島君に告白したんだろうって。
そして…
「川島君、蘭さんのこと、振ったの?」
わたしの言葉に、彼はびっくりした様子で聞き返す。
「どうしてわかるんだい?」
「だって… 蘭さん、こないだの集会の時、わたしに話してくれたの。『川島君に告白する』って。その彼女が川島君と訣別するようなことするのは、それしか考えられないから」
「…」
その言葉に観念したように、川島君は打ち明けはじめた。
「さつきちゃん、いつか言ってただろ。『女の子に期待だけさせるのって、残酷』だって」
「うん」
「どうやらぼくは、残酷だったみたいなんだ。
ぼくは彼女の期待には応えてやれなかった」
「でも、蘭さんって… 可愛いじゃない。川島君、どうして断ったの?」
「…」
わたしの質問には答えず、自分に言い聞かせるように、川島君はポツポツと話しはじめた。
「『カメラマンとモデルだけの割り切った関係』なんて、偉そうなこと言ったけど、そんなの机上の空論だったよ。
実際の人間関係は、そんな綺麗ごとなんか、通用しない。
ぼくはえみちゃんのこと、傷つけた。最悪の形で。でも、どうしてやることもできない」
そう言うと川島君は、肩を落とす。
彼の吐くため息が、白くかすんだ。
こないだの集会の帰り、蘭さんと川島君との間で、そういうやりとりがあったのだろう。
それはきっと、『綺麗ごと』じゃすまないような、ドロドロとした会話。
「しかたないよ。もう終わったことなんでしょ?
だったらもう、蘭さんのことは忘れて、新しいモデルさんを探せばいいじゃない?」
そう川島君をなぐさめたわたしの声は、自分でもびっくりするくらい優しかった。
きっとそれは、喜びを悟られまいとしているから?
わたしこそ残酷。
蘭さんが川島君に振られたことを、喜んでる。
つづく
秋も深まってきて、シトシトと雨が降る夜だった。
この秋は、川島君をめぐる女の子たちとの小さな事件に、一喜一憂していた気がする。
だけどそれも、今夜で終わらせるつもりだった。
今日こそは川島君に、自分の気持ちを打ち明けるつもりにしていた。
小説講座を終えた夜。
わたしと川島君はいつものように九州文化センターをあとにすると、濡れたアスファルトにネオンが滲んでいる夜の大通りに出た。
どちらが言い出すでもなく、ふたりの足はいつもの『紅茶貴族』の方へ向かう。
だけど今夜の川島君、口数が少ない。
ちょっと元気ないみたい。
わたしたちは黙ったまま、繁華街の雑踏を抜けた。
冷たい秋雨の雫が足許を濡らして、からだが凍える。
違う。
雨のせいだけじゃない。
これから先の恋のゆくえを予感して、心が震えるんだ。
しばらく黙って歩いて、川島君は『ふう』と、大きくため息をついた。
「ぼくはカメラマン失格かな。サークルも、運営できる器じゃないのかも」
「え? どうして?」
思いもかけない川島君の言葉に、わたしは驚いて聞き返す。
川島君と蘭さんとの間に、なにかあったのかもしれない。
それとも、志摩みさとさんと…
わたしの問いには答えず、ただ空を仰いで、川島君は自分を鼓舞するように言う。
「でも、やるしかないよな。みんなの原稿を預かってる責任もある。ちゃんとやるよ」
「川島君… どうしたの?」
「ああ。つまんないこと言ってごめんよ」
そう言って彼は、無理矢理明るい表情を作った。
「なにかあったの?」
「…」
川島君は黙っている。
「川島君?」
「…どうせわかることだから、黙っててもしかたないな…」
そう言ってため息ついた川島君は、意を決するように話しはじめた。
「えみちゃん… サークルやめるって。
ぼくが撮った写真も『使わないでほしい』って言われたんだよ」
「蘭さんとなにかあったの?」
そう訊きながら、わたしは予感するものがあった。先週の集会の後、蘭さんは川島君に告白したんだろうって。
そして…
「川島君、蘭さんのこと、振ったの?」
わたしの言葉に、彼はびっくりした様子で聞き返す。
「どうしてわかるんだい?」
「だって… 蘭さん、こないだの集会の時、わたしに話してくれたの。『川島君に告白する』って。その彼女が川島君と訣別するようなことするのは、それしか考えられないから」
「…」
その言葉に観念したように、川島君は打ち明けはじめた。
「さつきちゃん、いつか言ってただろ。『女の子に期待だけさせるのって、残酷』だって」
「うん」
「どうやらぼくは、残酷だったみたいなんだ。
ぼくは彼女の期待には応えてやれなかった」
「でも、蘭さんって… 可愛いじゃない。川島君、どうして断ったの?」
「…」
わたしの質問には答えず、自分に言い聞かせるように、川島君はポツポツと話しはじめた。
「『カメラマンとモデルだけの割り切った関係』なんて、偉そうなこと言ったけど、そんなの机上の空論だったよ。
実際の人間関係は、そんな綺麗ごとなんか、通用しない。
ぼくはえみちゃんのこと、傷つけた。最悪の形で。でも、どうしてやることもできない」
そう言うと川島君は、肩を落とす。
彼の吐くため息が、白くかすんだ。
こないだの集会の帰り、蘭さんと川島君との間で、そういうやりとりがあったのだろう。
それはきっと、『綺麗ごと』じゃすまないような、ドロドロとした会話。
「しかたないよ。もう終わったことなんでしょ?
だったらもう、蘭さんのことは忘れて、新しいモデルさんを探せばいいじゃない?」
そう川島君をなぐさめたわたしの声は、自分でもびっくりするくらい優しかった。
きっとそれは、喜びを悟られまいとしているから?
わたしこそ残酷。
蘭さんが川島君に振られたことを、喜んでる。
つづく
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