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07 Carnival Night
Carnival Night 4
みっこに言われたとおり、ナオミはバインダーが落ちないように、そろそろと注意して歩く。
「モデルはそんなにトロトロ歩かないわよ。もっと胸をはって、背中をのばして、勢いよく歩いて!」
みっこの言葉に、ナオミはできるだけ背筋をのばそうとしたが、頭の上が気になってぎこちない。教室の端でこちらに向きを変えたところで、バインダーを落としてしまった。
「あ~ん。こんなのできっこないじゃない」
「なに言ってるの。これはモデルの歩き方の基礎よ。これができないと一流のモデルにはなれないわ。絶対に」
「みっこはできるんでしょ?」
わたしは思わず彼女に言った。
「…」
わたしの瞳をじっとのぞき込んでいだみっこだったが、バインダーをナオミから受け取ると、黙ってそれを頭の上に乗せ、なんでもないかのようにスタスタと歩いていった。
なんて見事なウォーキング!
つま先が一直線にきれいに揃っていて、まるで平行棒の上を歩いているみたいだけど、とってもなめらかで、少しも不自然なところがない。腰からコンパスのように大きく踏み出す脚は、まっすぐピンとのびていて、とってもきれい。ハーフターンもくるりと小気味いいスピン。みっこが回った瞬間,ロングスカートの裾が遅れて舞い上がり、ターンさせた脚はまるでバレエのポーズのひとつみたいで、その一瞬、会釈する王女様を思わせた。
ターンした瞬間、バインダーは頭の上で少し回ったが、最後まで落ちることはなかった。
「みっこさすが。すごい!」
ナオミとミキちゃんがあっけにとられて見ている横で、わたしは思わず拍手をした。モデルを目指してレッスンを積んだ人って、こんなにもしぐさが違うものなんだ。
わたしたちはただ、なにも考えずに歩いているだけなのに、みっこはそれを芸術にまで洗練させている。ターンした時のスカートのふくらみ方ひとつまで、計算し尽くしているみたい。
そこまでできるようになってはじめて、いっぱしの『モデル』って言えるんだろうな。
まずわたしをじっと見て、それからゆっくりナオミの方に視線を移して、みっこは言った。
「モデルになってパリやニューヨークを飛び回ることを考える前に、まずこのくらいはできるようにならなくちゃね」
みっこの言葉に、ナオミはしばらくなにか考えている風だったが、突然思いついたように言った。
「みこちゃん。あたしのモデルの先生になってよ! みこちゃんなんでも知ってるみたいだから」
みっこはあきれたように聞き返す。
「先生?」
「そ!」
期待を顔いっぱいに浮かべているナオミの方も見ず、みっこはバインダーをバッグにしまいながら、ふたつみっつアドバイスをした。
「まず、変なシナをつけちゃダメ。
ナオミはおしりを振りすぎるから、そこを気をつけて。からだの上下動も大きすぎるし、体躯に芯が入ってなくて、フラフラしすぎ。
街を歩いてる時とか、自分の姿勢をウインドゥなんかでマメにチェックすることね」
そう言い終わると、みっこはポンとわたしの肩をたたく。
「さつき、帰ろ。じゃ、ミキちゃん、ナオミ、お先に」
「さよなら。森田さん、弥生さん」
「ばいばーい。みこちゃん。あたし絶対、モデルになるからねぇ~!」
ふたりを教室に残して、わたしとみっこはキャンパスをあとにした。外はすっかり暗くなっている。
「ほんとにモデルクラブの人がショーを見にくるのなら、ナオミはスカウトされるかも…」
わずかに羨ましさがこもったような口調で、みっこはポツリとつぶやいた。
つづく
「モデルはそんなにトロトロ歩かないわよ。もっと胸をはって、背中をのばして、勢いよく歩いて!」
みっこの言葉に、ナオミはできるだけ背筋をのばそうとしたが、頭の上が気になってぎこちない。教室の端でこちらに向きを変えたところで、バインダーを落としてしまった。
「あ~ん。こんなのできっこないじゃない」
「なに言ってるの。これはモデルの歩き方の基礎よ。これができないと一流のモデルにはなれないわ。絶対に」
「みっこはできるんでしょ?」
わたしは思わず彼女に言った。
「…」
わたしの瞳をじっとのぞき込んでいだみっこだったが、バインダーをナオミから受け取ると、黙ってそれを頭の上に乗せ、なんでもないかのようにスタスタと歩いていった。
なんて見事なウォーキング!
つま先が一直線にきれいに揃っていて、まるで平行棒の上を歩いているみたいだけど、とってもなめらかで、少しも不自然なところがない。腰からコンパスのように大きく踏み出す脚は、まっすぐピンとのびていて、とってもきれい。ハーフターンもくるりと小気味いいスピン。みっこが回った瞬間,ロングスカートの裾が遅れて舞い上がり、ターンさせた脚はまるでバレエのポーズのひとつみたいで、その一瞬、会釈する王女様を思わせた。
ターンした瞬間、バインダーは頭の上で少し回ったが、最後まで落ちることはなかった。
「みっこさすが。すごい!」
ナオミとミキちゃんがあっけにとられて見ている横で、わたしは思わず拍手をした。モデルを目指してレッスンを積んだ人って、こんなにもしぐさが違うものなんだ。
わたしたちはただ、なにも考えずに歩いているだけなのに、みっこはそれを芸術にまで洗練させている。ターンした時のスカートのふくらみ方ひとつまで、計算し尽くしているみたい。
そこまでできるようになってはじめて、いっぱしの『モデル』って言えるんだろうな。
まずわたしをじっと見て、それからゆっくりナオミの方に視線を移して、みっこは言った。
「モデルになってパリやニューヨークを飛び回ることを考える前に、まずこのくらいはできるようにならなくちゃね」
みっこの言葉に、ナオミはしばらくなにか考えている風だったが、突然思いついたように言った。
「みこちゃん。あたしのモデルの先生になってよ! みこちゃんなんでも知ってるみたいだから」
みっこはあきれたように聞き返す。
「先生?」
「そ!」
期待を顔いっぱいに浮かべているナオミの方も見ず、みっこはバインダーをバッグにしまいながら、ふたつみっつアドバイスをした。
「まず、変なシナをつけちゃダメ。
ナオミはおしりを振りすぎるから、そこを気をつけて。からだの上下動も大きすぎるし、体躯に芯が入ってなくて、フラフラしすぎ。
街を歩いてる時とか、自分の姿勢をウインドゥなんかでマメにチェックすることね」
そう言い終わると、みっこはポンとわたしの肩をたたく。
「さつき、帰ろ。じゃ、ミキちゃん、ナオミ、お先に」
「さよなら。森田さん、弥生さん」
「ばいばーい。みこちゃん。あたし絶対、モデルになるからねぇ~!」
ふたりを教室に残して、わたしとみっこはキャンパスをあとにした。外はすっかり暗くなっている。
「ほんとにモデルクラブの人がショーを見にくるのなら、ナオミはスカウトされるかも…」
わずかに羨ましさがこもったような口調で、みっこはポツリとつぶやいた。
つづく
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