59 / 300
07 Carnival Night
Carnival Night 5
明け方、夢を見た。
細かなところは忘れてしまったけど、とにかく、川島君が微笑んでいたのは、覚えている。
しかし、その微笑みは、わたしに向けられたものじゃない。
『だれに微笑んでいるの?』
…返事は、ない。
彼の姿は朦朧としてフェードアウトしていき、あとには乳白色の景色だけが広がっていた。
そんな中で、わたしは自分のいる場所がわからなくなり、落ちているのか浮かんでいるのか、上を向いているのか下を向いているのかさえも、まるで感覚が麻痺したようにつかめなくなり、ただ、そこに存在るだけ…
「…いやな夢」
ベッドから起き上がったわたしは、ほつれた髪を掻きむしって考えをまとめようとしたけど、頭の中は夢の続きのように、靄がかかったみたいにかすんでいる。
冴えない頭のまま、わたしは外出の支度をした。
「なんか、調子悪い」
キャンパスの中庭にある噴水のそばのベンチに腰かけて、わたしはただなんとなく空を見上げ、つぶやいた。
夢のイメージを、まだ引きずっている。
最悪な気分。
なのに、わたしのイガイガした気持ちなんておかまいなしに、天気だけはすばらしくよくて、はるか彼方の山並みまでくっきりとマジョリカ色の空が澄み渡り、キャンパスはいろとりどりのざわめきと、看板の色彩であふれていた。
そう。
今日は、西蘭女子大の学園祭。
川島君と行く約束をしていた…
出店の看板。
呼び込みの女の子の声。
行き交う人の思い思いのコスチューム。
フライドポテトの油やたこやきのソースが、いっしょくたになった匂い。
だけどそのどれもが、意識から遊離していて、遠く離れたできごとにしか思えなくて、わたしはただ、ぽっかり空いた青空を眺めているだけだった。
『学園祭はいっしょに回ろうね』
という、川島祐二との約束だけが、未練がましく、わたしの心の中に、いつまでも引っかかっていた。
恋人同士の約束なんて、むなしい。
ううん。
わたしたち、恋人にもなれなかった。
どんなに望んでいても…
11時に森田美湖と、この中庭の噴水前で待ち合わせ。
ざわめく人混みの中で、どうしても微笑みあっているカップルにばかり目がいってしまい、川島君みたいな男性を見つけると、気持ちがざわついてしまう。
みっこ、早く来ないかな。
待つのはつらい。
だれかと話さえしていれば、こんなせつない思いをして、胸をキリキリ痛ませずにすむのに。
その一瞬だけでも、あの人のこと、考えなくてすむのに…
そのとき、“ポン”とだれかがわたしの肩をたたいた。
「だれかと待ち合わせしてるの?」
肩に感じる大きな手。少し低めの声。
川島君?!
びっくりして振り返る。
しかし、そこにいたのは、知らないふたり連れの男の人だった。
「ヒマだったら俺たちと回らない? ゲームしたりおいしいもの食べたりしてさ。なんでもおごるよ」
「…待ち合わせしてるんです」
そう答えて、わたしは目をそらせる。
「彼氏と?」
「…」
黙ってうなずく。
その瞬間、川島君の顔が頭をよぎって、いたたまれなかった。
「なんか、嘘っぽいな。俺たち避けてんじゃない?」
「心配しなくていいよ、下心なんてないし。絶対楽しませてあげるからさ」
「…ほんとに?」
「もちろんだよ! だから学園祭、俺たちといっしょに回ろうよ」
男たちの方を振り返る。
わたしを見つめて、ふたりは暖かな微笑みを浮かべている。
なんだか優しそう。
その笑顔を、思わず川島君とダブらせてしまう。
「…」
わたしは黙って立ち上がった。声をかけた方の男性が、わたしの腕をとる。じんわり伝わってくる体温。秋って、人のぬくもりがやたら恋しくなる季節なのかな。
つづく
細かなところは忘れてしまったけど、とにかく、川島君が微笑んでいたのは、覚えている。
しかし、その微笑みは、わたしに向けられたものじゃない。
『だれに微笑んでいるの?』
…返事は、ない。
彼の姿は朦朧としてフェードアウトしていき、あとには乳白色の景色だけが広がっていた。
そんな中で、わたしは自分のいる場所がわからなくなり、落ちているのか浮かんでいるのか、上を向いているのか下を向いているのかさえも、まるで感覚が麻痺したようにつかめなくなり、ただ、そこに存在るだけ…
「…いやな夢」
ベッドから起き上がったわたしは、ほつれた髪を掻きむしって考えをまとめようとしたけど、頭の中は夢の続きのように、靄がかかったみたいにかすんでいる。
冴えない頭のまま、わたしは外出の支度をした。
「なんか、調子悪い」
キャンパスの中庭にある噴水のそばのベンチに腰かけて、わたしはただなんとなく空を見上げ、つぶやいた。
夢のイメージを、まだ引きずっている。
最悪な気分。
なのに、わたしのイガイガした気持ちなんておかまいなしに、天気だけはすばらしくよくて、はるか彼方の山並みまでくっきりとマジョリカ色の空が澄み渡り、キャンパスはいろとりどりのざわめきと、看板の色彩であふれていた。
そう。
今日は、西蘭女子大の学園祭。
川島君と行く約束をしていた…
出店の看板。
呼び込みの女の子の声。
行き交う人の思い思いのコスチューム。
フライドポテトの油やたこやきのソースが、いっしょくたになった匂い。
だけどそのどれもが、意識から遊離していて、遠く離れたできごとにしか思えなくて、わたしはただ、ぽっかり空いた青空を眺めているだけだった。
『学園祭はいっしょに回ろうね』
という、川島祐二との約束だけが、未練がましく、わたしの心の中に、いつまでも引っかかっていた。
恋人同士の約束なんて、むなしい。
ううん。
わたしたち、恋人にもなれなかった。
どんなに望んでいても…
11時に森田美湖と、この中庭の噴水前で待ち合わせ。
ざわめく人混みの中で、どうしても微笑みあっているカップルにばかり目がいってしまい、川島君みたいな男性を見つけると、気持ちがざわついてしまう。
みっこ、早く来ないかな。
待つのはつらい。
だれかと話さえしていれば、こんなせつない思いをして、胸をキリキリ痛ませずにすむのに。
その一瞬だけでも、あの人のこと、考えなくてすむのに…
そのとき、“ポン”とだれかがわたしの肩をたたいた。
「だれかと待ち合わせしてるの?」
肩に感じる大きな手。少し低めの声。
川島君?!
びっくりして振り返る。
しかし、そこにいたのは、知らないふたり連れの男の人だった。
「ヒマだったら俺たちと回らない? ゲームしたりおいしいもの食べたりしてさ。なんでもおごるよ」
「…待ち合わせしてるんです」
そう答えて、わたしは目をそらせる。
「彼氏と?」
「…」
黙ってうなずく。
その瞬間、川島君の顔が頭をよぎって、いたたまれなかった。
「なんか、嘘っぽいな。俺たち避けてんじゃない?」
「心配しなくていいよ、下心なんてないし。絶対楽しませてあげるからさ」
「…ほんとに?」
「もちろんだよ! だから学園祭、俺たちといっしょに回ろうよ」
男たちの方を振り返る。
わたしを見つめて、ふたりは暖かな微笑みを浮かべている。
なんだか優しそう。
その笑顔を、思わず川島君とダブらせてしまう。
「…」
わたしは黙って立ち上がった。声をかけた方の男性が、わたしの腕をとる。じんわり伝わってくる体温。秋って、人のぬくもりがやたら恋しくなる季節なのかな。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収
ソラ
ファンタジー
追放された『貸与者』は、不条理な世界を監査(清算)する
「お前のようなゴミはいらない」
勇者パーティの荷物持ちソラは、魔王討伐を目前に非情な追放を言い渡される。
だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。
彼らの力はすべて、ソラの規格外のステータスを『借りていた』だけの虚飾に過ぎないことを。
「……わかった。貸していた力(資産)、すべて返還(清算)してもらうよ」
契約解除。勇者たちは凡人へと転落し、ソラはレベル9999の万能感を取り戻す。
しかし、彼が選んだのは復讐ではない。
世界に蔓延る「不条理な負債」を暴き、正当な価値を再定義する『監査官』としての道だった。
才能なしと虐げられた少女ミィナを助け、ソラは冷徹に告げる。
「君の絶望は、私が買い取った。利息として……君を最強にしてあげよう」
「因果の空売り」「魂の差し押さえ」「運命の強制監査」
これは、最強の『貸与者』が、嘘まみれの英雄や腐敗した領地を、帳簿の上から「ざまぁ」する物語。