Campus91

茉莉 佳

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09 Moulin Rouge

Moulin Rouge 1

 
 金曜日の講義は午前中までで、そのあとはみっことターミナル駅の西口で待ち合わせ。
午後になってチラチラと降りだした雪に、仕事帰りのサラリーマンやOLが、コートの襟を立てて行き交う駅前の雑踏のなかで、わたしはみんなを待っていた。
12月に入ってクリスマスやお正月が近くなったせいか、人も街も、いつもよりあわただしく感じられる。
急ぎ足の人が、目の前をせわしなく通り過ぎていき、いつもより速いスピードで、大通りをクルマが流れていく。
そんな街の景色を見ながら、わたしはいつもとは違う緊張で、からだが震えるのを感じた。
今日はみっこだけでなく、川島君も来るし、みっこの『ダブルデート』の相手も気になる。
そんな面々と、初めて行くディスコ。
ステップなんて、知らない。
わたしはちゃんと踊れるんだろうか。

「さつき~。お待たせ」
真っ赤なケープのハーフコートを羽織って、ギンガムチェックのマフラーを巻いたみっこが、人ごみの中から現れ、軽やかな足取りでこちらへやって来た。
「あれ? みっこ、今日は『すっごいカッコしてくる』って言ってたけど、その割には、いつも学校に着てくるコートじゃない?」
「あは。あんまりすごい服だから、コートで隠しとかないと、街なかじゃ恥ずかしいのよ」
そう言ってみっこは、ペロリと舌を出す。
太ももまでしかないハーフコートの下は黒のストッキングなので、ミニ丈の服なんだろうけど、どう『すっごい』のかまではわからない。
「どんな服着てるの?」
「さつき、見たい?」
「う… うん」
「ダメ。あ、と、で」
そう言って、みっこはわざとらしくコートの襟をぎゅっと締め、挑発的な笑みを浮かべた。なんだかじらされているような気がするなぁ。
「さつきもいい感じじゃない」
わたしのつま先から髪の毛までチェックする様に眺めたみっこは、『合格』というように微笑んだ。
『おしゃれしてきて』ってみっこが言うから、わたしも今日はとっておきのワンピースを着てきたんだ。
ドルマンスリーブでローウエストの、ちょっと短めなピンクのワンピース。スカートの裾が広がって、フワフワと風に揺れている。
「こんなカッコでよかったのかなぁ?」
「ええ。さつきらしくって、いいわよ。ストッキングもラメとか入ってて、いつもより派手めだしね」
「ふつうのストッキングじゃ地味な気がして… ここに来る前に駅のデパートで買って、履き替えたのよ」
「さつき、やる気満々じゃない」
「そ、そんなこと…」
「あはは。いいわよ。今夜は楽しもうね!」
みっこはそう言いながら、わたしの肩に腕をまわして笑う。
なんだかドキドキしてきた。
はじめてのディスコ。

 そうしているうちに川島君がやって来た。
今日はカジュアルなネクタイにベストを着ていて、いつものデートより少しきらびやかな格好。彼は微笑みながらわたしの方に近づいてきたが、みっこを見て『あっ』といった表情を見せた。
「さつきちゃん待った? 遅くなって。そちらが…」
「あ。彼女が森田美湖さん」
「そうか。あの、森田さんか」
そう言いながら川島君は笑う。みっこはわたしをつついて小声で言った。
「さつき。『あの』ってなんなの? あたしのこと、あなた、なんて言ってるの?」
「心配しなくても、褒めてるわよ」
「ふうん?」
訝しげにわたしを見ていたみっこだったが、川島君に目線をやると右手を差し出し、挨拶した。
「はじめまして。あたしが『あの』森田美湖です。よろしく」
「え… あ、川島です。よろしく」
あわててポケットから手を出し、ぎこちなく握手をして会釈する。そんな川島君を見ながらみっこはニッコリ微笑み、川島君も照れ笑いを浮かべた。

「おっ。みっこ、待ったか?」
そうしているところに、背の高い細身の男の人が声をかけてきた。
「芳賀修二くんよ」
みっこは彼に軽く手を振って挨拶すると、わたしたちを振り返り、その男性を紹介した。『芳賀修二くん』と呼ばれた男の人は無愛想に、ペコリとうなずいてみせた。

ええっ?
これがみっこの『彼氏』なの?

いかにも『スノッブ』といった感じの芳賀さんは、背が高くてスタイルもよく、鼻筋が通っていて目がくぼんだ洋風な顔立ちで、かなりのハンサム。
皮のジャケットにピチピチの黒のスウェードパンツ。腰にはジャラジャラとチェーンがついていて、耳には銀のピアス。
確かにカッコいいんだけど、わたしの思い描いていた『みっこの恋人』とは、なにか違和感がある。
みっこと芳賀さんが並んでいるさまも、どこかしっくりこない。
「みっこ。今日はどこに行くんだ?」
芳賀さんはそう言うと、みっこの肩に軽く手を回す。その仕草はなんかチャラくて、あんまり好きになれない。みっこにはもっとおとなびた、落ち着いた感じの人の方が似合うと思うんだけどな。
「Moulin Rougeよ」
芳賀さんの手をやんわり払いのけながら、みっこは言った。

つづく
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