Campus91

茉莉 佳

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09 Moulin Rouge

Moulin Rouge 3

「みっこ、チューハイ作れよ。乾杯しようぜ」
そう言いながら、芳賀さんがグラスに氷を入れる。
「え~。あたし、そんなのどうやるか知らないの。ごめんね」
愛想よく舌を出すだけで、みっこはボトルを取ろうともしないので、代わりにわたしが手を伸ばした。
「お父さんの晩酌によくチューハイとか作ってるから、わたしがするわよ。レモンサワーでいい?」
「わぁ。ありがとさつき」
「お。さつきちゃん、なかなか家庭的だな」
「お酒作るのを、『家庭的』っていうのかなぁ? むしろ、ホステス的?」
アップルサイダーをグラスに注ぎながら茶化す川島君に、わたしは照れながら応える。
「みんなの愛に、乾杯」
ドリンクが揃ったところで、みっこはそう言ってグラスを掲げ、ペロリと舌を出した。

「ところでみっこ、今日はどうしてダブルデートなんて言い出したの?」
グラスに口づけながら、わたしはみっこに聞いた。
「ん。今日はあたしの誕生日なの? だからディスコパーティってわけ」
「ええっ! みっこの誕生日?
やだ。どうして言ってくれなかったのよ。わたし、プレゼントとか、なにも用意してないのに」
そう言いながら、わたしは自分の誕生日のことを思い出した。
みっこはわたしの誕生日を覚えてくれていて、ワンピースをプレゼントしてくれたっけ。なんだか悪いことしちゃったな。
「いいのいいの。みんなで集まって騒ぐのが、いちばんのプレゼントなんだから」
「俺は持ってきたぜ。ほら」
そう言いながら芳賀さんは得意げに、ピンクのリボンのかかった小箱を、みっこに差し出した。
「わぁ。ありがとう。あ、綺麗な指輪ね」
小箱を受け取ったみっこは、その場でプレゼントを開き、箱から取り出した華奢な銀の指輪を、右手の薬指にはめ、ミラーボールの方にかざしてうっとりと眺めた。
「19歳の誕生日に男から銀の指輪をもらえば、幸せになれる、って言うだろ」
やさしく微笑みながら、芳賀さんは言った。案外ロマンティックな人なんだな。
指輪を小箱に仕舞いながら、みっこは軽く肩をすくめて応える。
「だけど指輪なんて、意味深なプレゼントよね」
「ダメか?」
「ううん。芳賀くんがあたしの幸せを願ってくれるのは、嬉しいわ」
「そうか!」
芳賀さんは得意げな笑みを浮かべると、グラスを高く掲げた。
「じゃ。みっこのバースディに乾杯」
芳賀さんがイニシアチブをとって、もう一度みんなのグラスがはじけた。



 適当に腹ごしらえが終わったみっこは、芳賀さんと踊りにフロアーに出ていった。
まだ人前で踊る勇気がないわたしは、ソファに座ってドリンクを手にしたまま、みっこの姿を目で追った。
ユーロビートの激しいリズムに合わせて、みっこはからだをくねらせはじめる。
小気味いい足さばきに、キレのあるターン。
ステップを踏む毎にプルプルと揺れるお尻と胸が、なんともセクシー。
ダンスのことはよくわからないけど、他の誰よりもみっこは華やかで、ひときわ目立つ存在だった。
けっして、ミニのボディコンのおかげだけじゃない。

「ねえ。みっこのこと、どう思った?」
わたしと同じように、まだこの場所に馴染めず、グラスを手にじっとフロアの人ごみを観察している川島君に、わたしは訊いてみた。
「どうって?」
「わたしが言ってたとおりの印象だった?」
「そうだな…」
川島君は少し考えて答える。
「意外だった」
「意外?」
その言葉の方が意外に感じ、わたしはおうむ返しに訊いた。
「さつきちゃんの話から、ぼくはもっと、可愛くて明るい女の子を想像してたよ」
「え? みっこは可愛くて明るいけど?」
「まあ、そうだけど… でも彼女、なんだか怖いんだよな」
「怖い?」
「近寄りがたいっていうのかな。まだ、ほとんど話してないから、あくまで第一印象なんだけど…」
「まあ確かに。美人って、そんな印象持たれがちよね」
「そういう意味じゃなくって… 森田さんって、親しそうにしていながら、壁を作っているって感じ」
「初対面だし、川島君が男だからじゃない?」
「そうかもしれないけど… でも彼女の場合、なんて言うかな…
男と対等にいようとしている感じ。
…って言えばいいのかなぁ。そんな印象」
「そうね。みっこって、男の人にシビアな面はあるわよね」
「そうだろうな。ああいうタイプは、並の男じゃ持てあますんじゃないかな」
「持てあます?」

つづく
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