Campus91

茉莉 佳

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09 Moulin Rouge

Moulin Rouge 10

「Moulin Rougeって、なんだか知っていますか?」
ソファに浅く腰をおろして脚を組み、グラスを揺らしながら、藍沢さんはわたしたちに語りかけてきた。そんなキザっぽい仕草がサマになっているのは、年齢を重ねた大人の魅力と、端正な顔立ちのおかげかもしれない。
「確か、パリのキャバレーの名前だったと思うけど…」
川島君がそう答えると、彼はニコリと微笑んだ。
「そう。ベル・エポックの時代に流行った、パルの名前。『赤い風車』って意味だそうですよ。
ほら、パリの観光写真でよく見かける、ピカピカ光った風車の建物。もう100年も前からカンカン踊りをやっている、パリの名所ですよ」
「あ。わたしその頃のロートレックとかミュシャのポスター、好きです。確か、ムーランルージュも出てきたと思います」
「ロートレックは娼婦や踊り子といった夜の女を愛して,ムーランルージュに入り浸って彼女らを描いていましたからね。ミュシャの民族愛に溢れた生き方とはだいぶ違うけど、どちらもアールヌーボーを代表する巨匠ですね。ぼくもミュシャが好きで、部屋には『スラーヴィア』のレプリカが飾ってますよ」
「『スラーヴィア』いいですね~。わたしも画集で見たとき、たっぷり10分くらい見惚れてました」
「へえ。さつきさんとは趣味が合いますね。川島君はどんな絵が好きですか?」
「ぼくはアールヌーボーより、印象派の方が好みです」
「ああ。ドガやルノアールみたいな? いいですよね」
そう言って藍沢氏は、微笑みながら川島君にグラスを差し出す。その言葉に少し打ち解けたのか、川島君はグラスを受け取り、口元をゆるめて言った。
「ええ。ぼくはドガの踊り子シリーズとか好きなんです。高校で美術部にいたときは、何度か模写しました」
「すごいな。あんな難しい絵を?」
「あはは… もちろん、ドガの足許にも及ばなかったですけどね」
「わたしもルノアールは好きよ。今度、大濠美術館で『印象派展』があるでしょ。みんなで見に行かない? ね、川島君。みっこに芳賀さん」
「いいね」
「ん…」
「俺、絵にはあまり興味はないな」
川島君はうなずいてくれたけど、みっこは会話に加わる気もないみたいで、そっぽ向いたままだし、芳賀さんはまったく気のない返事。少し白けかけた雰囲気を盛り上げるかのように、藍沢氏は明るく喋りはじめた。
「それは楽しそうですね。じゃあ、これ使って下さい」
彼はスーツの内ポケットから財布を取り出すと、中から数枚のチケットを、わたしたちに差し出す。
「今度の『印象派展』の招待券ですよ」
「でも…」
戸惑う川島君に、藍沢氏は明るい調子で続ける。
「心配ないですよ。ぼくの会社で今、得意先に配っているものだから。いつもたくさん回ってくるので、いくらでも使って下さい」
「どうもありがとうございます」
川島君がお礼を言って受け取ると、藍沢氏はニッコリ微笑んだ。

う~ん…
さっきから感じているんだけど、藍沢氏の微笑み方って、どことなくみっこの印象と重なってしまうのよね。

みっこに対していたときとはまるで別人のように、藍沢氏は温和でやさしく、親しげにわたしたちに気を遣ってくれる。
知識や話題も豊富で、会話のキャッチボールが上手く、わたしや川島君がどんな話を切り出しても、スムーズに受け答えして、会話を楽しませてくれる。
雰囲気も落ち着いているし、テーブルに肘をつきながらラフにものを食べる仕草さえ、どことなく品の良さが感じられる。
そういうのはやっぱり、おとなの男性の魅力なのかな?
同い年の男の人にはない余裕と、包容力。
これなら、どんなにわがままな女の子でも、上手く受け入れて、手のひらで転がしてあげて、つきあっていけそう。
『この人はやっぱり、みっこの恋人だ』
わたしはそう、実感した。

じゃあ、どうしてみっこは彼と別れてしまったの?

つづく
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