106 / 300
10 Invitation
Invitation 3
エレベーターで7階まで上がって、みっこの部屋に着くまで、彼女はずっとパパやママのことを話してくれた。
興味を持って話を聞く一方で、彼女がこんなにも躊躇いなく、自分のプライバシーを気軽にしゃべってくれることが、わたしはとっても嬉しかった。
昨日までのみっこは、親しく話をしているようでも、どこか殻を作っていて、チェーンのかかったドア越しに話しているように感じることがあったけど、今日のみっこにはそんな隔たりがない。
昨夜の『Moulin Rouge』でのできごとで、彼女のなにかが吹っ切れたのかもしれない。
「招いたのは、さつきがはじめてよ」
はにかむようにみっこは言って、部屋のドアを開けた。
「わあ! いい香り」
家に入って最初にわたしを迎えてくれたのは、玄関の飾り棚に置いてあった、ハーブのポプリの甘い香りだった。
大きめの1LDKってところかな?
女子大生がひとりで住むには、かなり贅沢なくらいの広さ。
やっぱりみっこって、お嬢様なんだ。
玄関を入ると短い廊下があり、左右には部屋のドア。廊下のつきあたりにはステンドグラスがはめ込まれた扉があって、ガラス越しに冬の木漏れ日が長いプリズムを作って、フローリングの廊下にふんわりと丸まっている。
そんな扉の奥の部屋へ、みっこはわたしを案内した。
そこはリビング・ダイニングキッチンだった。
正面にはバルコニーへ続く掃き出し窓があり、左側の出窓からの光が、ライトブラウンのフローリングの床に、陽だまりをつくっている。
「すっごく素敵ね~」
フロアを歩きながらみっこを振り返り、わたしは部屋の中を見渡す。
光がいっぱいに溢れたリビング・ダイニングキッチンは、とっても明るくてさわやか。
リビングに置かれたローチェストは、アンティークな生成りの白で、その上には、ミニコンポやテレビ、ちょっとした小物と花が、キチンと置かれている。
リビングセットはローチェストと同じデザインの、低めの丸テーブルとベンチチェスト。台形の大きな出窓は、床板がベンチになっていて、可愛いクッションが並べられている。
キッチンとリビングの間に据えられているバー・カウンターは、ひとりの食事にはちょうどいい大きさだし、こまごまとした台所用品を、リビングから見えないようにする役目もしている。
12畳ほどのLDKを、みっこは上手に無駄なくレイアウトしていた。
「みっこはインテリアのセンス、いいわね~」
「ありがと。みんなお気に入りの家具なの」
「他の部屋も、見ていい?」
「いいわよ。あたしその間にお茶入れてるから。さつきはコーヒー? 紅茶?」
「ん~。じゃあ、紅茶」
「やっぱりマドレーヌに合うのは紅茶よね。『FAUCHON』のアールグレイがあるのよ」
キッチンの棚から金色に輝く紅茶缶を取り出して、みっこはお茶の支度をはじめる。その間にわたしは廊下に出た。
向かって左のドアを開けると、そこはユーティリティで、その奥にはバスルーム。
タオルやボディブラシなどの小物は、全部ロイヤルブルーで統一されていて、棚に置かれたタオルの端が、みんなキチンと揃っているのが気持ちいい。みっこって几帳面だなぁ。
ユーティリティの向かいにあるもうひとつの部屋は、みっこのプライベートルームだった。
ドアを開けると、ひんやりとした冬の空気が漂ってくる。
部屋に入ったわたしは、まわりを見回しながらゆっくりと歩いた。厚手の絨毯に足音が吸い込まれていく。
この部屋はリビングと違って、シックで落ち着いた印象。
アンティーク調の木目のライティングビューローに椅子。ベッド、本棚、電子ピアノ。天井まである折れ戸のクロゼット。
習慣からか、わたしは本棚に並んだ本の背を眺めた。
ファッション・プレート全集や、服飾事典、『流行通信』『ヴォーグ』といった、ファッション関係の雑誌が、大部分を占めている。
その一角に、日頃見慣れている大学の教科書に、ノート、関連資料本。
だけどそれらは、ファッション系の本に追いやられるように、どこか場違いな感じで、窮屈そう。
そんなみっこの本棚を見て、モデルをめざしていたのに想いを果たせなかった、彼女の『いきさつ』が、漠然と、だけど実感として、伝わってきた。
みっこが今、いるべき場所は、ここじゃない。
彼女には、わたしと同じ大学に通うよりも、他にやることがあるんじゃないかな…
つづく
興味を持って話を聞く一方で、彼女がこんなにも躊躇いなく、自分のプライバシーを気軽にしゃべってくれることが、わたしはとっても嬉しかった。
昨日までのみっこは、親しく話をしているようでも、どこか殻を作っていて、チェーンのかかったドア越しに話しているように感じることがあったけど、今日のみっこにはそんな隔たりがない。
昨夜の『Moulin Rouge』でのできごとで、彼女のなにかが吹っ切れたのかもしれない。
「招いたのは、さつきがはじめてよ」
はにかむようにみっこは言って、部屋のドアを開けた。
「わあ! いい香り」
家に入って最初にわたしを迎えてくれたのは、玄関の飾り棚に置いてあった、ハーブのポプリの甘い香りだった。
大きめの1LDKってところかな?
女子大生がひとりで住むには、かなり贅沢なくらいの広さ。
やっぱりみっこって、お嬢様なんだ。
玄関を入ると短い廊下があり、左右には部屋のドア。廊下のつきあたりにはステンドグラスがはめ込まれた扉があって、ガラス越しに冬の木漏れ日が長いプリズムを作って、フローリングの廊下にふんわりと丸まっている。
そんな扉の奥の部屋へ、みっこはわたしを案内した。
そこはリビング・ダイニングキッチンだった。
正面にはバルコニーへ続く掃き出し窓があり、左側の出窓からの光が、ライトブラウンのフローリングの床に、陽だまりをつくっている。
「すっごく素敵ね~」
フロアを歩きながらみっこを振り返り、わたしは部屋の中を見渡す。
光がいっぱいに溢れたリビング・ダイニングキッチンは、とっても明るくてさわやか。
リビングに置かれたローチェストは、アンティークな生成りの白で、その上には、ミニコンポやテレビ、ちょっとした小物と花が、キチンと置かれている。
リビングセットはローチェストと同じデザインの、低めの丸テーブルとベンチチェスト。台形の大きな出窓は、床板がベンチになっていて、可愛いクッションが並べられている。
キッチンとリビングの間に据えられているバー・カウンターは、ひとりの食事にはちょうどいい大きさだし、こまごまとした台所用品を、リビングから見えないようにする役目もしている。
12畳ほどのLDKを、みっこは上手に無駄なくレイアウトしていた。
「みっこはインテリアのセンス、いいわね~」
「ありがと。みんなお気に入りの家具なの」
「他の部屋も、見ていい?」
「いいわよ。あたしその間にお茶入れてるから。さつきはコーヒー? 紅茶?」
「ん~。じゃあ、紅茶」
「やっぱりマドレーヌに合うのは紅茶よね。『FAUCHON』のアールグレイがあるのよ」
キッチンの棚から金色に輝く紅茶缶を取り出して、みっこはお茶の支度をはじめる。その間にわたしは廊下に出た。
向かって左のドアを開けると、そこはユーティリティで、その奥にはバスルーム。
タオルやボディブラシなどの小物は、全部ロイヤルブルーで統一されていて、棚に置かれたタオルの端が、みんなキチンと揃っているのが気持ちいい。みっこって几帳面だなぁ。
ユーティリティの向かいにあるもうひとつの部屋は、みっこのプライベートルームだった。
ドアを開けると、ひんやりとした冬の空気が漂ってくる。
部屋に入ったわたしは、まわりを見回しながらゆっくりと歩いた。厚手の絨毯に足音が吸い込まれていく。
この部屋はリビングと違って、シックで落ち着いた印象。
アンティーク調の木目のライティングビューローに椅子。ベッド、本棚、電子ピアノ。天井まである折れ戸のクロゼット。
習慣からか、わたしは本棚に並んだ本の背を眺めた。
ファッション・プレート全集や、服飾事典、『流行通信』『ヴォーグ』といった、ファッション関係の雑誌が、大部分を占めている。
その一角に、日頃見慣れている大学の教科書に、ノート、関連資料本。
だけどそれらは、ファッション系の本に追いやられるように、どこか場違いな感じで、窮屈そう。
そんなみっこの本棚を見て、モデルをめざしていたのに想いを果たせなかった、彼女の『いきさつ』が、漠然と、だけど実感として、伝わってきた。
みっこが今、いるべき場所は、ここじゃない。
彼女には、わたしと同じ大学に通うよりも、他にやることがあるんじゃないかな…
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。