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10 Invitation
Invitation 12
「だから、すべてをリセットしたの」
そう言いながら、みっこはわたしを見つめて、寂しそうに微笑んだ。
「あたし。そのとき、自分を取り囲んでいたなにもかもと、離れてしまいたかった。
直樹さんとも、モデルとも、家とも…
18年の間に築いてきた… 築かされてきた自分を、葬り去りたかった。
いろんな状況が煮詰まってしまってたあの頃。あたしにはそうする以外に、生きる道がないって、思い込んでたの」
「それが、みっこが言ってた、『カーニバル』ってこと?」
「そう。学園祭の夜、さつきと話してて、やっとわかったの。
あたし、今はお祭りの中で生きているんだなって…
自分が今まで生きてきた18年と、まったく別の世界で生きてるんだなって。今までの自分は、全部まとめて捨てちゃったんだな、って…」
彼女がそう言い切った瞬間、わたしのなかで、切ない想いがどうしようもなくこみ上げてくるのを感じた。
みっこほどの女の子でも、ここまで追いつめられてしまったら、もう立ち向かっていくことは、できなくなるの?
そんなに失恋の痛手が深いものなら、もしわたしがそうなったとき、わたしに耐えることはできるの?
「…みっこの『カーニバル』は、まだ終わらないの?」
かろうじて、それだけを訊いた。
瞳を閉じて、深い想いに沈んだあと、みっこはおもむろにかぶりを振った。
「この『カーニバル』だって、結局、あたしの選んだ、現実の世界なのよ」
「え?」
「昨日は、その現実からずっと逃げ続けてきたツケを、払わなきゃいけない日だったのかもしれない」
そう言うとみっこは、観念したかのような笑みを見せた。
「すごい運命のいたずらよね? 同じディスコで、別れた彼氏と、ちょうど一年振りの再会なんて」
「みっこ…」
「だけどよかった。昨日、直樹さんに会えて…
ううん。
もしかしてあたし、直樹さんに会いたかったのかもしれない。
もう一度、会わなきゃ。
そして、とことん泣かなきゃ、あたしのカーニバルは終わらせられなかった。
あたしはわがままで、自分から引き下がることなんてできなくて、前に進もうとしてばかりだったけど、気が済むまで泣いて、一歩下がって負けを認めれば、心が楽になって、新しい世界が見えてくる。
そんなことに、昨日やっと気がついた。
あたしは未熟で、失敗して、いろんなものを無くしちゃったけど、だからこそ、本当に大切なものがなにか、よくわかった。
藍沢直樹さんって、あたしにとっては、かけがえのない男だった。
そんな彼に出会えて、ひとときでも人生を重ねられて、ほんとに幸せだった。
あの人とはもう、同じ道を歩くことはできない。
でも、あたしに大切なものをたくさん遺してくれた。そして…」
みっこはそこで言葉を区切った。『ウエッジウッド』を暖める指先が震え、わずかに力がこもる。
「あたし… やっぱり、モデルをしたい!」
紅茶の雫の残ったカップの底に、ひと粒、水滴がはじけた。
はっとしてみっこを見ると、彼女の瞳には、あふれるほどにいっぱいの涙がたまっている。
だけどわたしは、それを『涙』なんて、悲しい言葉では呼びたくない。
今のみっこの言葉で、わたしははっきり実感できたもの。
みっこは、ひとつ、成長したんだなって…
まるで、古いしがらみの殻を、すっと抜け出すように。
今の彼女には、昨日までのなにかに挑むような、ぎりぎりの崖っぷちに自分を追いつめるような面影は、もうない。
今、こうして語っているみっこは、意を決した言葉の中にも、どこか柔らかく、その表情にも穏やかさを感じる。
そんな彼女は、今までにもまして、とっても魅力的。
たまらないな。
同い年で(わたしの方が月上だ)同じ大学に通う同じ女の子なのに、目の前でこうも成長されちゃうと。
わたしだって頑張らなきゃ。
つづく
そう言いながら、みっこはわたしを見つめて、寂しそうに微笑んだ。
「あたし。そのとき、自分を取り囲んでいたなにもかもと、離れてしまいたかった。
直樹さんとも、モデルとも、家とも…
18年の間に築いてきた… 築かされてきた自分を、葬り去りたかった。
いろんな状況が煮詰まってしまってたあの頃。あたしにはそうする以外に、生きる道がないって、思い込んでたの」
「それが、みっこが言ってた、『カーニバル』ってこと?」
「そう。学園祭の夜、さつきと話してて、やっとわかったの。
あたし、今はお祭りの中で生きているんだなって…
自分が今まで生きてきた18年と、まったく別の世界で生きてるんだなって。今までの自分は、全部まとめて捨てちゃったんだな、って…」
彼女がそう言い切った瞬間、わたしのなかで、切ない想いがどうしようもなくこみ上げてくるのを感じた。
みっこほどの女の子でも、ここまで追いつめられてしまったら、もう立ち向かっていくことは、できなくなるの?
そんなに失恋の痛手が深いものなら、もしわたしがそうなったとき、わたしに耐えることはできるの?
「…みっこの『カーニバル』は、まだ終わらないの?」
かろうじて、それだけを訊いた。
瞳を閉じて、深い想いに沈んだあと、みっこはおもむろにかぶりを振った。
「この『カーニバル』だって、結局、あたしの選んだ、現実の世界なのよ」
「え?」
「昨日は、その現実からずっと逃げ続けてきたツケを、払わなきゃいけない日だったのかもしれない」
そう言うとみっこは、観念したかのような笑みを見せた。
「すごい運命のいたずらよね? 同じディスコで、別れた彼氏と、ちょうど一年振りの再会なんて」
「みっこ…」
「だけどよかった。昨日、直樹さんに会えて…
ううん。
もしかしてあたし、直樹さんに会いたかったのかもしれない。
もう一度、会わなきゃ。
そして、とことん泣かなきゃ、あたしのカーニバルは終わらせられなかった。
あたしはわがままで、自分から引き下がることなんてできなくて、前に進もうとしてばかりだったけど、気が済むまで泣いて、一歩下がって負けを認めれば、心が楽になって、新しい世界が見えてくる。
そんなことに、昨日やっと気がついた。
あたしは未熟で、失敗して、いろんなものを無くしちゃったけど、だからこそ、本当に大切なものがなにか、よくわかった。
藍沢直樹さんって、あたしにとっては、かけがえのない男だった。
そんな彼に出会えて、ひとときでも人生を重ねられて、ほんとに幸せだった。
あの人とはもう、同じ道を歩くことはできない。
でも、あたしに大切なものをたくさん遺してくれた。そして…」
みっこはそこで言葉を区切った。『ウエッジウッド』を暖める指先が震え、わずかに力がこもる。
「あたし… やっぱり、モデルをしたい!」
紅茶の雫の残ったカップの底に、ひと粒、水滴がはじけた。
はっとしてみっこを見ると、彼女の瞳には、あふれるほどにいっぱいの涙がたまっている。
だけどわたしは、それを『涙』なんて、悲しい言葉では呼びたくない。
今のみっこの言葉で、わたしははっきり実感できたもの。
みっこは、ひとつ、成長したんだなって…
まるで、古いしがらみの殻を、すっと抜け出すように。
今の彼女には、昨日までのなにかに挑むような、ぎりぎりの崖っぷちに自分を追いつめるような面影は、もうない。
今、こうして語っているみっこは、意を決した言葉の中にも、どこか柔らかく、その表情にも穏やかさを感じる。
そんな彼女は、今までにもまして、とっても魅力的。
たまらないな。
同い年で(わたしの方が月上だ)同じ大学に通う同じ女の子なのに、目の前でこうも成長されちゃうと。
わたしだって頑張らなきゃ。
つづく
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