Campus91

茉莉 佳

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11 Audition

Audition 1

 年も明け、後期の試験もだいたい終わって、春休みの話がちらほらと聞かれるようになってきた、ある日のことだった。

ゆうべから降りだした雪は一晩中やまず、今朝の西蘭女子大学のキャンパスは、ウエディングドレスをまとったように、一面真っ白な雪景色になった。
福岡の街中で雪が積もるのは、年に一度あるかないかの珍しいこと。
午前の授業を受けている最中に、ようやく雪はやみ、代わりに太陽が雲の隙間から顔を出す。
中庭に積もった雪の粒がシャーベットみたいになって、キラキラと反射するのがとっても綺麗。
そんな銀世界を、わたしとみっこは学生食堂の窓辺から眺めていた。

スチームのよくきいた昼休みの食堂は、いつもより人が少なく、雪に照り返された光が、曇ったガラス越しにまぶしいくらいに差し込んで、部屋全体が白くかすんで見える。
曇りガラスを手で拭きながら、わたしはみっこに言った。
「すごく積もったね。電車もだいぶ遅れたし、今日の試験の予定も狂ったわね」
「福岡でも冬は寒いのね。なんだか意外だな」
そう言ってみっこはクスリと笑う。
「ママがね、昔、冬に九州に行ったとき、『九州って南国だからコートはいらないだろう』って思って、薄いワンピース一枚で飛行機に乗ったんだって。でも空港に着いたら雪が降ってて、寒くて寒くて、そのときはじめて、九州でも雪が降るって知ったそうよ」
「あはは。鹿児島や沖縄ならわかるけど、福岡だと、東京とそんなに緯度も変わらないじゃない」
「ママって地理音痴だから」

「それって、『音痴』とは言わないんじゃない?」
「そっか」

 ランチセットを食べながら、そんな他愛もない話をしているとき、ナオミが食堂に入ってきたのが見えた。
なんだか元気のない様子。
みっこは軽く手を振る。ナオミもみっこを見つけて、力なく手をあげた。
そういえば、この頃のナオミはなんだか変。
いっしょに食事していてもあまり食べないし、あれだけ休み時間の度に口にしていたアイスクリームやチョコレートを、ほとんど食べなくなった。
カウンターでノロノロとお皿を載せているナオミを見ながら、わたしはみっこに言った。
「ねえ、みっこ。最近のナオミ、どうしたのかしらね?」
「あれで元気いっぱいだったら、スーパーガールよね」
「あれでって、みっこは理由わけ、知ってるの?」
「知ってるわよ」
「いったいどうしたの?」
そう訊いたとき、サラダと紅茶だけをトレイに置いて持ってきたナオミがやってきて、おっくうそうにわたしたちのとなりの席に、ドスンと腰をおろした。
「あ~あ。思いっきり食べたいな~! あ。みこちゃんの食べてるピザ、おいしそ~。いいな~」
そうボヤキながら、ナオミは手元のサラダを食べる気なさそうに、フォークでつつく。
「どう? 少しはダイエットできた?」
わたしに答えるかわりに、みっこはナオミに訊いた。
「ううん。減るのはおっぱいばっかり。もう2カップ減ったわよぉ」
「2カップ減ってもその大きさなら、いいじゃない」
「よくないよぉ~。朝ごはん食べないようにしてるんだけど、おなかがすくだけで、ほとんど体重減らないし… それに毎日夢に出てくるのよぉ。ステーキとか唐揚げとかケーキとかが」
「夢に見るって…
そんな、ストレスが溜まるようなダイエットはダメよ。あまり無理しないでいいのよ。
急激なダイエットはリバウンドが怖いし、食事を抜くのは逆効果なんだから。
それだったら、生活を朝型にして、朝食と昼食はちゃんと食べて、夕食に炭水化物をあまり摂らないようにして、寝る前3時間はなにも食べないようにする方がいいわよ」
「そうぉ… じゃあ、そうする~」
ふたりの話に、わたしは横から入った。
「ナオミ、ダイエットなんかしてるの? 急にどうしたの?」
「さつきちゃん。あたしね。オーディション受けるのよぉ」
そう言ってナオミは、サラダをつついていたフォークをカランとお皿に置いて、やる気なさそうに頬杖ついた。
「オーディション?」

つづく
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