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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 11
ティーポットに本場スリランカの、『ウヴァ・ティー』の葉っぱを入れ、わたしと川島君はカウチソファーに黙って並んで座った。
ティーカップに紅茶を注いでいるときも、ふたりは無言のままだった。
…なんだか気まずい。
拒んだことを、川島くんは怒っているのかもしれない。
もしかしてわたし、嫌われちゃったかな?
彼の顔が見れず、カップにたゆたう紅茶に目を落としながら、言った。
「…ごめん」
「なにが?」
川島君はじっとわたしを見つめる。
「『なにが?』って言われても…」
「キスをやめたこと?」
「…」
わたしは黙ってうなずく。
「ぼくの方こそ…」
そう言った川島君を、わたしはおずおずと振り返る。
「ちょっと動揺しちまったかな~。さつきちゃんに嫌われたかと思って」
「そんなこと、ない」
わたしはかぶりを振った。川島君は安心するかのように、息をつく。
「ごめんよ。さつきちゃんの気持ちも考えずに、暴走しちまって」
そう言って川島君は言葉を区切り、紅茶に口をつける。
「安心しなよ。さつきちゃんの準備ができるまで、ぼくはいつまでも待つよ」
「川島君、やさしいのね」
「はは… なんか思い出すな」
「なにを?」
「去年の、まだ、つきあいはじめる前に、こうやって紅茶を飲みながら、『紅茶貴族』で話したことがあっただろ。『みんな、人間性を磨くより、凸凹をくっつけることにばっかり熱心だ』って」
「そういえば… そんな話、したわね」
「あの頃は、そうやって相手のからだを求めることが、本能に依存しただけの低級な欲望みたいな気がして、『お互いの人間性を高めるようなつきあい方がしたい』なんて、偉そうなこと言ってたけど、今じゃその欲望の中で溺れかけてる感じ。まったく、だらしない話だよな」
「そんなことない」
「やっぱりぼくは、なにも分かっちゃない、ドーテー君だったよ」
「え?」
「好きな人の存在って、なんて言うか… 圧倒的なんだよな~」
「…」
「キスしたときの唇とか、触れあった肌の感触が、寝ても醒めても思い出されちゃって、頭から離れなくなる。
さつきちゃんのこと、とても大事にしてあげたいって気持ちはあるのに、欲しくてたまらない気持ちが暴走しちまって、そのふたつがぶつかりあって、自分が抑えられなくなるんだよ」
「…」
川島君の言葉を聞いていて、なにも言えなくなる。
「な~んか、すっごく月並みでドン臭い言葉だけど、これが『おとなの階段』ってやつなのかなぁ~」
自分の気持ちを茶化すように、川島君がおどけてみせる。
わたしは胸のあたりが、ジンと熱くなった。
だって…
わたしの気持ちも、川島君とまったくいっしょだったから…
わたし、そんな彼が大好き。
この人になら、わたしのすべてを委ねられる。
ううん。
この人じゃなきゃ、イヤ。
ずっと川島君といっしょにいたい。
川島君といっしょなら、そんな階段だって、登っていくのも怖くはないかもしれない。
ため息が漏れるような、小さな声で、わたしは言った。
「…いいよ」
「え?」
「『おとなの階段』。いっしょに登っても…」
「さつきちゃん…」
つづく
ティーカップに紅茶を注いでいるときも、ふたりは無言のままだった。
…なんだか気まずい。
拒んだことを、川島くんは怒っているのかもしれない。
もしかしてわたし、嫌われちゃったかな?
彼の顔が見れず、カップにたゆたう紅茶に目を落としながら、言った。
「…ごめん」
「なにが?」
川島君はじっとわたしを見つめる。
「『なにが?』って言われても…」
「キスをやめたこと?」
「…」
わたしは黙ってうなずく。
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「そんなこと、ない」
わたしはかぶりを振った。川島君は安心するかのように、息をつく。
「ごめんよ。さつきちゃんの気持ちも考えずに、暴走しちまって」
そう言って川島君は言葉を区切り、紅茶に口をつける。
「安心しなよ。さつきちゃんの準備ができるまで、ぼくはいつまでも待つよ」
「川島君、やさしいのね」
「はは… なんか思い出すな」
「なにを?」
「去年の、まだ、つきあいはじめる前に、こうやって紅茶を飲みながら、『紅茶貴族』で話したことがあっただろ。『みんな、人間性を磨くより、凸凹をくっつけることにばっかり熱心だ』って」
「そういえば… そんな話、したわね」
「あの頃は、そうやって相手のからだを求めることが、本能に依存しただけの低級な欲望みたいな気がして、『お互いの人間性を高めるようなつきあい方がしたい』なんて、偉そうなこと言ってたけど、今じゃその欲望の中で溺れかけてる感じ。まったく、だらしない話だよな」
「そんなことない」
「やっぱりぼくは、なにも分かっちゃない、ドーテー君だったよ」
「え?」
「好きな人の存在って、なんて言うか… 圧倒的なんだよな~」
「…」
「キスしたときの唇とか、触れあった肌の感触が、寝ても醒めても思い出されちゃって、頭から離れなくなる。
さつきちゃんのこと、とても大事にしてあげたいって気持ちはあるのに、欲しくてたまらない気持ちが暴走しちまって、そのふたつがぶつかりあって、自分が抑えられなくなるんだよ」
「…」
川島君の言葉を聞いていて、なにも言えなくなる。
「な~んか、すっごく月並みでドン臭い言葉だけど、これが『おとなの階段』ってやつなのかなぁ~」
自分の気持ちを茶化すように、川島君がおどけてみせる。
わたしは胸のあたりが、ジンと熱くなった。
だって…
わたしの気持ちも、川島君とまったくいっしょだったから…
わたし、そんな彼が大好き。
この人になら、わたしのすべてを委ねられる。
ううん。
この人じゃなきゃ、イヤ。
ずっと川島君といっしょにいたい。
川島君といっしょなら、そんな階段だって、登っていくのも怖くはないかもしれない。
ため息が漏れるような、小さな声で、わたしは言った。
「…いいよ」
「え?」
「『おとなの階段』。いっしょに登っても…」
「さつきちゃん…」
つづく
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