Campus91

茉莉 佳

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12 CANARY ENSIS

CANARY ENSIS 15

 部屋に戻ると、テーブルには湯気を立てた暖かい紅茶と、焼きたての香ばしいトーストや、スクランブルエッグが用意されていて、川島君がバスローブ姿で、牛乳をコップに注いでいるところだった。
「おはよう」
テーブルにミルクピッチャーを置きながら、川島君は言う。
「お、おはよう。ごめんなさい。ちょっと散歩してて…」
わたしの言葉に川島君は、安堵したように微笑む。
「夜、いっしょのベッドに寝ていた人が、朝いないのって、すごい不安なものなんだな」
「ごめんなさい」
「いいよ。ちゃんと帰ってきてくれたから。さ、食事しよう。撮影の時間に遅れるよ」

 テーブルについて、川島君といっしょに朝食をとるのって、妙におもはゆい。
だけど、昨日までふたりの間にあった見えない大きな壁が、たった一晩で、なくなってしまったような気もする。
食事をしながら、わたしは川島君の姿をチラチラとのぞき見た。
愛撫してくれた彼の指先。
キスした唇。
愛をささやいたのど仏。
ぎゅっと抱きしめた太い腕…

今までとは違って、そんなものがなんだか身近に感じられ、生理的な愛着みたいなものを、川島君のからだに感じる。
今はまだ、顔を合わせるのも恥ずかしいし、ぎこちないけど、ふたりのからだのうちに、新しい愛情の形が生まれてきたのを、お互いが分かりあっていたと思う。



 食事のあと、わたしたちは急いで支度を整え、今日撮影をする予定の、水上コテージのあるビーチへ出た。
途中、川島君は撮影機材が置いてある部屋へ入り、両肩に大きな銀色のアルミバッグと三脚やスタンドが入ったバッグを持って出てくる。
「うわ。すごい、川島君、それひとりで持てるなんて!」
「はは。カメラマンは体力勝負だから。このくらいは担げなきゃ」
そう言いながら機材を運ぶ彼は、なんだか頼もしかった。

「おはよう。川島君にさつきちゃん。ずいぶん早いわね」
「お、川島君。もう機材出してるのか。熱心だな」
カメラマンの星川先生と首藤さんたちが、カメラや機材を抱えてビーチにやって来て、わたしたちに挨拶してくれた。川島君はまるで、ずいぶん前からアシスタントの仕事をしていたかのように、みんなに自然に混じって撮影機材を組み上げていく。途中から藤村さんも姿を見せた。

「やあ、さつきちゃん、おはよう。モルディブの朝はどうだい?」
「とっても気持ちいいです」
「それはよかった」

挨拶のあと、藤村さんはみんなに今日の撮影の流れと、最終的に変更になった部分などを伝えてくれた。
マネージャー代理のわたしの仕事は、みっこのスケジュール管理と、身の回りの世話。

「じゃあわたし、みっこの様子を見にいってきます」
そう告げてわたしはホテルに戻り、みっこの部屋をノックする。
「はい」
なかから返事がして、綿のキャミソールにショートパンツ姿のみっこが顔を出した。
「よろしくね。マネージャーさん」
そう言って、みっこはウィンクした。
あらかじめ貰っていたスケジュール表を取り出し、今日のスケジュールと、藤村さんから言われた変更点を告げる。
午前中にポスターのメインビジュアルを何パターンか撮影し、お昼の休憩を挟んで、午後からは機関誌のカット撮影。他にも販促物のイメージカットや、雑誌用の写真など、今日だけでもいろんな撮影があるみたいで、大変そう。

つづく
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