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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 22
モルディブロケも、3日目からはテレビコマーシャルの撮影に入り、カメラマンさんや照明さん、音声さんをはじめ、スタッフの数もかなり増え、みっこもずっと忙しくなった。
昨日と同じように、早朝からヘアとメイクをして、撮影を開始。
コマーシャル撮影では、映画撮影で使うような大きなシネマカメラに、カメラマンさんが何人も張りついて、操作しながら撮影する。
『監督』と呼ばれるいちばん偉いカメラマンさんが、ファインダーを覗きながらみっこに指示を出し、『セカンドカメラマン』がカメラの横に立ってピントを合わせ、『サードカメラマン』がレンズからみっこまでの距離を、メジャーで測ったりしている。
たまにメイク場所に戻ってくるみっこに、わたしは飲み物を持ってきたりする程度しか仕事がなく、それ以外はずっと撮影の見学をしていたけど、星川先生のスチル部隊は、コマーシャル撮影の合間に撮影をすることもあって、川島君はやっぱり忙しそうだった。
そんな撮影現場の中で、森田美湖はそれこそ、水を得たさかなのように、生き生きと動き回っていた。
『監督』の指示に従って、脚に真っ白な砂を絡めながら、ビーチをウォーキング。つま先までピンと伸びて、くいっと張られた胸が、凛々しくて爽やか。
スチール写真と違って、ムービーは動きがある分、みっこの演技も細かいところまでチェックされて、リテイクも何度も入るけど、そんなことも気にせずに、みっこはタフに撮影をこなしていく。
ビーチに座ってはるか彼方のリーフを見つめ、額に手をかかげて、わずかに瞳を細めて口元を緩める。
大きな送風機から送られる風に、長い髪がしなやかに舞っていて、その流れのひとつひとつまでが、みんな計算されているみたいに美しい。
『やっぱり森田美湖は、この世界のなかにいるのが、いちばん輝いて見える』
と、モデルをしているみっこの姿を見ていて感じてしまう。
そういうのってとっても嬉しくて、ちょっぴり寂しい。
一日いっぱいかけて、コマーシャル撮影はすべてのスケジュールを、トラブルなく終えた。
夜はかがり火が焚かれた中庭で、全員で盛大な打ち上げ立食パーティー。
明日はモルディブの風景や化粧品などの小物撮りで、みっこの出番はなく、わたしたちと先に帰国する予定になっている。
なので、みっこはスタッフの間を回り、クライアントさんや代理店の方々にはお礼を、スタッフたちにはねぎらいの言葉をかけていた。
「これでやっと心おきなく、ご馳走が食べられるわ」
とみっこは、撮影が終わった解放感で、今まで食べられなかった分を挽回するように、たくさん食べて飲んで、きゃっきゃとはしゃぎまわっていた。
パーティーが終わって、みんながぼちぼちと引き上げていったのは、もう真夜中近く。
頃合いを見計らって、わたしも川島君といっしょに、自分たちの部屋へ戻った。
「夜の海を泳いでみないか?」
お風呂に入る用意をしかけたわたしに、川島君は言った。
「夜の海? でも怖くない?」
「大丈夫だよ、あまり沖に出なけりゃ。リーフまでは浅いし、波もないし。月明かりもあって、きっと綺麗だよ」
「そうね… じゃあ、ちょっとだけ」
部屋で水着に着替えて、わたしたちはホテルを出た。
海岸を歩きながら、川島君はうきうきした声で言う。
「映画とかでよくあるじゃないか。恋人同士が夜の海を泳ぐシーン。モルディブみたいな綺麗な海で、ぼくもやってみたかったんだ」
「でも映画じゃ、そのあとだいたい、サメに襲われたり、殺人鬼が出てきたりするじゃない」
「ホラー映画じゃないんだけど」
「ふふ、冗談。だけど川島君って、ロマンティストなのね」
「そうかな? まあ、別に、泳ぐのだけが目的って訳じゃないし。昨日も今日も仕事が忙しくて、さつきちゃんとはあまり話せなかっただろ。最後の夜くらい、ふたりだけでゆっくりと、モルディブの海を楽しみたいと思ってさ」
「ふふ。嬉しい」
川島君はやっぱりやさしい。
ちょっと寂しかったわたしの気持ちを察してくれて、そんな風に気を遣ってくれたのね。
つづく
昨日と同じように、早朝からヘアとメイクをして、撮影を開始。
コマーシャル撮影では、映画撮影で使うような大きなシネマカメラに、カメラマンさんが何人も張りついて、操作しながら撮影する。
『監督』と呼ばれるいちばん偉いカメラマンさんが、ファインダーを覗きながらみっこに指示を出し、『セカンドカメラマン』がカメラの横に立ってピントを合わせ、『サードカメラマン』がレンズからみっこまでの距離を、メジャーで測ったりしている。
たまにメイク場所に戻ってくるみっこに、わたしは飲み物を持ってきたりする程度しか仕事がなく、それ以外はずっと撮影の見学をしていたけど、星川先生のスチル部隊は、コマーシャル撮影の合間に撮影をすることもあって、川島君はやっぱり忙しそうだった。
そんな撮影現場の中で、森田美湖はそれこそ、水を得たさかなのように、生き生きと動き回っていた。
『監督』の指示に従って、脚に真っ白な砂を絡めながら、ビーチをウォーキング。つま先までピンと伸びて、くいっと張られた胸が、凛々しくて爽やか。
スチール写真と違って、ムービーは動きがある分、みっこの演技も細かいところまでチェックされて、リテイクも何度も入るけど、そんなことも気にせずに、みっこはタフに撮影をこなしていく。
ビーチに座ってはるか彼方のリーフを見つめ、額に手をかかげて、わずかに瞳を細めて口元を緩める。
大きな送風機から送られる風に、長い髪がしなやかに舞っていて、その流れのひとつひとつまでが、みんな計算されているみたいに美しい。
『やっぱり森田美湖は、この世界のなかにいるのが、いちばん輝いて見える』
と、モデルをしているみっこの姿を見ていて感じてしまう。
そういうのってとっても嬉しくて、ちょっぴり寂しい。
一日いっぱいかけて、コマーシャル撮影はすべてのスケジュールを、トラブルなく終えた。
夜はかがり火が焚かれた中庭で、全員で盛大な打ち上げ立食パーティー。
明日はモルディブの風景や化粧品などの小物撮りで、みっこの出番はなく、わたしたちと先に帰国する予定になっている。
なので、みっこはスタッフの間を回り、クライアントさんや代理店の方々にはお礼を、スタッフたちにはねぎらいの言葉をかけていた。
「これでやっと心おきなく、ご馳走が食べられるわ」
とみっこは、撮影が終わった解放感で、今まで食べられなかった分を挽回するように、たくさん食べて飲んで、きゃっきゃとはしゃぎまわっていた。
パーティーが終わって、みんながぼちぼちと引き上げていったのは、もう真夜中近く。
頃合いを見計らって、わたしも川島君といっしょに、自分たちの部屋へ戻った。
「夜の海を泳いでみないか?」
お風呂に入る用意をしかけたわたしに、川島君は言った。
「夜の海? でも怖くない?」
「大丈夫だよ、あまり沖に出なけりゃ。リーフまでは浅いし、波もないし。月明かりもあって、きっと綺麗だよ」
「そうね… じゃあ、ちょっとだけ」
部屋で水着に着替えて、わたしたちはホテルを出た。
海岸を歩きながら、川島君はうきうきした声で言う。
「映画とかでよくあるじゃないか。恋人同士が夜の海を泳ぐシーン。モルディブみたいな綺麗な海で、ぼくもやってみたかったんだ」
「でも映画じゃ、そのあとだいたい、サメに襲われたり、殺人鬼が出てきたりするじゃない」
「ホラー映画じゃないんだけど」
「ふふ、冗談。だけど川島君って、ロマンティストなのね」
「そうかな? まあ、別に、泳ぐのだけが目的って訳じゃないし。昨日も今日も仕事が忙しくて、さつきちゃんとはあまり話せなかっただろ。最後の夜くらい、ふたりだけでゆっくりと、モルディブの海を楽しみたいと思ってさ」
「ふふ。嬉しい」
川島君はやっぱりやさしい。
ちょっと寂しかったわたしの気持ちを察してくれて、そんな風に気を遣ってくれたのね。
つづく
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