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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 24
「みっ…」
彼女に近づこうとして、わたしは足を止めた。
芝生の上で、みっこは海に向かって、わたしに背を向けるように座っていたけど、そのとなりに寄り添うように、だれかがいたからだ。
大きなシルエット。
男の人…
えっ?
藤村さん!?
ふたりのシルエットは、海に揺れる月の光の中に、ぼんやりと浮かんでいた。いったいこんな所で、ふたりっきりでなにを話してるの?
昼間はあんなにざっくばらんに接していて、まるで親子か、年の離れた兄妹みたいにしか見えなかったふたりは、今はまるで恋人同士のように、ぴったりとからだを寄せあっている。とても話しかけられるような雰囲気じゃない。
みっこは顔を上げて、藤村さんを見つめた。
藤村さんは、みっこの頬に手を添える。
『あっ…』
心の中で、思わず叫んた。
ふたりはゆっくり近づきあうと、キスをした。
ふたつのシルエットは、ひとつになる。
長いキス。
そのまま藤村さんはみっこを横たえ、重なりあった。
しばらくすると、ため息が漏れるような、みっこのよがり声が聞こえてきた気がした。
『これ以上は見ちゃいけない!』
わたしはそう感じて、音を立てないように注意しながら、素早くその場を離れた。
急ぎ足でホテルに戻りながら、心臓が激しく脈打ち、混乱した。
『なんだか、羨ましいな~』
と、みっこがわたしと川島君のことを言っていたのは、つい昨日のこと。
『肌を重ねあえる人がすぐ近くにいるって、最高に幸せなことよね』
とみっこは、恋人なんかいないような口ぶりだった。
なのに、その次の日の夜には、もう、あんなことをしているなんて…
みっこと藤村さんって、恋人同士だったの?
みっこからは今まで、そんな話は聞いたことがないし、今度のロケでだって、まったくそんなそぶりは、ふたりとも見せていなかった。
例えふたりが恋人同士だとしても、それは別に構わないんだけど、藤村さんには別居中とはいえ、奥さんがいるようだし、みっこもそれは知っている。
そういう類いの恋愛は、誰にも知られずに、秘めやかにしなきゃいけないってのも、よくわかるつもり。もちろん、親友のわたしにさえ、言えないことだってあると思うし…
『わがままで生意気な小娘』のみっこには、確かに藤村さんみたいな、うんと年上の包容力のある男性がお似合いだとは思う。
だけど、みっこがわざわざ、そんなリスキーな相手に飛び込んだりする?
もちろん、恋なんて、どういうきっかけではじまるかわかんないし、好きって気持ちは理性で抑えられるものじゃないし。
それに、わたしなんかが、首を突っ込むことじゃないとは思うけど…
ただ…
今、確かなのは…
みっこにも『肌を重ねあえる人』がいるっていう、事実。
「さつきちゃん!?」
ホテルの中庭に入ったところで、缶コーヒーを手にした川島君とはちあわせた。わたしを見てびっくりした様子。
「どうしたんだ? 海で待っててくれればいいのに」
「ごめんなさい。ちょっと…」
言いかけて、わたしは口を噤んだ。
こんなこと、とても言えない。川島君には。
ううん。
川島君だけじゃなく、他のだれにも、今、わたしの見たことは、話せない気がする。
もちろん、みっこにも…
「あんまり遅いんで、心細くなっちゃって」
わたしはそう言って、ごまかした。
「ごめん。冷たいコーヒーしかなかったから、部屋のポットであたためていたんだよ」
「じゃ、部屋に戻りましょ」
「戻るって?」
「う… うん。もう遅いし… 部屋でくつろぐのもいいかなと思って」
「それもそうだな」
そう言った川島君の腕を、わたしはぎゅっと抱きしめる。
「どうしたんだい?」
「ううん。なんでもない」
…なんだか熱い。
気持ちが妙に昂っていて、今はこうやってくっついていたい気分。
みっこのラブシーンなんか見ちゃったせいかな?
どんな事情があるにしても、その時が来れば、みっこもきっと話してくれるわよね。
今夜見たできごとに関しては、わたしはみっこからの告白を待つことにした。
部屋に戻ったわたしたちは、いっしょにシャワーを浴びながら、海での続きのように抱きあった。
わたしは川島君が好き。
大好き!
その気持ちはどんどん大きくなって、もう言葉で告げるだけじゃ、物足りない。
わたしは川島君がほしい。
心だけじゃなく、からだも、なにもかも。
わたしは川島君に、触れてほしい。
頬に、唇に、胸に。
もっともっと、触れてほしい。
川島君に触れてもらえると、とっても幸せな気持ちになってくるから。
シャワーを浴びたあと、飽きることもなく、わたしたちはベッドでお互いを求めあった。
つづく
彼女に近づこうとして、わたしは足を止めた。
芝生の上で、みっこは海に向かって、わたしに背を向けるように座っていたけど、そのとなりに寄り添うように、だれかがいたからだ。
大きなシルエット。
男の人…
えっ?
藤村さん!?
ふたりのシルエットは、海に揺れる月の光の中に、ぼんやりと浮かんでいた。いったいこんな所で、ふたりっきりでなにを話してるの?
昼間はあんなにざっくばらんに接していて、まるで親子か、年の離れた兄妹みたいにしか見えなかったふたりは、今はまるで恋人同士のように、ぴったりとからだを寄せあっている。とても話しかけられるような雰囲気じゃない。
みっこは顔を上げて、藤村さんを見つめた。
藤村さんは、みっこの頬に手を添える。
『あっ…』
心の中で、思わず叫んた。
ふたりはゆっくり近づきあうと、キスをした。
ふたつのシルエットは、ひとつになる。
長いキス。
そのまま藤村さんはみっこを横たえ、重なりあった。
しばらくすると、ため息が漏れるような、みっこのよがり声が聞こえてきた気がした。
『これ以上は見ちゃいけない!』
わたしはそう感じて、音を立てないように注意しながら、素早くその場を離れた。
急ぎ足でホテルに戻りながら、心臓が激しく脈打ち、混乱した。
『なんだか、羨ましいな~』
と、みっこがわたしと川島君のことを言っていたのは、つい昨日のこと。
『肌を重ねあえる人がすぐ近くにいるって、最高に幸せなことよね』
とみっこは、恋人なんかいないような口ぶりだった。
なのに、その次の日の夜には、もう、あんなことをしているなんて…
みっこと藤村さんって、恋人同士だったの?
みっこからは今まで、そんな話は聞いたことがないし、今度のロケでだって、まったくそんなそぶりは、ふたりとも見せていなかった。
例えふたりが恋人同士だとしても、それは別に構わないんだけど、藤村さんには別居中とはいえ、奥さんがいるようだし、みっこもそれは知っている。
そういう類いの恋愛は、誰にも知られずに、秘めやかにしなきゃいけないってのも、よくわかるつもり。もちろん、親友のわたしにさえ、言えないことだってあると思うし…
『わがままで生意気な小娘』のみっこには、確かに藤村さんみたいな、うんと年上の包容力のある男性がお似合いだとは思う。
だけど、みっこがわざわざ、そんなリスキーな相手に飛び込んだりする?
もちろん、恋なんて、どういうきっかけではじまるかわかんないし、好きって気持ちは理性で抑えられるものじゃないし。
それに、わたしなんかが、首を突っ込むことじゃないとは思うけど…
ただ…
今、確かなのは…
みっこにも『肌を重ねあえる人』がいるっていう、事実。
「さつきちゃん!?」
ホテルの中庭に入ったところで、缶コーヒーを手にした川島君とはちあわせた。わたしを見てびっくりした様子。
「どうしたんだ? 海で待っててくれればいいのに」
「ごめんなさい。ちょっと…」
言いかけて、わたしは口を噤んだ。
こんなこと、とても言えない。川島君には。
ううん。
川島君だけじゃなく、他のだれにも、今、わたしの見たことは、話せない気がする。
もちろん、みっこにも…
「あんまり遅いんで、心細くなっちゃって」
わたしはそう言って、ごまかした。
「ごめん。冷たいコーヒーしかなかったから、部屋のポットであたためていたんだよ」
「じゃ、部屋に戻りましょ」
「戻るって?」
「う… うん。もう遅いし… 部屋でくつろぐのもいいかなと思って」
「それもそうだな」
そう言った川島君の腕を、わたしはぎゅっと抱きしめる。
「どうしたんだい?」
「ううん。なんでもない」
…なんだか熱い。
気持ちが妙に昂っていて、今はこうやってくっついていたい気分。
みっこのラブシーンなんか見ちゃったせいかな?
どんな事情があるにしても、その時が来れば、みっこもきっと話してくれるわよね。
今夜見たできごとに関しては、わたしはみっこからの告白を待つことにした。
部屋に戻ったわたしたちは、いっしょにシャワーを浴びながら、海での続きのように抱きあった。
わたしは川島君が好き。
大好き!
その気持ちはどんどん大きくなって、もう言葉で告げるだけじゃ、物足りない。
わたしは川島君がほしい。
心だけじゃなく、からだも、なにもかも。
わたしは川島君に、触れてほしい。
頬に、唇に、胸に。
もっともっと、触れてほしい。
川島君に触れてもらえると、とっても幸せな気持ちになってくるから。
シャワーを浴びたあと、飽きることもなく、わたしたちはベッドでお互いを求めあった。
つづく
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