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12 CANARY ENSIS
CANARY ENSIS 25
モルディブの空の玄関口、マーレ空港に着いたのは、翌日の午後だった。
もうすっかり慣れっこになってしまった、熱帯独特の高気圧の爽やかな風と、ほとんど影を作らない日射し。
ずいぶん長いこと、わたしたちはここにいるような気がするけど、この空港に降り立って、モルディブの景色と気候に興奮したのは、たった三日前のことなのよね。
「藤村さんの言うとおり、後半は遊ぶ暇もなかったわね」
大きなトラベルバッグを転がしながら、わたしは川島君に言った。
「しかたないさ。いちおう仕事で来てるんだし。でもとっても思い出に残る旅行だったよ」
「あら、川島君。『いちおう』なんてことないわよ」
「え?」
みっこの言葉に、川島君は聞き返す。
「星川先生たち、とっても褒めてたわよ。『川島君はよく働くし、覚えも早いしセンスもいい』って」
「そうなんだ。なんだか照れるな」
「川島君、頑張ってたもんね」
「うん。わたしも、川島くんの働きっぷりには、かなり感心してた」
「さつきもそう思うでしょ。あたしも今までの撮影で、いろんなスタッフを見てきたけど、はじめて入ったプロの現場で、あれだけ機転がきいて動ける人って、初めてだわ。尊敬しちゃう」
「あ、ありがとう森田さん。ただ、必死ににやってただけで、周りのすごさに圧倒されっぱなしだったよ」
「少しは収穫になれたんだったら、よかったわ」
「少しなんてもんじゃないよ。今回のロケは、ぼくのカメラマン人生を変えるような5日間だったよ。
さつきちゃんのおまけとはいえ、ぼくを推薦してくれて、本当にありがとう!」
感激してお礼を言う川島君を、みっこは『お疲れさま』とねぎらい、ニッコリと微笑んだ。
空港までは、星川先生と藤村さんが、わたしたちを見送りについてきてくれた。
撮影スタッフはあと明後日までここに残るらしく、帰りの飛行機はわたしたち三人と、みっこの所属しているモデル事務所の社長さん、メイクの仲澤さんにヘアのYUKOさん、スタイリストの鞠江さんだけだった。
「行きは成田からシンガポール経由で来たけど、帰りは飛行機の都合で、インドのカルカッタ経由になったの。カルカッタを今夜遅く発って、機中で一泊して、明日の朝に成田に着くわ。福岡に戻ってくるのは午後になるわね」
みっこはわたしたちにそう説明してくれた。
空港のロビーで、わたしたちの搭乗手続きを終えた藤村さんは、みっこに右手を差し出して言った。
「じゃあ、みっこちゃん、ぼくらはもうロケに戻るけど、気をつけて帰るんだよ」
「文哉さんもお元気で。残りのお仕事も頑張ってください」
「ありがとう。みっこちゃんのモデル復帰最初の大仕事だし、ぼくも悔いのないようにやるよ。
みっこちゃんもこれからモデル、頑張れよ!」
握手する手にひときわ力を込めた藤村さんは、みっこを励ますようにポンポンと肩を叩く。
そのあとわたしたちを振り返り、軽く手を挙げて微笑んだ。
「また向こうで会おう。さつきちゃんに川島君も、元気で!」
「さよなら、文哉さん」
「みっこちゃん。現像上がったら、見せてあげるわね~」
「楽しみにしてます、センセ!」
みっこはそう言って、藤村さんや星川先生に手を振った。
みっこ…
お互い、名残惜しそうにしているものの、藤村さんとみっこと間に感じる雰囲気は、昨日までとまったく同じ。
今のふたりを見ていると、『昨夜のことは夢かまぼろしかな?』なんて思ってしまう。
宵闇で暗かったし、もしかしたら、あのときみっこと藤村さんだと思っていたシルエットは、実は違う人だったのかもしれない。
昨夜の自分の記憶に、なんだか自信が持てなくなってしまう。
つづく
もうすっかり慣れっこになってしまった、熱帯独特の高気圧の爽やかな風と、ほとんど影を作らない日射し。
ずいぶん長いこと、わたしたちはここにいるような気がするけど、この空港に降り立って、モルディブの景色と気候に興奮したのは、たった三日前のことなのよね。
「藤村さんの言うとおり、後半は遊ぶ暇もなかったわね」
大きなトラベルバッグを転がしながら、わたしは川島君に言った。
「しかたないさ。いちおう仕事で来てるんだし。でもとっても思い出に残る旅行だったよ」
「あら、川島君。『いちおう』なんてことないわよ」
「え?」
みっこの言葉に、川島君は聞き返す。
「星川先生たち、とっても褒めてたわよ。『川島君はよく働くし、覚えも早いしセンスもいい』って」
「そうなんだ。なんだか照れるな」
「川島君、頑張ってたもんね」
「うん。わたしも、川島くんの働きっぷりには、かなり感心してた」
「さつきもそう思うでしょ。あたしも今までの撮影で、いろんなスタッフを見てきたけど、はじめて入ったプロの現場で、あれだけ機転がきいて動ける人って、初めてだわ。尊敬しちゃう」
「あ、ありがとう森田さん。ただ、必死ににやってただけで、周りのすごさに圧倒されっぱなしだったよ」
「少しは収穫になれたんだったら、よかったわ」
「少しなんてもんじゃないよ。今回のロケは、ぼくのカメラマン人生を変えるような5日間だったよ。
さつきちゃんのおまけとはいえ、ぼくを推薦してくれて、本当にありがとう!」
感激してお礼を言う川島君を、みっこは『お疲れさま』とねぎらい、ニッコリと微笑んだ。
空港までは、星川先生と藤村さんが、わたしたちを見送りについてきてくれた。
撮影スタッフはあと明後日までここに残るらしく、帰りの飛行機はわたしたち三人と、みっこの所属しているモデル事務所の社長さん、メイクの仲澤さんにヘアのYUKOさん、スタイリストの鞠江さんだけだった。
「行きは成田からシンガポール経由で来たけど、帰りは飛行機の都合で、インドのカルカッタ経由になったの。カルカッタを今夜遅く発って、機中で一泊して、明日の朝に成田に着くわ。福岡に戻ってくるのは午後になるわね」
みっこはわたしたちにそう説明してくれた。
空港のロビーで、わたしたちの搭乗手続きを終えた藤村さんは、みっこに右手を差し出して言った。
「じゃあ、みっこちゃん、ぼくらはもうロケに戻るけど、気をつけて帰るんだよ」
「文哉さんもお元気で。残りのお仕事も頑張ってください」
「ありがとう。みっこちゃんのモデル復帰最初の大仕事だし、ぼくも悔いのないようにやるよ。
みっこちゃんもこれからモデル、頑張れよ!」
握手する手にひときわ力を込めた藤村さんは、みっこを励ますようにポンポンと肩を叩く。
そのあとわたしたちを振り返り、軽く手を挙げて微笑んだ。
「また向こうで会おう。さつきちゃんに川島君も、元気で!」
「さよなら、文哉さん」
「みっこちゃん。現像上がったら、見せてあげるわね~」
「楽しみにしてます、センセ!」
みっこはそう言って、藤村さんや星川先生に手を振った。
みっこ…
お互い、名残惜しそうにしているものの、藤村さんとみっこと間に感じる雰囲気は、昨日までとまったく同じ。
今のふたりを見ていると、『昨夜のことは夢かまぼろしかな?』なんて思ってしまう。
宵闇で暗かったし、もしかしたら、あのときみっこと藤村さんだと思っていたシルエットは、実は違う人だったのかもしれない。
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