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13 Rainy Resort
Rainy Resort 4
3時半くらいまで湯布院のなかを回ったあと、わたしたちは九重高原へと向かった。
赤い『フェスティバ』を走らせながら、川島君は屋根のキャンバストップをオープンにする。
春のやわらかな光がクルマのなかいっぱいに射し込み、爽やかな風が流れ込んできた。
「見えてきたよ。あれが九重連山だ」
ハンドルを握っていた川島君は、前方の山並みを指差して言った。
しだいに高原の色を増してきたドライブウェイは、最後のカーブを抜けると、左右の視界が大きく開け、中腹から白い煙をたなびかせる山々が、わたしたちの目の前に広がった。
距離があるおかげで、山並みがやわらかな紫色にくすんで見える。
そういえば、わたしの好きな小説のなかに、こんな景色を謳ったものがあったな。
「山は紅葉してますし、すすきの穂波は白いのですけれど、私は高原にやわらかい紫がただよっている様に感じられた。私は信濃の高原くらいしか知りませんけど、この飯田高原は多くの人も言うように本当にロマンティックななつかしさです。やわらかくて明るくてそしてはるばるという思いをさせます」
「なあに? それ」
わたしの言葉を聞いて、みっこは首をかしげる。
「川端康成の『続・千羽鶴』の、九重高原についての感想よ。わたし、この小説が好きで何回も読んだから、なんとなく覚えてしまったの」
「お~! さすが、文学少女さつきちゃん」
「だけど今は春だから紅葉はないし、すすきだってまだ青いわ」
「もうっ。ふたりしてチャチャ入れるんだから」
そんなまったりした会話を乗せて、赤の『フェスティバ』は、滑るようにドライブウェイを抜けていった。
川島君がクルマを着けたのは,『白いピアノ』という看板のかかった、テニスコートとプールのある、映画に出てくるようなアーリーアメリカン調の、真っ白で綺麗なペンションの前。
少し赤味をおびてきた太陽が、ペンションの尖った屋根にかかっている。
「わぁ! 素敵なペンションね」
カンカン帽を頭の上にかざし、みっこは屋根の上の風見鶏をまぶしそうに見上げて言う。
まるでポーターのように、クルマからみんなの荷物をおろしてペンションに運び込んだ川島君は、少し息を弾ませて言った。
「食事までまだ時間があるし、とりあえずチェックインして、荷物を部屋においてから、九重山の方に行ってみよう」
チェックインをすませてもう一度クルマに乗り込み、九重の長者原というところまで来たときには、陽は西の山並にかかろうとしている頃だった。山の麓の広い駐車場に、川島君はクルマを止めた。
「この高原は、ちょうどちりそめね」
クルマから降りたわたしたちの足元に、ひらひらと桜の花びらが舞い降りる。
季節の遅い高原の桜は、ちょうど盛りをすぎた頃で、淡い桃色の花びらが、澄みきった風にあおられて、霧のように空に舞っていた。
「広い草原ね。サイロとかあって、なんだか北海道みたいな景色」
九重連山の麓に広がる青々とした草原を、みっこはゆっくりと見渡しながら言う。
「森の観察コースだって。ちょっと歩いてみようか」
川島君は、そびえ立った九重連山の方を向いている標識を見ながら、わたしたちを誘った。
つづく
赤い『フェスティバ』を走らせながら、川島君は屋根のキャンバストップをオープンにする。
春のやわらかな光がクルマのなかいっぱいに射し込み、爽やかな風が流れ込んできた。
「見えてきたよ。あれが九重連山だ」
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しだいに高原の色を増してきたドライブウェイは、最後のカーブを抜けると、左右の視界が大きく開け、中腹から白い煙をたなびかせる山々が、わたしたちの目の前に広がった。
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「なあに? それ」
わたしの言葉を聞いて、みっこは首をかしげる。
「川端康成の『続・千羽鶴』の、九重高原についての感想よ。わたし、この小説が好きで何回も読んだから、なんとなく覚えてしまったの」
「お~! さすが、文学少女さつきちゃん」
「だけど今は春だから紅葉はないし、すすきだってまだ青いわ」
「もうっ。ふたりしてチャチャ入れるんだから」
そんなまったりした会話を乗せて、赤の『フェスティバ』は、滑るようにドライブウェイを抜けていった。
川島君がクルマを着けたのは,『白いピアノ』という看板のかかった、テニスコートとプールのある、映画に出てくるようなアーリーアメリカン調の、真っ白で綺麗なペンションの前。
少し赤味をおびてきた太陽が、ペンションの尖った屋根にかかっている。
「わぁ! 素敵なペンションね」
カンカン帽を頭の上にかざし、みっこは屋根の上の風見鶏をまぶしそうに見上げて言う。
まるでポーターのように、クルマからみんなの荷物をおろしてペンションに運び込んだ川島君は、少し息を弾ませて言った。
「食事までまだ時間があるし、とりあえずチェックインして、荷物を部屋においてから、九重山の方に行ってみよう」
チェックインをすませてもう一度クルマに乗り込み、九重の長者原というところまで来たときには、陽は西の山並にかかろうとしている頃だった。山の麓の広い駐車場に、川島君はクルマを止めた。
「この高原は、ちょうどちりそめね」
クルマから降りたわたしたちの足元に、ひらひらと桜の花びらが舞い降りる。
季節の遅い高原の桜は、ちょうど盛りをすぎた頃で、淡い桃色の花びらが、澄みきった風にあおられて、霧のように空に舞っていた。
「広い草原ね。サイロとかあって、なんだか北海道みたいな景色」
九重連山の麓に広がる青々とした草原を、みっこはゆっくりと見渡しながら言う。
「森の観察コースだって。ちょっと歩いてみようか」
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つづく
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