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13 Rainy Resort
Rainy Resort 6
部屋で落ち着くひまもなく、わたしたちはすぐに食堂に降りていき,テーブルについた。
今日は平日というのもあって、セッティングしてあるテーブルは、わたしたちの他にふたつしかない。
わたしたちより少し上の年齢くらいの女の子4人のグループと、恋人同士らしい若いカップルが、それぞれのテーブルにやってきて、食堂は少し賑やかになった。
「コンソメと馬鈴薯のヴィシソワーズです」
口髭を生やしたペンションのオーナー兼シェフらしい人が、涼しげなガラスのスープ皿を持ってきて、ディナーがはじまった。
ヴィシソワーズは、ジャガイモの歯触りがわずかに残っていて、さっぱりして美味しいし、大分名産のカボスで酸味を整えたサラダも、野菜がしゃっきりしていて食欲をそそる。
脂が勢いよくはじける音を立てて運ばれてきた、豊後牛のステーキは、ワイルドだったけど、とってもやわらかくってジューシィで、旨味がある。川島君の分を一切れもらって、さらに満足(笑)。
食後のデザートのアイスクリームは、ハーブが入っていて爽やか。チーズケーキもまったりとコクがあって、ディナーの最後を飾るのにふさわしかった。
「とってもおいしかった!」
エスプレッソのデミタスカップを満足そうに口もとに運びながら、みっこは微笑んだ。
モルディブでは毎日がいろんなできごとの連続で、めまぐるしくて慌ただしかったけど、今度の旅行はなんだかとってものどかで、久し振りにゆっくりできた気がする。
みっこはコーヒーを飲みながら室内を見渡していたが、となりのリビングルームを見て、目を輝かせた。
「グランドピアノがあるわ! しかも白。ペンションの名前のとおりね」
リビングルームの方を見ると、確かに部屋の窓際には、白いグランドピアノが置いてある。
「そう言えばみっこは、『ピアノを弾くのが趣味』って言ってたわね」
「ええ。うちにもあったでしょ。電子ピアノだけどね。やっぱり生のグランドピアノの方が響きがよくって、弾いててご機嫌なのよ」
「わたし、みっこのピアノ聴いてみたいな」
「最近あまり弾いてないからな~… 指がちゃんと動かないかも」
「ぼくもピアノ曲は大好きなんだ。特にショパンとかドビュッシーとか。弾けるんだったら聴かせてよ」
「川島君… そうなんだ」
「どうぞ。弾いていいですよ」
お皿を下げにきたオーナーさんが、親しげにみっこに微笑み、そう言ってくれた。
「え? ありがとうございます。じゃあ…」
みっこはそう言って席を立ち、グランドピアノのトップボードを開けると、鍵盤の前の椅子に座って、高さを調節する。わたしたちも食事を終えて、ピアノの回りのソファーに腰をおろした。
“ポロンポロン♪…”
少し指を慣らして、みっこが奏ではじめた曲は、有名なショパンのノクターン第2番変ホ長調。
…うまい!
いつかみっこは、『好きなのはピアノを弾くことと、踊ること』って言ってたけど、ダンスと同じように、ピアノもとっても上手。
姿勢よくピンと背筋を伸ばして、指先も軽やかに、流れるように鍵盤を撫でていく。
彼女の奏でるショパンの甘い旋律は、わたしの耳を心地よく揺さぶった。
この曲は切ないくらいに美しく、涙が出てきそうになる。
同じくショパンの『幻想即興曲』に、ドビュッシーの『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』と、三・四曲続けさまに弾いているうちに、リビングルームには他のお客さんも集まってきて、リトル・コンサートのようになった。
久し振りにグランドピアノが弾けたのが、みっこはよっぽど嬉しいらしく、川島君が好きだと言っていたドビュッシーやショパンの曲を次々と披露していく。わたしたちも、みっこの奏でるよどみない綺麗な旋律に、聴き入っていた。
つづく
今日は平日というのもあって、セッティングしてあるテーブルは、わたしたちの他にふたつしかない。
わたしたちより少し上の年齢くらいの女の子4人のグループと、恋人同士らしい若いカップルが、それぞれのテーブルにやってきて、食堂は少し賑やかになった。
「コンソメと馬鈴薯のヴィシソワーズです」
口髭を生やしたペンションのオーナー兼シェフらしい人が、涼しげなガラスのスープ皿を持ってきて、ディナーがはじまった。
ヴィシソワーズは、ジャガイモの歯触りがわずかに残っていて、さっぱりして美味しいし、大分名産のカボスで酸味を整えたサラダも、野菜がしゃっきりしていて食欲をそそる。
脂が勢いよくはじける音を立てて運ばれてきた、豊後牛のステーキは、ワイルドだったけど、とってもやわらかくってジューシィで、旨味がある。川島君の分を一切れもらって、さらに満足(笑)。
食後のデザートのアイスクリームは、ハーブが入っていて爽やか。チーズケーキもまったりとコクがあって、ディナーの最後を飾るのにふさわしかった。
「とってもおいしかった!」
エスプレッソのデミタスカップを満足そうに口もとに運びながら、みっこは微笑んだ。
モルディブでは毎日がいろんなできごとの連続で、めまぐるしくて慌ただしかったけど、今度の旅行はなんだかとってものどかで、久し振りにゆっくりできた気がする。
みっこはコーヒーを飲みながら室内を見渡していたが、となりのリビングルームを見て、目を輝かせた。
「グランドピアノがあるわ! しかも白。ペンションの名前のとおりね」
リビングルームの方を見ると、確かに部屋の窓際には、白いグランドピアノが置いてある。
「そう言えばみっこは、『ピアノを弾くのが趣味』って言ってたわね」
「ええ。うちにもあったでしょ。電子ピアノだけどね。やっぱり生のグランドピアノの方が響きがよくって、弾いててご機嫌なのよ」
「わたし、みっこのピアノ聴いてみたいな」
「最近あまり弾いてないからな~… 指がちゃんと動かないかも」
「ぼくもピアノ曲は大好きなんだ。特にショパンとかドビュッシーとか。弾けるんだったら聴かせてよ」
「川島君… そうなんだ」
「どうぞ。弾いていいですよ」
お皿を下げにきたオーナーさんが、親しげにみっこに微笑み、そう言ってくれた。
「え? ありがとうございます。じゃあ…」
みっこはそう言って席を立ち、グランドピアノのトップボードを開けると、鍵盤の前の椅子に座って、高さを調節する。わたしたちも食事を終えて、ピアノの回りのソファーに腰をおろした。
“ポロンポロン♪…”
少し指を慣らして、みっこが奏ではじめた曲は、有名なショパンのノクターン第2番変ホ長調。
…うまい!
いつかみっこは、『好きなのはピアノを弾くことと、踊ること』って言ってたけど、ダンスと同じように、ピアノもとっても上手。
姿勢よくピンと背筋を伸ばして、指先も軽やかに、流れるように鍵盤を撫でていく。
彼女の奏でるショパンの甘い旋律は、わたしの耳を心地よく揺さぶった。
この曲は切ないくらいに美しく、涙が出てきそうになる。
同じくショパンの『幻想即興曲』に、ドビュッシーの『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』と、三・四曲続けさまに弾いているうちに、リビングルームには他のお客さんも集まってきて、リトル・コンサートのようになった。
久し振りにグランドピアノが弾けたのが、みっこはよっぽど嬉しいらしく、川島君が好きだと言っていたドビュッシーやショパンの曲を次々と披露していく。わたしたちも、みっこの奏でるよどみない綺麗な旋律に、聴き入っていた。
つづく
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