Campus91

茉莉 佳

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13 Rainy Resort

Rainy Resort 11

 雨で気温が下がったせいで、湯船からは白い湯気が立ち上がり,浴室は薄くかすんでいる。
露天風呂は雨が降り込んでいるので、わたしたちは室内浴場の湯船につかった。
九重連山の見える窓は湯気で曇り、遠くの山々は雨にかすんで煙っている。
みっこは脚を湯船につけて窓辺に腰かけ、キュッキュと窓の水滴を拭いて、外の景色を眺めた。
「ほら、見てさつき。昨日あなたが言ってた小説みたいに、高原が薄紫色になってるわよ」
「ほんとね」
わたしもみっこのとなりに腰をおろし、いっしょに窓の外を眺めた。
シトシトと、霧のように小さな雨粒が窓に打ちつけ、山々を滲ませていく。
「みっこ。今度の旅行は、楽しかった?」
「もちろんよ。どうして?」
「うん… 雨が… 降ったから」
どんよりした窓の外の景色のように浮かない声で、わたしは答えた。
雨なんかのせいにしてしまったけど、ほんとはわたしの心の中にも、この暗い雨雲みたいな、すっきりしない『なにか』が、立ちこめているような気がした。
テニスをしているときに感じた『もやもや』や、さっきのみっこの言葉が、まだどこかにくすぶっているのかな?

みっこと川島君が親しくしているのを見るのは、わたしにとって、やっぱり愉快なものじゃない。
川島君はいつのまにか、森田美湖のことを『みっこちゃん』と呼ぶようになっている。
そういうのって、川島君のみっこに対する心の距離が、縮まってきたってことじゃない?
昨日と今日、川島君はわたしたちの写真をたくさん撮ってくれたけど、どう見ても、みっこにレンズを向けることが多かった気がする。
そりゃ、美人でスタイルもよくて、モデルをやってるみっこを『撮りたい』という気持ちは、わからないことはないけど、『川島君の彼女』として、彼が他の女性にばかりカメラを向けるのって、やっぱり複雑。
しかも、『そのうち、モデルしてほしいな』なんて、みっこを誘うようなことを言ったりして。
その言葉に対して、みっこも否定することはなかった。
それって、みっこが川島君に対して、好意を持ってるってことじゃないかしら。

「わたし、ちょっとのぼせちゃったみたいだから、先に上がるね」
そう言ってわたしは、みっこより先に湯船を出た。
カランから冷たい水を出して、二・三度、顔に浴びる。

わたしったら、なに考えてるんだろ。
親友のみっこのことを、そんな風に考えるなんて…
わたしって、心が狭いのかな?
イヤになる。



 結局、その日の午後も雨足は強くなるばかりで、しかたなくわたしたちは予定を変えて、少し早めに帰路につくことにした。
みっこのマンションは、帰りのルートからは遠回りになる場所にある。
『家まで送るよ』という川島君の言葉に、『ちょっと寄りたい所があるから』と、みっこは遠慮するように言い、市内の大きなターミナルの前でクルマを降りて、わたしたちと別れた。

家に帰り着き、旅行の片づけがすむと、わたしは机に向かって、おもむろに日記代わりのキャンパスノートを取り出し、ペンをとった。
パラパラとなんとなくページをめくりながら、わたしは今度の旅行のことを…
そしてみっこと川島君のことを考えていた。

 彼がはじめて森田美湖に会ったのは、去年の彼女の誕生日。
『Moulin Rouge』へ、ダブルデートで行ったときだった。
あのとき川島君は、みっこのことを『怖い』とか、『見事に親近感がない』とか、ちょっと敬遠しているような感想を言っていた。

あれから4ヶ月半。
その間に、撮影スタッフの一員としてモルディブに行ったり、今度みたいにいっしょにペンションに泊まったりと、わたしを通してとは言いながらも、川島君とみっこは少しづつ接近し、親しくなっている。
川島君の態度も、みっこに対して、好意的になってきた気がする。

それがイヤってわけじゃない。

川島君がわたしの親友に対して、好意を持ってくれるのは嬉しいんだけど、その『好意』は、『恋』に発展する危うさを秘めているかもしれない。
わたしは今日まで、その事実に無頓着だった。
もしかして、みっこが不自然なくらい、わたしと川島君に気兼ねするのは、彼女がそういう危険性を、本能的に心配しているからかもしれない。

わたしは日記をめくる手を止めて、なんとなく電話の受話器を握り、川島君の電話番号を押した。

つづく
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